星野監督から「最後まで勝負をつけてこい」と送り出され、プロ初完投で3勝目を挙げた。
「ウチの監督、日曜日は機嫌がいいんです。釜田(佳直)が投げると負けませんから。大した高卒ルーキーですよ」
楽天の米村理コーチが明るく言った。今年の12球団の高卒ルーキーは38人。そのうち交流戦終了時まで一軍で生き残ったのはわずか3人、その一人が釜田だ。初勝利を挙げた5月27日以来、日曜の登板では釜田に負けがついていない。
6月17日の巨人戦では、強力打線を5安打1失点に抑えプロ初完投で3勝目。高卒新人として巨人戦初登板での完投勝利は、'87年の中日・近藤真一以来、25年振りの快挙となった。
そんな釜田にとって楽天の先輩・田中将大は特別な存在だ。'06年夏の甲子園決勝、駒大苫小牧・田中と、早実・斎藤佑樹の投げ合いをテレビ観戦していた中学生の釜田は、延長再試合が決まると、居ても立ってもいられず石川から甲子園に向かった。再試合を観戦後、その足で監督のところに出向き、「投手の方がカッコいいし、銭になりそうだから転向させてください」と申し出たという。以来、投手で甲子園を目指し、金沢高のエースとして3年の春夏連続出場を果たした。
ドラフト指名時、担当スカウトに「何故、1位じゃないんですか」。
楽天からドラフト2位指名を受けたときも、「何故、1位じゃないんですか」と真顔で担当スカウトに聞いた度胸の持ち主。星野仙一監督はかつて、“プロの投手に必要なのは、怖いもの知らずの強気の姿勢と負けず嫌いの根性、それに少々の運”と語っていたが、釜田はそのすべてを持ち合わせている。指導する佐藤義則コーチはこう語る。
「普通の新人であれば球速を気にするが、釜田は違った。田中のトレーニング法や調整方法ばかりを知りたがっていた」
佐藤はエース田中に“優勝するために投手の駒が必要だから色々教えてやってくれ”と頼んだ。釜田の快進撃を支えているのは田中直伝のスライダーである。
「簡単に自分のものにしているのは、あいつが身体の使い方や鍛え方を学んでいるから。単なる18歳じゃない。俺たちは30歳くらいで考えたことだよ」と佐藤はその姿勢を評価する。そんなことからコーチ陣の間でついたあだ名は“とっちゃん坊や”。釜田はしみじみと言う。
「2位指名でも入った球団が良かったから、今があるんです」
やっぱり、出来すぎの言葉を吐いた。(Number Web)