右ひざの故障によって一時、戦線離脱した日本ハムの守護神・武田久
今シーズンもここまで(7月15日現在)防御率1点台が7人、さらに前田健太(広島)、杉内俊哉(巨人)がノーヒット・ノーランを達成するなど、昨シーズン同様に『投高打低』の傾向は続いている。しかしその一方で、苦戦を強いられているのがクローザーたちだ。
ヒジの手術により今季絶望となった久保裕也(巨人)と林昌勇(ヤクルト)。また、ファルケンボーグ(ソフトバンク)、武田久(日本ハム)、ラズナー(楽天)、藤川球児(阪神)らは、ケガによって戦列を離れた。残されたクローザーたちも、中日の岩瀬仁紀を除けば、守護神として芳しい成績を残していない。今年、多くのクローザーを苦しめている理由とは何なのだろうか?
「いちばんの理由は、勤続疲労でしょう」と語るのは、野球評論家の山田久志氏だ。
「毎年50~60試合以上も投げていればどこかに負担がかかり、故障してもおかしくない。藤川なんて、これまで何もなかったのが不思議なぐらい。そして統一球が導入されたことも、まったく無関係ではないでしょう」
山田氏によると、統一球は従来のボールに比べ滑りやすく、これまで以上にボールを強く握るためリリースの瞬間、ヒジや肩に負担がかかるという。これに長年の勤続疲労が重なり、今年になって体が悲鳴を上げたというのだ。
また、同じく野球評論家の与田剛氏は、これらの理由に加え『3時間30分ルール』を挙げる。ちなみに『3時間30分ルール』とは、昨年起きた東日本大震災による電力不足問題の節電対策として設けられた「3時間30分を過ぎれば新たな延長回には入らない」という特別措置ルールである。これがクローザーに与えた影響とは何なのか?
「例えばホームゲームの場合、9回表や10回表の守りで同点や1点リードされている場面でも、これ以上延長に入らないと判断すればクローザーを投入するケースが増えた。つまり、これまで勝ち試合限定で投げていたクローザーが、負け試合であっても登板するようになったということです。さらに統一球の導入によってロースコアの試合が増え、それも登板過多の原因につながっている」
ケガや不調もあって、どのチームの絶対的な守護神の確立に頭を悩ませている
そしてもうひとつ、『3時間30分ルール』でクローザーを悩ませるのが、「準備の難しさ」だと与田氏は言う。
「これまでの延長12回までだと、どういう場面で出ていくのか、ある程度予測できたと思います。しかし、時間との勝負になると展開が読みづらい。私もクローザーの経験がありますが、いちばん苦労したのが準備です。体も気持ちも100%の状態で、はじめて力が発揮できるもの。それだけ登板のタイミングというのは非常に大きな問題なんです」
時間との戦いになれば延長に入るのか、入らないのかもわからない。そうした状況での準備は、想像以上の負担を強いることになるという。当然、このままではクローザー受難の時代はこれからも続いていくだろう。これらの解決策はあるのだろうか? 与田氏は言う。
「監督、コーチをはじめ、首脳陣にとってはすごく難しい問題だと思います。長い目でシーズンを戦っているとは思うのですが、目の前の試合は何としても勝ちたい。でも、それでは選手は壊れてしまう。だから、連投は2試合までとか、2点差以上は投げさせないとか、何か自分たちのルールを作るべきです」
そして最後にこう付け加えた。
「マイナーリーグのあるメジャーと違い、日本のプロ野球は絶対的な人数が少なすぎます。ひとりケガをしたからといって、すぐ次の選手というわけにはいかない。それはチームだけの問題にせず、野球界全体で取り組んでいくべきだと思いますね」
投手分業制となって久しいが、クローザーは常にチームの命運を握っている。それだけにどのチームもクローザーの確立に知恵を絞り、時間を費やしてきた。もちろんこれからも、そうした姿勢は変わらないだろう。ただ、これからは育て上げるのと同じぐらい、クローザーを守ってほしいと切に願う。(スポルディーバ Web)