あすかパパの色んな話

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広島皆実、優勝の要因は「クリアの質」

2009年01月13日 20時40分08秒 | コラム
第87回全国高校サッカー選手権 総括

■広島皆実とほかのチームの“違い”とは?


広島皆実が優勝できた要因、それはクリアの質にある

広島皆実(広島)の優勝で幕を閉じた第87回全国高校サッカー選手権大会。周囲は広島皆実の優勝に驚いているかもしれない。だが、この1年間、選手権出場校のほぼすべてを取材してきた経験からすると、この結果は特別に驚くことではなかった。今大会の出場校を見渡しても、「11人でのサッカー」という観点からすると、広島皆実が一番質が高い印象だった。それで必ず優勝するとは言い切れないが、実際に大会が始まると、広島皆実とほかのチームの“違い”が明確に見えてきた。そしてその違いが優勝の要因となった。

 広島皆実が持っていた違いは、同時に今大会の大きな問題点でもあった。その違いとは「クリアの質」である。そしてこれは、筆者がユース年代の取材を通じて感じている問題点でもある。
 まず今大会だけで見ると、どの試合も多くの点が入り、7-0、7-1などの大差がつく試合もあった。見ている者にとっては面白い大会だったかもしれないが、内情を見ると、今後を危惧(きぐ)する状況にある。

 失点が多いという事実を、単純に「守備力低下」とくくるのは非常に危険である。なぜここまで失点が多いのかをよく見てみると、行き着くのが「クリアの質」なのである。
「クリアの質」とは、的確な状況判断とキックの質にある。的確な状況判断とは、つなぐべきなのか、大きく蹴り出して一旦流れを切るべきなのかを瞬時に判断する能力。キックの質はしっかりと蹴ること、どんな態勢、ボールの状態でもしっかりと芯をとらえられる技術の高さ。この2つの技能を持ち合わせてこそ、クリアの質は高くなる。

 しかし、近年はその質がどんどん落ちている気がする。それは、クリアの質に対する意識が希薄になっていることに直結している。現在は、ユース年代やそれ以下の世代でも「つなぐサッカー」が浸透してきている。それ自体は非常に大切なことであるし、リアクションサッカーではなく、しっかりとボールポゼッションして試合を組み立てることは、世界基準から見ても大切であることは間違いない。しかし、その「つなぐ」という部分に意識がいき過ぎているような気がしてならない。

■クリアの質が低下した要因

昔は守備において、DFは大きく蹴り出すことが主流で、ディフェンスラインでつなぐという意識が希薄だった。それが徐々に後ろからしっかりとつないで組み立てるようになり、日本サッカーは格段に進歩した。しかし、近年は明らかに劣勢なときでも無理につなごうとする傾向が出てきた。奪ったときにパスコースがなくて、自分たちの状態が悪いときでも、そこでキープをしてしまったり、むやみにパスを選択してカットされ、2重3重の攻撃を受けるシーンが多く見られるようになった。
 つまりそこには「判断」という要素が決定的に足りていない。状況を理解した上で、はっきりとしたプレーをする。頭の中に「つながなきゃ」という意識が先行してしまい、それがプレーの幅を狭めている。

 さらにキックの質の低下も目についた。クリアのキックが当たりそこなって味方に当たったり、目の前の敵に渡ったり、上空に高々と打ち上げてしまったりして、結果的にそれが失点につながるシーンも多く見られるようになった。

 例えばボールを奪った瞬間に前線にいい状態で攻撃を仕掛けられる選手がいるにもかかわらず、すぐに横にはたいてショートパスでつなごうとしてしまう。結局チャンスを自らつぶし、時として相手のフォアチェックに遭い、逆にピンチを招いてしまう。
 ここには3つのエラーが考えられる。1つ目は周りが見えていないこと、2つ目は自分のキックに対する自信がないこと、3つ目は見えているけど、つながないといけないという固定観念があること。この3つのエラーは将来的に選手の成長の妨げになってしまう。

■クリアもサッカーの重要な技術の一つ


広島皆実にはつなぐのか、蹴るのかの判断力、それを実行する技術があった

今大会はそうした質の低下が招いた失点シーンが多く見られた。象徴的な試合は星稜(石川)対作陽(岡山)戦だった。
 この試合は果敢なサイドアタックで星稜がペースを握っていたが、31分、ゴール前でクリアしきれず混戦となると、最後は作陽のMF花瀬翔平に押し込まれ失点。さらに56分には右からのクロスのクリアでキックミスしたところを、MF亀井拓実に拾われ、追加点を奪われた。この2点が大きく圧し掛かり、星稜はペースをつかみながらも2-4で敗れた。
 勝敗を分けたクリアの質。この試合は状況判断よりも、キックの質の低さが招いた敗戦だった。ほんのささいなことではあるが、それが結果に出てしまった。
 星稜対作陽戦以外でも、例えば準決勝の前橋育英(群馬)対鹿児島城西(鹿児島)も、3-5というスコアになったが、そのうちの5点のきっかけはクリアミス。ほかにも挙げたらきりがないほど、クリアミスからの失点が多かった。

 星稜の河崎護監督がこんな印象的な言葉を残した。
「さすがにクリアの練習はしていない。以前、ウチにブラジル人コーチが来たときに、クリアの練習を徹底してやっていた。そういうことだったんだね」

 筆者もクリアの重要性をフランスに取材に行ったときに説かれたことがある。あるクラブのスカウトは「どんなに難しい局面でもプレーをはっきりできる選手こそ質の高い選手。クリアもその一つ」と語っていた。

 サッカー先進国はボールをつなぐことはもちろん、劣勢を跳ね返す、悪い流れを断ち切るための手段としてクリアの質を重要視している。パスがつながればすべてがOKというわけではない。大きく蹴り出すという、今の日本サッカーでは時代錯誤ととらえられがちになっていることを、先進国ではしっかりと技術として取り組んでいる。

■つなぐ美学を求めすぎても危険な一面がある

これらをかんがみて、今大会をあらためて振り返ると、冒頭で書いたとおり、広島皆実が一番クリアの質が高かった。広島皆実はやみくもにつなぐことはなく、シンプルに蹴るところは蹴っていた。つなぐべきところ、はっきりと流れを切るべきところのメリハリをよく分かっていた。

 広島皆実が掲げる「堅守強攻」は、リスクマネジメントを意識した堅い守備から、勝負どころではリスク覚悟で強気の攻めに出ることを表している。つまりは勝負どころ、仕掛けどころを試合の中で見極める目が求められる。その目は、今つなぐべきか、シンプルに流れを切るべきかの判断にも大きく影響してくる。広島皆実はチームとしてその目を持っていた。そして日々の練習の中でその目をプレーで表現するすべを培っていた。だからこそ、プレーに強弱をつけることができ、1試合を通して戦い方をコントロールできたのだ。

 つなぐことに美学を求めすぎても危険な一面があることを忘れてはならない。要所でロングキックを入れたり、流れを切るクリアの技術があってこそ、つなぐという技術がより生きてくるのだ。
 それだけにクリアの質が一番高く、プレーにメリハリがあるという“違い”を持った広島皆実が優勝したことは、今後に向けて大きなヒントになるのではないだろうか。(スポーツナビ)


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