竹林の愚人  WAREHOUSE

Doblogで綴っていたものを納めています。

刑務所の風景

2007-01-07 21:48:35 | BOOKS
浜井浩一 「刑務所の風景-社会を見つめる刑務所モノグラフ」 日本評論社 2006.10.25.

現在、日本の刑務所のほとんどは定員を超えて受刑者を収容する、いわゆる「過剰収容」の状態にある。平成17年版犯罪白書によると、受刑者の平均収容率は117.6%で、約9割の刑務所で過剰収容状態が発生している。治安が悪化し、犯罪者が増加した結果、刑務所が満員御礼となったと考えるのは実に自然なことである。ところが、あらためて見つめ直すと、刑が確定して刑務所に入ってくる受刑者のほとんどが、ハンディキャップをもっている。65歳以上といった年齢、生活習慣病を中心とする疾病、手足の麻痺、視力低下、難聴などの身体障害、知的障害、覚せい剤後遺症による幻覚などの精神障害、そして、母国語が日本語でないコミュニケーションの障害である。刑務所の高齢化が一般社会を遥かに上回るスピードで進行し、刑務所で死亡する受刑者が急増している。刑務所は社会を映し出す鏡である。アメリカの研究でも福祉予算の比率が相対的に低く、弱者を切り捨てる不寛容な社会ほど、刑務所人口比が高いという研究がある。刑罰がすべての市民に等しく適用されるとすれば、社会的弱者を直撃するのは当然のことである。現在刑務所に続々と送り込まれている人たちは、身寄りのない高齢者・心身障害者、外国人、女性といった社会的マイノリティに属する者がほとんどである。2004年の刑が確定した外国人受刑者を国籍別で見ると、中国が最も多く47%、次いでブラジル9%、韓国・朝鮮8%、イラン7%、ベトナム5%などとなっている。最近5年間ではブラジル人、ベトナム人の増加が認められる。中国人の場合には不法在留者が多く、釈放後は退去強制となるが、ブラジル人の多くは日系であり、ベトナム人のほとんどは難民認定者で、在留資格を有し、釈放後も自動的には退去強制とならない事実上の定住者であった。フィンランドの研究者が、ヨーロッパ各国の刑務所人口の動向や受刑者の人口比を比較しながら、刑務所人口が何によってコントロールされているかを分析した結果、所得格差が少なく、社会保障費の割合が高く、人や社会に信頼感をもっているほど、刑務所人口が少ないという結論を見出した。フィンランドなどの北欧諸国が、他の先進国と異なり、厳罰化や大量拘禁といった社会病理に取り付かれていない理由は、格差が少なく、弱者に優しい点にあるのである。これは、勝ち組・負け組が明確に分かれ、格差社会が進行しつつあるとされる日本にとっても重要な提言を含んでいる。 昨今、格差社会の進行に加えて、犯罪不安の高まりを受けて、「子どもを犯罪から守ろう」を合言葉に、家庭を含めて地域社会全体で不審者狩りが始まっている。刑務所を満期釈放され、帰る所のない者は、地域社会にとっては不審者以外の何者でもない。家族も仕事もなく、地域社会からも排除された者は、どこに行けばいいのだろうか。彼らの居場所は、無人島にでも行かない限り、刑務所しかない。刑務所は、そうして社会から捨てられた人々の居場所となっている。それが過剰収容の原因の一つである。人が更生するために最も必要なものは、モラルでも強い意志でもない。社会での居場所である。弱者に優しい社会が作られることが過剰収容を克服するための最善の道なのではないだろうか。