竹林の愚人  WAREHOUSE

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陶淵明 詩と酒と田園

2007-01-15 21:16:57 | BOOKS
堀江信夫 編 「陶淵明 詩と酒と田園」 東方書店 2006.11.20. 

田園の風光-いつでも人々の帰りくるのを待っている。朗らかな自然にあふれ、人々の日々のあくせくとした心を、ほっこりとほのかに、引き戻してくれる。酒はうまい。陶然とした気持ちに引き入れてくれる。酒と田園。どちらも陶淵明が愛したものだ。自らなる、自然なる、安らぎがそこにはある。 だが、実のところ田園は、決して自然なるものではない。むしろ人間の営為が徹底的に注ぎ込まれている。人為が徹底的に注入されているからこそ、田園は豊かである。 田園、まさに蕪(あ)れんとす-人間の営為の失われた田園は、もはや田園ではない。田園は人間の営為の賜物である。だから陶淵明の田園とは、あるがままの自らなる自然ではなかった。希望と挫折、裏切りと信頼、堕落と高貴、怠惰と勤勉、愛と憎しみ。田園とは、光と闇の交差する人間の営みのすべてが封入され、さらにその上に定位されてある自然であり、「真」であった。 裏切りと右顧左眄(うこさべん)、惨めで卑劣な処世に憂き身をやつすおのれの姿。そのおのれの姿を一歩離れて見ている醒めた自分がいる。だがその醒めたおのれも、やはり卑劣で惨めであるとしかいえない。どこまでいっても惨めさと卑劣さの呪縛を脱却できないおのれ。しかしそれを覚悟し、腹を決めたとき、開朗として開けがくる。開けとは「志」である。「真」を語る「言」である。