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Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

蜂窩織炎になっちゃいました

2012年04月23日 | その他の雑記・メモなど
いきなり、足の感染症に罹ってしまいました。

なんだか左足のほうがヒリヒリ痛いなーと気づいてから約半日後には、
くるぶしから足の甲にかけて熱を持った赤い腫れが広がってしまい、
歩くのも難しい状態まで悪化。
夜遅くだったので医者にも行けず、症状からインターネットで検索してみたところ、
どうやら菌による炎症である蜂窩織炎(蜂巣炎)の疑いが強そうです。

氷で冷やしながら、痛みでまんじりともできない夜を明かした翌日、
すぐに病院の皮膚科に行ったところ、やはり足の蜂窩織炎とのこと。
幸いにもまだ症状がひどいほうではないため、即入院という事態はならず、
抗生剤を服用しながら自宅で安静にして、経過を見ると言われました。

今はようやく腫れと赤みがひき始めたところですが、足首を曲げると
まだ痛みが強くて、立ったり歩いたりが難儀です。
まあ無理に歩き回ると、感染が広がって膝までパンパンに腫れるそうなので、
むしろ歩けないほうがまだマシかも。
医師からは、悪いほうの足を挙げておとなしく寝てるように命じられました。

そのままでは退屈だし、かといって痛みで本を読む集中力もないので、
こうしてブログの記事を書きながら気をまぎらわせているところです(^^;。

しかし、早めに診察を受けてよかった。
もっと悪化してたら入院して、抗生剤入りの点滴を受けるところでした。
それと今は患部が硬く腫れてますが、この腫れがさらにひどくなってきて、
押すとぶよぶよしたきたら、内部に膿が溜まってしまっているとのこと。
抗生剤は膿の中までは入っていかないので、こうなったら患部を切開して
膿を出し、切った箇所を洗浄しなきゃいけないそうです。
さらに重症化すると関節や全身にまで感染が広がって高熱を発したり、
脚の壊疽にまで至ることもあるとか・・・。

今は抗生剤のおかげで、この病気も比較的早く治せるようになりましたが、
抗生剤のなかった時代にも、細菌で皮膚が腫れる病気は多かったはず。
例えば本草綱目にも、この病気の一種である「丹毒」の処方が載っていますが、
その内容はなんと「人糞と甘草を調合したもの」だそうです。
解熱・解毒の作用があるとのことですが、それを塗られるのはいやだなぁ・・・。

昔は全身感染で亡くなったり、壊死で脚を切る例も多かったんじゃないでしょうか。
・・・そう考えると、『JIN -仁-』で、江戸時代にペニシリンを作るという設定がいかに画期的であり、
かつ大きな歴史改変だったのかということを、わが身をもって実感した思いです(^^;。
ホント、現代に生まれてつくづくよかった。

蜂窩織炎の原因菌は小さな傷からでも感染するそうですが、
特に傷がなくても発症することもあるとか。
もしや先日、大友克洋GENGA展を見たときに張り切りすぎたせいで、
足首に余計な負担をかけちゃったせいなのか?とも思いましたが、
それからちょっと間も空いてますしね・・・。
結局のところ、詳しい原因についてはわかりません。
まあちょっとしたきっかけで、誰でもなり得る病気ってことらしいです。

皆さんもあまり無茶はせず、痛いとか調子がおかしいと感じたら、
すぐお医者さんへ行ってくださいね。
コメント (4)
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雑誌レビュー:BRUTUS「大友克洋、再起動。」/芸術新潮「大友克洋の衝撃」

2012年04月18日 | マンガ・コミック
5/30まで開催中の「大友克洋GENGA展」に関連して、大友特集を組んだ雑誌が
続けて2誌発売されました。

 

それぞれになかなか個性的な内容でおもしろかったので、両誌の比較なども交えながら
紹介させていただきます。

まずは「BRUTUS」の2012年4/15号「大友克洋、再起動。」から。
既に週刊少年サンデーの新連載や新作アニメの詳細情報といった記事が話題になってますが、
ここで注目したいのはその図版の量と、多数の著名人から寄せられた大友作品への感想です。

大友氏は同誌のクール・ジャパン特集や「Tarzan」の自転車特集の表紙などを手がけており、
マガジンハウスとは長い付き合いの間柄。
その深い関係は誌面にもはっきりと表れており、『AKIRA』の縮小原稿112ページを初めとする
多数の図版と、大友氏のアトリエや本棚といった写真に加え、各界著名人の声や大友作品の年譜、
さらにアメリカの大友フリーク取材や、『AKIRA』の担当編集者による連載当時の秘話等をまとめた
綴じ込み別冊「大友克洋、再入門。」、おまけにステッカーまで付属するという充実ぶり。
特集記事の端々に至るまで、大友氏への絶大なリスペクトが感じられます。



特に松岡正剛氏やギレルモ・デル・トロが『AKIRA』を語り、会田誠氏と名和晃平氏らが
大友体験を振り返る「大友克洋、再入門」は、他では読めないほど豪華な内容です。
今は亡きメビウスが、かつて大友氏について語ったインタビューも再録されてますし、
これは「大友以後」のサブカルチャーを振り返る上でも、重要な資料といえるでしょう。

ただし、登場する語り手の数や図版の量があまりに多すぎるせいで、逆に読むほうが
その圧倒的な物量と多彩な視点に翻弄されてしまうのでは・・・というのが、本誌に感じる
唯一の不安でしょうか。

さて、この特集の目玉のひとつだと思われる、大友克洋氏と井上雄彦氏の対談記事について。

一連の動作の中の瞬間を切り取って、まるで報道写真のように見せる大友氏の描写は、
マンガの世界に「説得力」と「臨場感」を与えました。
そして、この表現をスポーツマンガに応用することで、ベタフラッシュと集中線の多用から
抜け出すことに成功し、選手の動きと試合の展開に「説得力」と「臨場感」をもたらしたのが、
井上氏の代表作『SLAM DUNK』という作品ではないだろうか・・・と、私は考えています。

その意味で、今回の顔合わせは単なる人気作家同士の対談以上に大きな意味があると思い、
どんなすごい話が出るだろうかと期待したのですが・・・。
実際には正味6ページ、文字部分だけ見れば3ページ弱という構成は、他の記事に比べて
さすがに分量が足りませんでした。
できれば互いの作品について、もっと深く突っ込んだやりとりを交わして欲しかった。

・・・実はここに載っているよりも多くの話が交わされていて、後ほど書籍化される予定が
すでに決まっている、というオチがつくのかもしれませんが(笑)。


さて、とにかく大友克洋に関する情報を網羅しようとがんばった感じの「BRUTUS」に対して、
「芸術新潮」2012年4月号の「大友克洋の衝撃」は、美術雑誌らしい切り口によって、
大友克洋という創作者とその作品を、じっくり「解読」しようと試みています。



登場人数や図版の数では「BRUTUS」に及びませんが、アップや見開きによる大きな図版によって
原稿の細部までを見せ、中条省平氏によるロングインタビューでは「クリエイター・大友克洋」が
誕生するまでの背景に肉迫。
少年期から青年時代の大友氏に影響を与え、その個性を形作ってきた映画、音楽、文学、美術、
そしてマンガについて、本人がたっぷり語っています。
また、大友氏からうまく話を引き出す中条氏の巧みな会話と、その会話を支える膨大な知識量も
このインタビューの密かな読みどころですね。

さらに村上知彦氏によるマンガ論、柳下毅一郎氏による映像論、椹木野衣氏による絵画論は、
3つの異なる切り口によって大友克洋という作家を全方位から捉えようとする、それぞれに
読み応えのある内容です。
特に椹木氏の、『AKIRA』を戦争画の系譜から捉えなおそうとする視点は、日本人の戦争体験と
美術表現との関わりから、近年大きく進んでいるマンガと現代美術の融合にまで及ぶものであり、
非常に興味深いものでした。



読者によってはそれぞれの評論に違和感を感じるところもあると思いますが、その違和感を
手がかりとして、自分なりの作品イメージ・作家イメージを新たに構築することもできるはず。
いま改めて大友作品を考えるなら、まずはこれらを読んでおくべきだと思います。

GENGA展に行く前の予習としても、GENGA展を見終わった後の副読本としても秀逸な2誌。
書店の他に、GENGA展のグッズショップでも販売してますよ。
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大友克洋GENGA展

2012年04月14日 | 美術鑑賞・展覧会
3331 Arts Chiyodaで開催されている、大友克洋GENGA展を見てきました。



大友氏は省略・パターン化が当たり前だったマンガというジャンルに、それまでになかった
「質・量ともに圧倒的な描き込み」という表現を持ち込むことで、手塚治虫から続いた
マンガにおける既成概念を打ち破ると共に、後続のマンガや映像作品に多大な影響を与えました。
その作風はマンガという領域を超えて、むしろSFXに近い視覚表現の方向へと踏み出し、
やがて特撮技術の発達と共に映画へと逆導入されたのではないか、とも思えるほど。

そして何より「ビジュアルで圧倒する」という方法論は、言語の壁を越える手段としても有効で、
これが日本マンガの海外における評価のきっかけとなった事もよく知られています。

さて、本展最大の目玉は、なんといっても代表作『AKIRA』の全原稿展示でしょう。
1982年から1990年までの約9年間に渡って連載された、80年代の日本コミックにおける
金字塔であり、後に続く多くのマンガや映像作品に現在も大きな影響を及ぼし続けている、
『AKIRA』という傑作。
その唯一無二のオリジナル原稿が、この会場で全て見られるのです!

・・・と熱くなって会場入りしたところ、中には1mほどの高さのガラスケースが何個も置かれ、
その中に『AKIRA』の原稿が何段も平置きされてました。

うっ、事前情報を調べてなかったとはいえ、このスタイルは予想してなかった・・・!

実際の展示の様子は公式ブログ内のレポート写真で確認してもらうとして、
この形式はさすがに見づらいわ~。
平置きは普通でも見づらいものですが、今回の展示方式では上の原稿が邪魔して
下に置かれた原稿ほど見るのが大変です。

それでもしゃがんで斜め方向から見れば、何とか見えなくもないんだけど・・・。

さすがに有名な場面や印象的な絵の原稿はケース最上段に置かれてるんだけど、
そのせいで展示の順番がページの並びと変わっちゃってるんですよね。
だから原作で好きだった「手前も往っちまえェェ!」とか、大佐がSOLの照準器を
渡されるコマを探しても、なかなか見つからなかったりして。

せっかく人数限定のチケットなんだし、できれば全話の原稿を舐めるように見たいと
期待していた私としては、ちょっとキツかった。
まあそれでも、立ったりしゃがんだりを繰り返しながら全部の原稿を見てきたのですが
最後は足腰がへろへろになっちゃいました。

まあ展示方法にはいろいろ思うところもありますが、この物量を一挙展示してくれた
快挙については、素直にありがたいと思います。

あと、いくつも並んだ透明なケースに入れられた大量の原稿を俯瞰したとき、ふと
「まるで『AKIRA』という巨獣を、まるごとスライド標本にしたかのようだ」
という思いが、ふと頭に浮かびました。
ひとつの時代を制覇し、いまなお畏れられる巨大な怪物の、途方もない標本・・・。

描かれた中身のすばらしさについては、いまさら言うまでもないでしょう。
とにかく緻密な描写、一瞬の動きを切り取ったような場面、そして強烈な崩壊感と、
その中を猥雑かつたくましく生きるキャラクター。
これらが各ページをぎっしりと埋め、絵というよりは映像に近い感触で見るものに
ぐいぐい迫ってきます。
しかも今回は、大友氏による肉筆の原稿。見ていて奮い立たずにはいられません。

20年以上前のものとは思えないほど状態のいい原稿を見ながら、『AKIRA』が
連載されていた当時を振り返ると、同じ時期にアメリカでは『WATCHMEN』や
『バットマン:ダークナイト・リターンズ』が描かれていたのを思い出しました。
洋の東西を問わず、マンガ界にとってはとてつもない時代だったんだなぁ・・・。

あ、そのバットマンを大友氏が描いた『The Third Mask』も、別室に展示されてました。
そちらの部屋には、『AKIRA』のカラー原画と、『AKIRA』以外の作品が集められており、
初期のマンガや自転車雑誌のイラストエッセイから、「芸術新潮」に描き下ろした最新のマンガに
至るまでが展示され、大友氏の画業を振り返るものになっています。

こちらは普通に壁貼りの展示となっていますが、上の方にある絵はさすがに見るのが大変。
もし単眼鏡があれば、一応は持って行ったほうがいいと思います。

個人的には、なんといっても『童夢』の原稿が圧巻でした。
巨大な団地の威圧感と無機質さ、人がめり込む壁、天地をさかさまに描く手法・・・。
テクニック的なわかりやすさでは、この頃が一番すごかったかもしれません。

カラー原稿は色使いのうまさ、特にPANTONEシートを生かした配色の妙に目を奪われました。
ポップアートの要素もうまく取り込み、目をひきつけるセンスの高さが感じられます。
その一方で、『彼女の想いで・・・』の表紙は、明らかに印象派を意識したもの。
かと思えば、ブリューゲルの「大きな魚は小さな魚を食う」をカバで描いた絵もあり、
様々な表現への挑戦と遊び心に思わずニヤリとさせられます。

意外な展示に大喜びしたのは『大砲の街』(MEMORIES)のセルと背景画ですね。
縦や横に長くつなげられた背景と、その上に重ねられたセルの膨大な枚数を見ると、
完成した映像のすばらしい長回しと共に、撮影現場の苦労が思い浮かびます。
・・・特に技術設計を担当された片渕須直監督、めちゃくちゃ大変だったろうなぁ。

そして会場の最後には、『童夢』でチョウさんがめりこんだ壁と、『AKIRA』に登場した
金田のバイクが展示され、撮影も自由となっていました。

へこんだ壁は、人が寄りかかっての撮影もOK。


近寄ってみると絵ではなく、本当にコンクリートが割れた感じに作ってあります。

これはアイデア賞ものだけど、作るのは大変だったろうな~。

まあ作るのが大変といえば、金田のバイクも同じですが・・・。

成田山のステッカーは、後に攻殻機動隊S.A.C.でもオマージュとして使われました。
・・・そういえば多脚戦車の原型も、『AKIRA』のセキュリティボールですよね。

ディスプレイが壊れた路面を模しているのも、なかなか凝ってます。


おっと、バイクのコンソールもマンガと同じ!


このバイクの製作者が支援する自閉症児の団体に500円以上募金すれば、KADOYA製の
「金田のジャンパー」を着用して、実際にまたがることができます。

また、壁の一面は巨大な寄せ描きスペースになっていて、内覧会などで来場した
作家さんたちが、思い思いの絵を描いてました。



これを見るだけでも、会場に足を運ぶ価値があります。
特に寺田克也氏の「さんをつけろよ、デコスケ野郎!」と、犬友克洋こと
田中達之氏の鉄雄は必見ですよ!

内覧会では寄せ描きできなかったというすしおさんの絵も、後日ちゃんと追加されてました。

吉田戦車氏のかわうそ君と、まさかの競演(^^;
今後もいろんな人の絵が増えていくと思いますので、お楽しみに。

物販は会場の外にあります。いったん外に出ると、再入場は不可とのこと。

別の係員さんに聞いたときはOKと言われたのに・・・このへんは徹底してもらいたい。

で、このショップに入るにはまた別の長い行列に並ばないといけません。
展示を見なくても買えるので、こちらだけが目当ての人もいる感じ。

1時間ほどで店内に入ると、缶バッジやTシャツの一部サイズは既に品切れでした。
特にXLサイズのTシャツは軒並み全滅でしたね。

とりあえず「KANEDA×Manifold」のTシャツとクリアファイル、カタログを購入。
1万名限定のショッピングバッグも、無事もらうことができました。


こちらがGENGA展のカタログ。Amazon等でも販売予定あり。

ショッピングバッグと同じくらいのサイズ。
でかいです。厚いです。重いです。

でも重さの分だけ、中身もたっぷり詰まってます。






クリアファイルは『大砲の街』が入ったセットを購入しました。

これを逃すと、まずグッズにならない作品。ここで押さえない手はありません。

「大友克洋GENGA展」は5月30日まで開催。
事前予約券はローソンチケットのみの販売でしたが、余裕がある場合のみ
会場で当日券の取り扱いも行うようです。
詳細につきましては、公式サイトの情報を確認してください。
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今日はミース・ファン・デル・ローエの誕生日、Googleロゴもモダニズム建築に変身!

2012年03月27日 | その他の雑記・メモなど
3月27日のGoogleロゴが、なんだか奇妙な形の建物に化けてました。


しかしこの形、どっかで見た気がするな・・・と思いながらロゴにカーソルをあわせてみると、
なんと「ミース・ファン・デル・ローエ 生誕126周年」の表示が出てくるじゃありませんか。

おっと、今日はモダニズム建築の巨匠にしてバルセロナ・チェアの製作者、ミース大先生の誕生日でしたか!

そしてこのロゴに使われた箱型の建物は、イリノイ工科大学クラウンホールであることが判明。
世界遺産のチューゲントハット邸ではなくてこっちを選んだのは、Googleがアメリカの企業だからなのか、
あるいは(勝手な推理ですが)社内にイリノイ工科大の出身者がいるのでは・・・と勘繰りたくもなりますが、
まあここは素直に「ミース先生が教鞭をとった大学の建物だから」と解釈しておきましょうか。

ミースといえば、私にとっていちばん馴染み深いのは、あちこちの美術館で見かける「バルセロナ・チェア」。

こちらは以前にも紹介しましたが、千葉市美術館に置かれていたバルセロナ・チェアです。

このイスは座面の縫い目やボタン留めもステキですが、一番の魅力はなんといっても
交差した剣に見立てた足の形状ですね。
あと、背後から見たときに革のベルトが何本も縦に走っている様子。
あの直線には、イリノイ工科大学クラウンホールの形状とも共通するデザイン性を感じます。

あと、ミースに触れるならどうしても外せないのが「Less is more.」という名言ですね。

「より少ないことは、より豊かなこと」と訳されるこの言葉こそ、ミースの建築そのもの。
そして、我々が豊かさを求め続けたあまりに大きな痛手をこうむってしまった今、この言葉が
建築に留まらない広い分野で、再び見直されるべきではないか・・・という気もしています。
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ユニクロ×デヴィッド・リンチのコラボTシャツを買ってみた

2012年03月19日 | その他の雑記・メモなど
ユニクロ銀座店のオープン記念として、新作Tシャツ等がネットでも特別価格になってると聞いたので
何気なくUTのネットショップを見たら、なんとデヴィッド・リンチの映画とのコラボ商品が出てました!
これまでもヴィム・ヴェンダースの作品等を取り上げてきたユニクロですが、まさかこのタイミングで
リンチを持ってくるとは・・・まさに予想の斜め上を行かれた感じ。

今回選ばれたリンチの作品は『イレイザーヘッド』『ロスト・ハイウェイ』『ストレイト・ストーリー』
そして『マルホランド・ドライブ』の4つで、それぞれ2種類のデザインが用意されています。

『究極映像研究所』のBPさんほど熱烈なリンチファンではないものの、『マルホランド・ドライブ』は
まぎれもない傑作だと思う私としては、これを買わずに済ます手はありません。
その場ですぐに『マルホランド・ドライブ』と『イレイザーヘッド』のTシャツを注文したところ、
さっそく自宅に届きました。

Tシャツには「A FILM BY DAVID LYNCH」の下げ札と、同じデザインのタグがついています。

下げ札もタグも、黒地に銀の文字。札が光っているのは、フラッシュの反射によるものです。

まずは『マルホランド・ドライブ』のTシャツから。
D03タイプは映画の冒頭で登場した、リタが乗るリムジンのグラフィックを使っています。

映画でも強い印象を残した、赤いテールランプが印象的です。

そしてロゴの部分をよく見れば、タバコの煙でかすんだような演出になっています。

その煙は写真を越えて、上のロゴにもかかっている・・・という、ちょっと謎めいたデザイン。

D07タイプは、劇中で一瞬だけ写る道路名の標示板。

しかしこちらもよく見ると、ちょっとおかしなところが・・・?

実は道路名の後に、とっても小さく「TM」の表示が付け足してあります。

実在の道路名にTMって入れるのはアリなのか?と思いますが、この小細工はちょっと笑えます。

さらに背中には、まさかのバックプリント入り。

でもこの線はなんだろう?と思ったら、実は道路標示版を裏返しただけだったり(笑)。

続いてはリンチの長編デビュー作『イレイザーヘッド』のTシャツです。
まずはB05タイプ。これはリンチお得意の密室シーンですね。

床の市松模様とふたつのランプは、「白と黒」「光と影」の対象性を表すものでしょう。
あと、このランプの見せ方は『マルホランド・ドライブ』のテールランプにも似てますね。

そしてもうひとつのA00タイプは、この作品で最も有名と思われるグラフィックを使用。

ジャック・ナンスの顔、いつ見ても怖い・・・さすがに、これ着て街を歩く勇気はありません(^^;

版権標示は、シャツの裾にさりげなく入れてありました。



作品のイメージを崩さないための工夫としては、よく考えられていると思います。

ちょっと残念なのは、『ワイルド・アット・ハート』『インランド・エンパイア』そして私が最初に見た
リンチ作品である『ブルー・ベルベット』が入ってないこと。
・・・それにしても、ローラ・ダーンの出てる作品ばかりが見事に抜けてるのはなぜでしょう?

あとは今回のコラボ企画でリンチに入るお金が、新たな映画の制作費に充てられることを願います。
最近は美術作品の展覧会情報ばかりが伝えられますが、それよりも次回作の情報を早く聞きたい・・・。
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『松井冬子展 世界中の子と友達になれる』

2012年03月11日 | 美術鑑賞・展覧会
今日は3月11日。
1日家でおとなしくしてるか、思い切って出かけるか迷った結果、横浜美術館で開催中の
『松井冬子展 世界中の子と友達になれる』を見に行きました。
なぜなら、松井さんが描いた「陸前高田の一本松」を、この節目の日に見たいと思ったから。

展覧会のタイトルにもなっている作品「世界中の子と友達になれる」は横浜美術館に寄託されているので、
以前にも見たことがありました。
ガラス越しに見たその展示では、卓越した画面構成によって表現された、無垢な「少女」と、強迫観念めいた
「痛み」のコントラストに驚かされたものですが、今回はケース無しという思い切った展示方法によって、
作品から伝わる「痛み」の度合いが、以前にも増して強まったように感じられました。

今回はケース無しでの展示作品が他にもあり、筆の運びや絵の具の塗りを詳細に見ることができます。
おかげで、松井さんの卓越した技術をたっぷりと味わうことができました。
デリケートな日本画をこのようなリスクの高い方法で展示することに決めたのは、松井さんと美術館の
英断があってのことでしょう。その配慮に深く感謝します。

松井さんの画風は、ある意味では幽玄、言い方を変えればおどろおどろしいもの。
人の心理や情念、あるいは性や生に伴う緊張状態を描くために、「異形」「解剖」「死」といった主題を
繰り返し取り上げています。
内面を描くために文字どおり「中身を剥き出しにする」という手法には一種の即物性も感じられますが、
その表現には確かに、見る者の心と身体に直接伝わる「痛み」があると思います。

精緻に描かれた臓器や血管は、時にグロテスクに、時に美しくも見えるものであり、それらは見る側の
私たちの内部にも、確かに存在するものでもあります。
だから松井さんの作品を見るときに感じる共感あるいは反感は、そのまま自分の内部に対して向けられた
感情であるとも言えるでしょう。

その感情と向き合い、内面の異物と変容する自己の異形性を認めること。
それが生きることを少しでも楽にするひとつの処方となり得ると、これらの作品は語りかけているのかも
しれません。

そんな松井さんが団扇絵として描いた「陸前高田の一本松」。

この一本松も見方によっては一種の異形であり、群れからはぐれた孤独の象徴ともいえます。
そしてこの松が、いま少しずつ立ち腐れ、枯れていこうとしているという事実を思うとき、
松井さんの描く九相図との相似を思わずにはいられませんでした。

九相図の女性のように、この一本松もやがて骸となり、新たな生への糧となるのでしょう。
そして、それはとても健全なことのように思えるのです。

会場の最後に飾られた一枚の色紙には、まさにヤゴから脱皮する瞬間のトンボを描いた
「生まれる」というタイトルの作品が置かれていました。

狂気と異形、そして死を見つめることで生の意味を手繰り寄せようかにも見える作品たちを経て、
最後にこの一枚にたどり着いた時、「ああ、ようやく生まれてこれたんだね」という感覚があって、
それがとても心地よく感じたものです。
思えばここまでの道程が、一種の胎内めぐり、もしくは胎児の夢だったような気もします。

3月11日、この節目となる日に松井さんの作品を見られて、本当によかったと思います。
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ラース・フォン・トリアー監督『メランコリア』感想

2012年03月10日 | 映画
ラース・フォン・トリアー監督作品『メランコリア』を見てきました。

まずは冒頭8分間に凝縮された、地球滅亡のヴィジョンが圧巻。
ハイスピードカメラ「Phantom HD GOLD」で撮影された俳優たちの動きが、落下する鳥、
ぬかるんだゴルフコース、キルリアン写真のような放電現象、そして2つの月といった
超現実的な光景と組み合わされることによって、まるでシュルレアリスム絵画のように
魅惑的な映像を作り出しています。
それはまさに、破滅の直前にしか見ることのできない甘美な光景とも言えるでしょう。

特に屋敷の前で3人の人物が並び、天にふたつの月がかかる場面は、マグリットの代表作とされる
「光の帝国」を映像化したような美しさ、そして静謐さ。
また、花嫁が草花に囲まれて水に浮かぶ姿は、作中でも出てきたジョン・エヴァレット・ミレイの
「オフィーリア」へのオマージュですね。
(そういえばキルスティンが月光浴する小川も、ミレイの描いた構図とよく似てた気がします。)

一方で宇宙に浮かぶ惑星メランコリアと、それに隠されていく太陽による「宇宙の日の入り」は、
明らかに『2001年宇宙の旅』を意識したもの。

そして、メランコリアとの激突により粉砕される地球と、そこで朗々と鳴り渡るワーグナーの
「トリスタンとイゾルデ」は、人類のあけぼのを描いた『2001年宇宙の旅』に対して、
『メランコリア』が人類の終焉を描いた作品であることを強く印象づけます。

そしてこれだけ大きなスケールの映像をプロローグで見せておきながら、いざ本編が始まると、
狭い車内でべたべたする新郎新婦のカットから入るのには虚を突かれました(笑)。

手持ちカメラでの撮影は映像酔いするとの声も聞かれますが、私はあまり気になりませんでした。
むしろ固定カメラによるフレームの決まった映像と比べ、ドキュメンタリー調の演出を施す上では
かなり効果的だったと思います。

新郎新婦が乗るリムジンの接触事故に始まり、結婚披露パーティでの小さな衝突やヒロインの繰り返す
様々な逸脱行為、そしてカップルの破局という前半の流れを見ると、これらの人間関係そのものが
実はミクロな「宇宙」の寓意であり、やがてそれらを飲み込んで起こる、マクロな「宇宙」での衝突と
対比されていることがわかります。
そして地球とメランコリアによって演じられる「死のダンス」も、宇宙という巨大なパーティの中では、
ほんの小さな一幕に過ぎないのです。

人が通常認識できる「宇宙」の外側には、さらに巨大な「宇宙」があって、それらは人間の意志とは
何の関わりなく進行し、その果てに感慨もなく地球すら消し去ってしまうかもしれない・・・。
その不安感こそ、人間が常に感じながらも目を背け、意識から締め出している「憂鬱」ではないのか。
そして人間が、この「憂鬱」と真正面から向き合わなければならなくなったとき、どのような心理で、
どのように行動するのか。
こういったテーマをストレートに描いたのが、『メランコリア』という映画なんだと思います。

そして劇中、メランコリアが地球から見えない太陽の裏側にあった“惑星”であると説明される部分は、
「人間の認識になかっただけで、以前からそこにあったもの」という点において、人類全体が抱えている
「憂鬱」との共通性を意味するようにも思えるのです。

また、劇中に科学的考察による破壊描写や対抗策の提示がないとはいえ、かつてない悲劇に直面したときに
人間がどのように振る舞い、どのように最期を迎えるかをじっくりと考察したこの映画を、優れたSF作品として
評価しない理由はありません。
むしろ極限状況における人間の内面へと迫る描写は、ブラッドベリやマシスン、あるいはティプトリーといった
名だたるSFの名手たちが書く、優れた小説の味わいを持っていると思います。

私たちはいま、同時多発テロや東日本大震災を経験した後の、かつてない「憂鬱」の時代を
生きているように感じます。
それは戦争や災害といった極限状態とは違う、延々と引き伸ばされた息苦しさに近いもの。
その人類の絶え間ない不安の象徴こそ“メランコリア”という星であるとも解釈できる一方で、
地球の消滅という事態の前には、人類の抱える憂鬱など実に小さなものとも言えるでしょう。

・・・あるいは人間がひとつの星の運命についてあれこれ言うこと自体が、既に傲慢なのかもしれません。
(その愚かさを代表する存在が、キーファー・サザーランドの演じる科学者のジョンではないでしょうか。)

といっても、自然破壊や地球温暖化、そして各種の汚染に我々が何の策も講じなくてよい、と投げやりに
言うつもりは、これっぽっちもないですけどね。(実際に死んでしまうのは、私もイヤですので)

むしろ、自分たちの振る舞いが自らの身にに跳ね返ってきた後に、ようやく環境保護について騒いだ挙句、
それを自戒ではなく地球への愛情にすり変えようとする一部の考え方の中にこそ、人間の根っこにある
どうしようもないご都合主義、もしくは卑しさといった悪意を感じます。
(震災後に起こった様々な問題も、結局はこのご都合主義と卑しさが大きな原因にも思えますし・・・。)

そんな人間の卑小さを露骨なまでに暴きつつ、美しい映像と共に観客へと突きつける「知的な残酷さ」こそ、
この映画の、そしてラース・フォン・トリアーという監督の真価である・・・私はそう思っています。

そして『メランコリア』のクライマックスに訪れる映像は、私にとっては光と轟音の洪水によって
人間の業を洗い流す、一種の“浄化”のようにも感じられました。

トリアー監督は、いまや地球規模のサイズにまで膨らんでしまった人類全体の「憂鬱」に対し、
それより大きな「憂鬱」をぶつけることで、究極の治療を行ったのかもしれません。
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文化庁メディア芸術祭2012を観てきました

2012年03月04日 | イベント・観覧レポート
ここ数年、必ず見に行っている「文化庁メディア芸術祭」ですが、今年は最終日に観てきました。

年々混雑がひどくなる会場ですが、今回は短いながらもとうとう入場待ちの列までできる盛況ぶり。
中に入っても人だかりがすごくて、あまり細かくは観られそうにありません。
そんなわけで、まずは一番お目当てのマンガ部門コーナーへ直行しました。

ノミネート作品の試読コーナーも、やっぱり人の山です。

ここでは『アンカル』『氷河期』『ファン・ホーム』『皺』にざっと目を通してきました。

大賞受賞作『土星マンション』のコーナーでは、カラー原画や設定画のほかに、
窓ふきをイメージしたこんなディスプレイもありました。

不覚にも今回の受賞で初めて知った作品ですが、原画の美しさや設定の細かさなどには
目を見張るものがあり、思った以上に本格的なSFマンガであることも判明。
うーん、これはそのうち読まないといかんなー。

優秀賞に選ばれた清水玲子先生の『秘密 ―トップ・シークレット―』のコーナーには、
表紙や口絵のパネル展示がありました。

また、平置きの展示台にはカラー口絵の原画が2点置かれ、その美しさに来場者からは感嘆の声が。

カラーパネルの向かいの壁には、マンガの製作過程がわかる資料を展示。
原稿については、ノートへの下描き、ペン入れ状態、完成の三段階に分けてコピーが並んでました。

さらに興味深かったのが絵を描く前の構想メモで、薪はもともと妻帯者の予定だったとか、
田城(メモでは田代)についての意外な設定など、知られざる“秘密”が明らかに。
また、メモの段階で貝沼の遺言がほとんどできあがっていたというのにも驚かされました。
それぞれのメモには薪の表情や印象的な場面のラフも描かれていて、プロットを練りつつ
それにあわせた作画イメージも探っているのだろう・・・ということが伺えます。

ちなみに「秘密-2002-」のメモはベネツィアのホテル・ダニエリのテレファクス用紙に
書かれていました。アイデアってどこで思いつくかわからないものですね。

優秀賞を受賞した『アンカル』と『氷河期』のカラーパネル。

『皺』も含めて、昨年はバンド・デシネ(B・D)の秀作が多かったことを、改めて思いだします。
これには日本から荒木飛呂彦先生も参加した、ルーブルBDプロジェクトの影響もあるのでしょうね。
(しかし、21世紀になってB・Dの古典である『アンカル』を表彰するってのも、なんだか微妙・・・。)

アニメ部門の大賞受賞作『魔法少女まどか☆マギカ』は、展示コーナーが他と分離されて一室になっており、
入場制限&歩きながらの鑑賞となるほどの人気っぷり。

室内の大型モニターには「ワルプルギスの夜」の登場シーンがリピート上映され、その向かい側には
矢をつがえたまどかの等身大フィギュアが飾られていました。
なるほど、この配置は「ワルプルギスの夜と対決するまどか」を演出してるのか・・・と思うまもなく
後ろから来る人波に押されて、会場の外へと放出。
蒼樹うめ先生の設定画とか4コママンガとか、もう少し長く見たかったのに・・・!

しょうがないので歩いて5分ほどのところにあるメルセデス・ベンツ・コネクションで
電気自動車「smart」とまどマギのコラボによるラッピングカーを観てきました。


こちらは魔法少女バージョン。電気自動車だけに、充電用ケーブルが「コネクト」されてます。


正面から撮影。右側の白い敏腕ディーラーが「ボクと契約してsmart買ってよ!」とか言ってる気がします。


…と思ったら、バンパーのステッカーにおなじみのセリフが!


反対側はほむほむ。


後ろから見ると、全体がキュウべぇの顔になってます!

おまけに口元には「ボクと契約してよ!」のセリフつき。
これを見せられたら、後続車はかなりイヤな気分になりそうですね。

黒いほうは魔女バージョン。こっち側はお菓子の魔女シャルロッテの変身前。


反対側は変身後のシャルロッテ。後続車をガンにらみするような目つきです。


そして魔女バージョンにはしっかりと「TIRO FINALE」の文字が入ってました。


リアは魔女軍団勢ぞろい。

見るだけで禍々しい・・・というか、こいつらが事故を誘発しそうで怖いです(^^;。
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『トップをねらえ!』Blu-ray Box Complete Edition 、到着!

2012年02月23日 | トップをねらえ!
本日帰宅してみたら、某ショップからおなじみの段ボール箱が届いてました。
わくわくしながら開封してみると・・・。

発売日より一日早く『トップをねらえ!』Blu-ray Box Complete Edition が到着しました!

中身は時間のあるときにじっくり見るとして、まずは開封前のパッケージを堪能。




美樹本氏の描きおろしBOXはオモテもウラもカッコいいなぁ。

・・・でもこのBOXが一番カッコよく見えるのは、こうして見たときじゃないでしょうか。


ガンバスターのアップが凛々しいのはもちろんですが、塗りやポーズに開田裕治さんの描く怪獣イラストを
連想させられるところも、怪獣モノとしての初代トップらしいボックスアートだと思います。

とりあえず、BD-BOXゲットのご報告でした。中身については、後ほどご紹介していく予定。
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山野浩一傑作選『鳥はいまどこを飛ぶか』

2012年02月18日 | SF・FT
昨年のことになりますが、日本における前衛的・実験的(いわゆるニューウェーブ)SFの旗手として名高い
山野浩一氏の作品集が、創元SF文庫から2冊同時に刊行されました。

SF界の大物として名前の挙がる人は数あれど、小説に評論に雑誌編集、そして我が国における
ニューウェーブの伝道者・実践者しての役回りと、多方面での活躍ぶりで山野浩一氏に並ぶ人は
決して多くないでしょう。

しかし氏の作品が盛んに発表されたのは1970年代ごろで、今からおよそ40年も前のこと。
その山野作品を21世紀に復刻することは、氏の作品の再評価に留まらず、日本SFの歴史を
後世に伝えるという意味においても、意義のある企画だと思います。

私も山野氏の小説は読んだことがなくて、「サンリオSF文庫でいろいろ話題になった人」の印象が
強かったのですが、今回の傑作集でようやく「作家・山野浩一」の仕事に触れることができました。

マグリットを思わせる塩田雅紀さんの装画も、収録作のシュールな味わいを見事に捉えています。

さて、今回は傑作選1の『鳥はいまどこを飛ぶか』についての読後感をまとめてみました。

「鳥はいまどこを飛ぶか」
冒頭と結末を除いて各章の順番を入れ替えて読んでもいいという試みは、前衛小説というよりは
映画のカットアップを思わせます。
物語を読む上で大きな影響がある仕掛けではありませんが、むしろ読者が小説の中を渡り鳥のように
飛び渡ってほしい、という狙いなのでしょう。
最も印象に残るのは次元を越えて飛ぶ渡り鳥が空間をパレットナイフのように切り裂くイメージで、
このように視覚的イメージを鮮烈に描き出す文章が、山野作品の大きな魅力であると思います。
また、ホシヅルも登場する冗談交じりの架空の鳥とその命名には、作者の遊び心と言語への強い興味が
はっきり表れている感じです。

「消えた街」
団地の消失がサラリーマンの潜在的な失踪願望と結びつく、ある意味で力技的な作品。
作者自身があとがきで「アイデアだけの平凡な小説」としているのもそのためでしょう。
しかし、むしろ消失した団地の住民が外の世界に対して自治権を行使し、その狭い世界の中で
小さな自己満足を得ていくという展開は、戦後の日本人の精神性を縮図化したようにも見えて
なかなかおもしろかったです。
この方向をもっと突き詰めれば筒井康隆風になったのだろうけど、そっちに話が向かないのは
物語で現実と対峙することについて、山野氏があまり興味を持たなかったためかもしれません。

「赤い貨物列車」
電車という閉鎖空間は奇談にもってこいの舞台で、本作もその系譜を汲む一編。
車中の多数派を占める謎の集団が主導権を握り、平凡な主人公が少数派であることを悟られまいと
必死に立ち回る姿は、属すべき立場を見失って彷徨う他の作品の主人公たちと重なるものがあります。
作中でほのめかされる電車事故の陰謀論には時代の匂いが色濃く感じられますが、やっぱりこのネタも
ほとんど活かされずに終わるのが残念です。

「X電車で行こう」
作者のSFデビュー作にして、作中で最も魅力的な作品。
なんといっても「全ての路線を経路が重なることなく走る列車があるとすれば、どこまで行けるか」という
単純なゲーム性が、わかりやすくていいですね。
好きなように鉄道を引けるといえば、アートディンクにそのものずばり「A列車で行こう」という題名の
シミュレーションゲームがありますが、「X電車で行こう」はそれを小説としてやってのけているのが
実に楽しいし、その点でも時代を先取りしていたのかな、とも思います。

そういえば山野浩一氏は競馬の血統評論家としても有名ですが、競走馬の血統データを最大限に生かした
「ダービースタリオン」という大ヒットゲームもあったことを考えると、山野氏がこの業界に進んでいれば
いろんなシミュレーションゲームで大ヒットを連発した・・・という可能性もありそうです。

さて、序盤では無邪気な鉄道ゲームの主役であり、ダイヤという社会ルールに縛られない自由の象徴だった
X電車が、やがて暴走し他の車両を焼き払い、乗客を虐殺するようになる姿は、当時の社会運動が先鋭化し
やがて暴力へと傾斜していく過程と、よく似ているように思います。
最後にX電車から取り残された思いを抱く主人公は、そんな時代の流れに取り残された多くの若者の思いを
代弁しているのかもしれません。

「マインド・ウインド」
主人公の抱く日常への漠然とした不安感と、人を彷徨へといざなう心の風「マインド・ウインド」の噂。
はたして両者には関係があるのか?あるいは心の風など存在しないのか?
これについて作中では明快にされず、物語の力点はむしろ周囲に流されがちな主人公の揺れ動く立場と
その心のあり方をいかに描くか、ということに置かれています。
しかし、これがSFとしても普通小説としても中途半端な感じで、なんとも歯切れが悪い。
筒井康隆氏から「このような中間小説じみたものを書くべきではない」と批判されたそうですが、納得。

「城」
オチがどうこうより、子どもの残酷さと愚かさを詩情あふれる描写できれいにまとめた感性を評価したい。
そして主人公の少年が本当に生を実感できたのは、列車に乗っている短い時間だけだったのかも・・・。

「カルブ爆撃隊」
作者あとがきでは自信ありげなコメントがついていますが、作中に出てくる収容所やエントロピーや
爆撃機などのアイテムを見ると、既存のニューウェーブSFとのダブリを強く感じてしまいます。
そのため、他の収録作に比べると、むしろオリジナリティが薄いようにも見えるのですが・・・。
不条理小説はいまやそこかしこで見かけることも、その衝撃度を発表当時よりも弱めた一因かも。

本作の狙いはベトナム戦争と太平洋戦争との二重イメージ化にあったと思いますが、そこまで読ませるには
もっと押しが強い話でもよかった気がする・・・まあ、あえてそうしなかったのかもしれませんけどね。
あと主人公たちが収容所で戦争映画の悲惨な場面を延々と見せられる場面は、まんまルドヴィコ療法ですな。

ちなみに「犬」と「爆撃機」には押井守作品との類似も見られますが、押井さんが「爆弾」という象徴で
60~70年代の社会運動における熱気を表すのに比べ、本作における無国籍的な描写はむしろ作品から
熱気を奪いさるようで、どこかひんやりした手触りを感じさせます。

「首狩り」
むしろこっちこそオチが予想できる作品ですが、負け組の主人公が抱える劣等感が悲しいほどにリアルで
読み進めるほどに身につまされてしまいます。
不条理が日常に入り込んできた後の状況を生々しく描けるところは、山野氏のシミュレーション能力が
いかに優れているかを表すものではないでしょうか。
ちなみに首狩り組織首謀者のK・Yは、言うまでもなく作者である山野浩一のイニシャルです。

「虹の彼女」
この作品で最も注目すべきは、主人公が「自分が求めているのは“脱出しなければならない(日常)世界”で、
脱出した先にある世界に行こうと望んでいるわけではない」と自虐的に語る部分でしょう。
これはおよそ全ての収録作品に当てはまる評価で、山野作品のテーマを的確に表現したものだと思います。

ただし、これを主人公のセリフとしてはっきり言わせてしまったことで、この物語自体もまた
行き先を失ってしまったのは、やはり否定できないところ。
この思いをあえて言葉にせず、様々な視覚イメージに置き換えてビビッドに表現することが、
山野作品の持つ映像的な美しさの源泉だと思うし、それを言葉で明かすのは手品師が進んで
タネを割るのと同じことです。
そして禁断の言葉を口走った主人公は、読者と共に虹の彼方の別世界を垣間見るしかありません。
また彼が見る別世界の美しいイメージも、ローリングストーンズやビートルズの影が露骨に見えるせいで
やや緊張感に欠けるのが惜しまれます。

ちょっと話がそれますが、私の世代が「シーズ・ア・レインボー」を聞いて真っ先に思い浮かべるのは、
たぶんiMacのCMでしょうね。
作中でこの曲名が出たとき、真っ先に思い浮んだのはミックならぬMacの姿でした。

「霧の中の人々」
山登りのリアルな光景は作者の真骨頂で、その生々しい描写は夭折の画家・犬塚勉の絵を思わせます。
そして上りと下りが入れ替わることで世界の風景まで入れ替わってしまうあたりには、エッシャーの
騙し絵を思い出すなど、これもまた絵画的イメージにあふれた作品。
ラストのアクロバット的なオチは予想の範囲内ですが、それまでに積み重ねた山や都市のリアルな描写が
不在者という抽象概念のバックグラウンドに置かれることによって、結末に不思議な重みを与えています。

そして全ての収録作に共通して感じられるのは「何者でもなくなる」ことへの憧れでしょうか。
旅や登山は、帰属する集団からはなれて一時だけ「何者でもなくなる」ための手段であり、その離脱感は
帰属意識や同調圧力が強いとされる日本を舞台にすることで、より強いコントラストを際立たせます。

さらに言えば、一時だけ「何者でもなくなる」という体験は、まさに物語を書く事であり、さらには
それを読むという行為そのものでもあります。
作者と読者が物語というひとつの世界を巡って、自分だけの旅を続けていく・・・これはまさしく、
「虹の彼女」の主人公が垣間見た光景ではないかと思います。

山野氏といえば「和製ニューウェーブの旗手」という先入観が強かったけど、実際に読んでみると
「わからない」という感じよりも「意外なほどわかりやすい」ことに驚きました。
むしろ日本を舞台にし、普通の暮らしと普通の心象風景が生き生きと描かれていることによって、
SFが日常を切り裂き、あるいは日常そのものがSFと化す光景が、よりリアルに感じられる。
こうした作品は、やはり日本のSF作家でなければ書き得なかったものでしょう。

そして山野氏がこれらの小説を書いた当時と比べて、日本人の心象風景はあまり変わっていないように見える。
本書を読んで一番奇妙に思えたのは、むしろこの点だったかもしれません。
コメント (2)
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