われわれもそのうちに生きている日本の近代。
その最初の半世紀を生きた夏目漱石は、江戸情緒の残る
東京の周縁を漂泊し、血気さかんな壮士気分が充満する
神田で少年期をすごし、漢字を学び陶淵明に親しみ、
本郷に次々と建てられる洋風建築に興味をいだきつつも
英文学を志し、中央の「官」をきらって地方にくだり、
ロンドンにわたってその重厚な石造建築に圧倒され、
場末の下宿にこもって「文学論」に沈潜し、東京に
戻って講師生活のかたわら小説を書きはじめ、
千駄木から早稲田に居を移し、弟子たちにかこまれた
高名な文学者としての生活をおくり、修善寺の温泉で
倒れたのち何年かして、生涯の幕を閉じた。
それが漱石の実体験した空間である。
と、「漱石まちをゆく」という本の中に書かれていたけど、
この文章が漱石が実体験した空間を正しく表現しているか
どうかは別として、自分の歩んできたこれまでの人生を
こんな風にまとめたらどんな文章になるんだろうなぁ。
簡潔な文章でまとめるのは難しいと思わない?
この本は漱石の作品を次のように分けているよ。
【場の三部作】
吾輩は猫である 坊ちゃん 草枕
・舞台空間が、ある閉ざされた「場」に限定されている
【東京の四部作】
虞美人草 三四郎 それから 門
・東京が主舞台
【海の三部作】
彼岸過迄 行人 こころ
・海が登場する
こういう分け方にそって漱石の作品を読んでみるのも
面白いかも知れないね。