太った中年

日本男児たるもの

菅直人の野望

2010-06-17 | weblog

新総理・菅直人 その野望

この男にとっては、ようやく手にした総理の座だったのだろう。

6月4日に樽床(たるとこ)伸二議員を破って民主党代表に選ばれた菅直人は、鳩山辞任の観測が流れ始めた6月1日の小鳩会談以降、その高揚感を隠しきれない様子だったという。

「国会の居眠り王」がついに

「小鳩退陣の2~3日前から菅さんは上機嫌でした。6月1日に閣僚が揃ってかりゆしを着たときも、記者たちは『チンピラみたいだ』と言い合っていましたが、本人だけは『どう、似合ってる?』と浮ついていた。ついに自分に順番が回ってきたと思っていたんでしょうね」(財務省担当記者)

1996年に厚生相として薬害エイズ問題に取り組んで以来、「総理大臣にしたい人物」では常に名前が挙がりながら、民主党設立を挟んで、足掛け15年越しの悲願。いつも以上に目尻が下がってしまうのも致し方ないところである。

その菅新総理に対して、周囲がもっとも心配しているのが、酒癖の悪さだ。

総理を意識し始めた最近でこそ、極力外出を控えていたようだが、菅氏の酒好きは有名で、同じグループの若手を誘って呑むのはもちろん、銀座のカウンターバーで一人で酔いつぶれていたという目撃談もある。

深酒がたたってか、国会で居眠りをすることもしばしば。今年3月にも、国会で自民党議員から「国会の居眠り王」「『官から民』ならぬ、『菅から眠』だ」と揶揄されている。

国会で居眠りするのはもちろん許されることではないが、有事の際に総理が二日酔いで、対応が遅れるなんてことがあれば、国家の危機に直結する。

また、菅氏は財務相時代から消費税増税論者だが、民主党が4年間は上げないと言って総選挙を戦った手前、「次の衆院選までは上げないが、議論は必要」という慎重な態度を示してきた。ところが、これも酒が入ると一変してしまう。

今年度予算が成立して半月余り経った4月16日。菅氏は予算成立の慰労を兼ね、財務省幹部と会合。その後、普段はあまり記者の夜回り取材を受けない菅氏が、珍しく番記者10人ほどを自宅に上げて、オフレコ懇談を行った。すでに酒が入っていた菅氏は上機嫌。

「消費税は15%がいい」と大演説をぶったのである。

財務省キャリアが言う。

「記者に教えてもらったのですが、菅さんは増税分の25兆円を介護や福祉、年金に充あてれば国民は納得すると話し、突然『俺は景気対策をダイナミックにやりたいんだ』と叫んだそうです。さらに、一度15%に上げて、景気が戻ったら消費税減税をやって8%くらいに下げると具体的に話した。

『鳩山総理は4年間は上げないと言っていますが』と聞いた記者には、『なにぃ、俺が政権を担当したら別の話だ』とタンカをきったとか。増税論者の菅さんが総理になるのは、ウチとしては大歓迎です」

菅氏もさすがに言い過ぎたと思ったのか、それ以降は自宅での記者懇談は全面禁止になった。

さらに、消費税増税に留まらず、菅氏は予算編成の仕組みそのものを変えるという野望を持っているという指摘もある。野党時代から菅氏を知るブレーンの一人が語る。

「菅さんは昨年6月にイギリスに行きましたが、そこでイギリスの大蔵省の研究をした。あちらでは、予算は総理と財政担当大臣が相談して枠を決める。それを各省に配分する方式です。

日本の省庁からの積み上げ方式とは正反対。配分した予算は、各省の大臣がそれぞれの権限で使えるが、どれくらいの成果を出すかという達成目標を内閣と約束する。この方式を取り入れることが、総理になったときの目標の一つなのです」

この目標が実現できれば画期的だが、もちろん一朝一夕にできるものではない。菅氏が自分の野望を叶えるには、1年ごとに代わるような政権ではなく、本格政権が必要となる。

本当は別の人がよかった

菅氏が本格政権を睨んだ「鳩山後」をはっきりと意識し始めたのは、鳩山政権が月末の普天間問題決着へ向けて、完全に機能不全に陥った5月頭あたりからだった。

この頃、財務省内で行われた会見では、普天間問題について、こう語っている。

「私自身は、この問題にほとんど内閣の中でも関わりをもっておりません。総理からも、この問題は、私までは煩わさないでやりたいと以前から言われておりました」(5月7日)

副総理に就いた直後から、「イラ菅」ならぬ「ダマ菅」と呼ばれるようになった菅氏だが、「次」が見えるとますます口が堅くなっていった。

その一方で、多忙を理由に欠席することも多かった、毎週金曜日の自分のグループの会合に続けて出席して、「ポスト鳩山」を意識するような発言をしている。

民主党関係者が語る。

「菅さんが連続して会合に出席したのは5月14日、21日です。鳩山さんは普天間問題で完全に窮地に追い込まれていた。

14日の会合では、菅さんは『問題は現体制のまま選挙に突入して大負けした後のこと。そのとき、次の首班をどう選ぶのか。最悪なのは小沢派と反小沢派に分裂して党が割れることだ』と語りました。

出席者は、菅さんが鳩山後の政局を予想することで、自分がポスト鳩山に向けて行動を起こす機会をうかがっていることをアピールしていると受け止めました」

普天間問題のような重大問題を前に、ナンバー2でありながら「我関せず」の態度を貫いた菅氏。ややこしい問題に首を突っ込むと、次期総理の自分に傷が付くと思ったのだろうが、そんな姑息な考えで、一国の総理が務まるのか。

実際、民主党内には消去法で菅氏しかいなかったという声も多い。民主党若手議員はこう語っている。

「即戦力ということで考えれば菅さんになるのだろうが、果たして菅さんで民主党が生まれ変わったという清新なイメージが出せるのか。国民人気から言うと前原さんもありえたが、彼だけは絶対にダメだ。自分が代表時代に、偽メール事件で党をボロボロにして小沢さんにバトンタッチしたくせに批判ばかり。岡田さんは普天間問題の戦犯だし、やっぱり仕方ない」

別の民主党議員も、時間が限られた中での代表選で、やむを得なかったと胸中を明かす。

「本当は40代くらいの若い人を思いきって選びたかった。それに、党員・サポーターに投票してもらう機会があれば納得度も高かったのでしょうが、それもできない状況では、副総理の菅さんをそのまま上げて、窮余の策だったとご理解いただくしかなかった」

したたかに小沢切り

今後、菅総理にはいくつものハードルが待ちかまえている。財務相を務めながらも、決して経済に明るくなかった菅氏は、今年2月、G7に出席、「日本の金融財政状態の危機的状況がわかった」と財務省幹部に漏らしたという。それ以降は朝が苦手にもかかわらず、朝8時前には財務省に登庁するようになった。

「自分が経済をよく知らないと思っているから、役人のレクチャーもよく聞く。だから、厚労省などと違って、官僚との折り合いは悪くない。心配は財務官僚に取り込まれないかということだが・・・」(民主党幹部)

「消費税の4年間据え置き」や「脱官僚」は民主党の金看板だが、鳩山氏のようになんでも政治主導でやろうとして迷走するくらいなら、きっちり説明したうえで必要に応じて見直せばいい。ただ、財務官僚は税収を増やし、自分たちの裁量権を拡大することが至上命題である。

総理が財務省の操り人形になれば、なんのための政権交代だったのかと有権者の怒りを買うことは間違いない。 もともと市民運動家・市川房枝氏に師事して政治家になった菅氏は、鳩山氏とはまったく異なるルートで総理に上り詰めた。思えば、「元総理の子や孫」ではない総理は小泉純一郎以来。

世襲政治家でない総理は、その前の森喜朗以来となる。

菅氏のお膝元である東京・武蔵野市選出の都議会議員・松下玲子氏は、野党時代の菅氏とのこんなエピソードを明かす。

「私が'05年に都議に当選して、都政報告会を開いたとき、参加者が二人しか集まらなかったんです。それを菅さんにお話ししたら、『僕にもそういう時期があったんだよ。二人来てくれただけでも、その人たちに感謝しなくては』と言っておられました。なんでも、国会議員になって国政報告会をやったら、一人しか集まらなかったんだそうです。そういう苦労を知っている菅さんに対して、地元ではずっと前から『菅総理待望論』がありました」

社市連という弱小野党からスタートし、途中、女性スキャンダルや年金未納問題など、それなりに泥にまみれてきた菅氏が、政界で生き延びてきた武器は何といっても、国会論戦などでの舌鋒鋭い攻めの姿勢だ。

だが、総理という立場は、国会では常に攻められる立場である。攻めには強いが、守りに弱い菅氏が、イラ菅の本性を出さずに、国会を乗り切れるのか。

なにより、最大のハードルは「脱小沢」だろう。今回の代表選にあたり、菅氏は前日の会見で、あえて「小沢」の名前を出し、「しばらく静かにしていただいたほうがいい」と突き放した。

「鳩山氏に抱き合い心中され、無役になった小沢氏は、参院選まで表立って動くこともできない。それをわかったうえで今後の小沢氏の動きを封じ、反小沢グループを味方につけて党内基盤を固める戦略でしょう。さすがに30年にわたって永田町で生きてきただけはある。あの会見を見て、長期政権があるかもしれないという気になった」(別の民主党関係者)

菅氏と小沢氏は、2003年の民由合併の際に、民主党代表だった菅氏が、党内の小沢アレルギーを抑えつけて手を結んで以来の関係だ。菅氏は小沢氏に恭順の意を示し、政権交代にも成功、ポスト鳩山最右翼に躍り出た。そして、勝負所と見るや小沢氏を切った。

かつて中曽根(康弘)内閣は、田中角栄の影響力の強さから「田中曽根内閣」と呼ばれた。だが、中曽根氏はしたたかで、5年に及ぶ長期政権を築いている。

菅総理も小沢氏の支配から脱し、長期政権を築くのか。

小沢氏も党内での影響力が落ちたと判断すれば、グループ150人余りを引きつれて党を割り、政界再編に動くだろう。たとえそうなったとしても、元の民主党に戻るだけ。党の創立者の一人として、菅氏が腹を括れるかどうかが、地に墜ちた党への信頼を取り戻し、本当の民主党政権を作る唯一の方法ではないか。

(以上、現代ビジネスより転載)