梨木香歩
『不思議な羅針盤』★★★★
早緑
さみどり と読む。綺麗な響き。目で見ても。
人にはその人が発する特有の磁場のようなものがあり、それが心地よく感じられ
ると、繰り返しその人の元に通いたくなる。
はがきは速達ではない限り、相手の手元に届くまで数日かかる。メールなら瞬時
だ。
忙しさのあまり便利さを選ぶ心に、風流の棲みつく場所はない。
「東京のソバ屋のいいところは、昼さがり、女ひとりでふらりと入って、席に着
くや開口一番、『お酒冷やで一本』といっても、『ハーイ』と、しごく当たり前
に、つきだしと徳利が気持ち良く目前にあらわれることだ」
「野生」と付き合う
~ものとの付き合いは、自分との世界との折り合いの付け方の一つの象徴的な顕
れでのあるように思う。読書であれば、読みかけの本に栞を置く人、端をちょっ
と曲げる人、そのとき来た葉書を挟む人、線引き用の鉛筆を挟む人、ただ読んだ
ときのページのまま、ひっくり返しておく人、等々。
目的に沿ったやり方というものはあっても、正確なんてものはない。その人らし
さがあるだけだ。
五感の百パーセントをかき集めるようにして、丁寧に、例えば今、目の前にいる
相手と応対してみよう、と思う。バラバラになった自分が、そういうとき、きっ
と焦点を結ぶ。相手を大切に思う、というその一点に。
「いいもの」と「悪いもの」
ここで過去がFB
昔付き合っていた整体師のカレが穴のあいたボロ靴下をはいているのをみて
「別れよう」と思ったことを。
そこで世界は一変した。
窓の外では、ドバドが、デーデッポッポー、デーデッポッポーと鳴いている。
齢を重ねても、身近にそういう(生まれたての)存在がいなくても、世界を新し
く感じることができるのは、旅をしているときと、引っ越しをしたときである。
生活のすべてを一から始めなくてはならないという点では、旅より引っ越しの方
がよりそれに近い気分になっているかも知れない。
引っ越ししてしばらくは、見るもの聞くもの皆新鮮だ。家の内部がまず、目新し
い。今まで慣れ親しんだ家の動線とは違う動線を、一番効率的な動きのパターン
をつくらないといけない。その無意識の作業に、脳はたぶん、常時軽く興奮して
いるのだろう(しばらくは)。それから近所の郵便局、銀行、食物や生活用品を
買えるスーパー、小売店等、日常に必要な場所を把握するために脳内マップの作
成にも忙しい。さらに車を運転する人なら幹線道路から町内を走る道路との関係
等々。
引っ越しは、新しい本を読むことにも似ている、と思う。隅から隅まで読み尽く
すと次の本が読みたくなる。前の本が嫌いになったわけではないのだ。読み終わっ
た本は感慨をもって本棚に納めておき、そして新しい本が読みたくなる。どの本
も大切だがそれぞれの本の良さを語るためにも、別の本を知っておかなければな
らない気になる。だがもう、引っ越し歴もそろそろ終わりを迎えているような気
がしている。やはり体力のいる仕事なのである。
今までのお引越し回数は…6回
気になっていた『悪の法則』を二回続けてみた。
そして『凶悪』をみてる。『悪の教典』
悪ばっかり。