友人が本を贈ってきた。
見出し画像にあるとおり、『命みじかし恋せよ乙女』-大正恋愛事件簿ーという副題に、この大正の叙情画。
すぐ思い浮かべたのは蕗谷紅路だけれど違う。高畠華宵とも違う。いわゆる萌え絵。
帯の惹句の「事実は小説より奇なり」も、当たり前すぎると思いながら、頁を繰る。
中身は、意外なほどしっかりしていて、大正から昭和初年にかけての恋愛事件を扱っていた。
北原白秋、平塚らいてう、与謝野晶子、島崎藤村、松井須磨子、田村俊子、原阿佐緒、有島武郎、柳原白蓮、佐藤春夫、藤原義江、石井漠、竹久夢二、岡田嘉子。
大人たちの会話から耳にしてきた人たち。
当時の新聞記事のスキャンやら、作者自身が記した小説の一部など、さまざまな記録をもとに、もつれた男女関係を繙いていく。中身は抒情どころか、かなり重い。戦前は姦通罪というものがあり、それに追いつめられた男女は心中までしてしまう。
男性側に、女性を一人の人間として見る観点がある人は、結ばれたら添いとげている、と言ったら言いすぎだろうか。
原阿佐緒の歌で強烈なのがあったので、探してみた。たしか子息は俳優でなかなか魅力的だった。
・吾がために死なむと云ひし男らみなながらへぬおもしろきかな(原阿佐緒)
わたし自身は、柳原白蓮が毅然としていて、いいなと思う。年下の相手宮崎龍介については書くべきこともあり、またの機会に。
弥生美術館関係の本だなと思ったが、そこを訪れた人が購入するようだ。
40年ほどまえ、弥生美術館のことを知り、ひとりで訪れた。たぶんそのときに買ったのがこの本。さらにさらに昔、少女雑誌の挿絵の蕗谷虹路の絵に見とれたものだ。髙畠華宵も。
弁護士の鹿野琢見は少年時代から華宵のファンで、知遇を得てから死に至るまで面倒をみたうえ、弥生美術館を作った。
閑静な住宅街にあるこぢんまりした美術館で、気持ちが休まる気がした。
三度目くらいに行ったころは、竹久夢二の絵のほうが大きく場を占めていた。一緒に行った友人は夢二が好きだった。お茶したカフェのまえに東大の赤門があり、そのまま二人で東大のなかを突っ切って、お茶の水まであるいた。
高校時代は、中原淳一の『ひまわり』がお洒落雑誌だった。その後『それいゆ』も出て、大きな眼をした西洋美人に変わっていった。
私にしてみれば『命みじかし』の表紙が萌え絵的なのが気に入らないが、また何十年もすると、萌え絵を見て、少女時代の憧れを想う世代の人がいるかもしれない。
(見出し写真は、著作権がどうのと、うるさいことが書いてあったので、スキャンせず、あえて斜めに)