護衛の海賊たちが取り囲む中で、カークリラーノスは外の様子を窺っていた。
爆音、剣戟、悲鳴。爆音が時折響き渡り、悲鳴が次々と重なる。
何者かは知らないが、見事な襲撃の手際だ。先に船を爆破して逃げ道を塞ぐと同時に混乱を起こし、さらに燃え盛る船を見せることで夜間視力を潰す。こちらが発見しないうちに離れた場所から攻撃を加えて可能な限り多くの海賊を斃す。時折爆発物を使ってこちらの混乱を深め、それに乗じ . . . 本文を読む
右目を閉じたまま、クランクに手をかける――本来弩の射撃において、片目を閉じるのは巧い手ではない。
片目を閉じると神経に負担がかかる。一度二度ならともかく、それを繰り返していることは目の疲弊を招く。
だが――
ナイフを握ったままの右手で、クランクを回す――歯車とワイヤーによって巻き上げられた弦が、機械的に装填される矢を次々と撃ち出す。たちまちのうちに男たちの数人が、針鼠の様になって斃れた。
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海賊たちの暮らす小屋のひとつ。先ほど船の見張りたちが見ていた小屋の中に、若い女性の声――喘ぎ声が響いている、さりとて、恋人の愛撫がもたらす快楽に喘いでいる様な甘やかな雰囲気は微塵も感じられない。どちらかというと、苦痛から逃れるために叫んでいるかの様だった。
その部屋は比較的調度が多かった。高価な本棚に絨緞、並べられた銅製の酒杯。軍艦の高級将校が使う様な紫檀の机。
隣の部屋を覗いてみよう。
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標的確認――胸中でつぶやいて、目を細める。
間違いあるまい。こいつらが、ターゲットの海賊団だ。
どうやらこの海賊団の頭は随分と嫌われているらしい――まあ、部下に慕われる様な人間は海賊になど落ちぶれまいが。
ひとりが動き出したのか、足音がこちらに近づいてくる。
「どうした?」
「小便だよ」
会話が聞こえ、彼は覆面の下の口元にゆっくりと笑みを浮かべた。足音のひとつが近づいてくる。
足音の移 . . . 本文を読む
双眼鏡で入り江に停泊した船の様子を確認しながら――彼は目を細めた。対物レンズが濡れているために見難かったが、さして問題無い――確認すべきことが確認出来れば、それで十分だ。
二隻の船に人は乗っておらず、見張りはふたりだけ。それも動きから察するに巡察動哨の動きではなく、船の損傷を確認しに来ているのだ。
さて、急がないとな――時間はあまり無い。見張りの交代が出ていけば、先ほど殺した見張りたちが発見 . . . 本文を読む
その夜は雨が降っていた。分厚く垂れこめた暗雲のために、空はまったく見えない。
この季節には、オラン海峡は海流の関係でよく大時化が訪れる。同じ緯度のほかの土地では大雪も珍しくないのだが、この海域は季節風の関係で雪が降るほど温度が下がらないのだ。その結果、雪竜の月、真冬だというのに地面が見えなくなるほどの大雨が頻繁に降る――今もちょうど、そんな時化の真っ最中だった。
風速三十五ヤードを超える暴風 . . . 本文を読む