「こうしたい」と「つくる」の間に 一級建築士事務所アーク・ライフのブログ

東京都町田市の一級建築士事務所アーク・ライフです。住まい手の「こうしたい」と「つくる」の間で要望を共有し一緒に考えます。

断熱耐震改修した住宅の室内環境のまとめ(12月~2月)

2021-03-10 10:34:07 | お知らせ
3月に入ったので、断熱耐震改修して11月末に引渡し済みのお住まいのデータをまとめることにしました。
netatmoを設置してデータを取り始めた12月5日から2月28日までの86日間の室温、湿度、CO2濃度をまとめます。
特にCO2濃度を確認することは、今回採用した、ファンやモーター、モーターを動かす電力を使用しないパッシブ換気が有効に働いているかを確認する意味で重要です。

パッシブ換気は寒冷地で室内外の温度差を動力源に利用する換気方法なので、温暖地と言われる東京では不向きとされることもありました。
しかしながら、室内外の温度差や様々な条件で検討するとそれなりに換気してくれそうなことがわかりました。
また、岐阜や関東を中心に取り組む事例に勇気づけられたこともあり、そしてなによりも複雑な部材を必要とせず、メンテナンス費用もそれほどかからないことから今回の断熱耐震改修した住宅で採用させてもらうことにしました。
事前の検討では有効に働くとわかっていましたが、実際にどうだったか確認しなくてはいけません。
その結果がこちらのグラフになります。



グラフによると、外気温は最低気温-4.8℃に下がるときもありましたが、室温はおおむね20℃、湿度は50%程度を維持していました。
また、CO2濃度も一時的に1000ppmを超えることがありましたが、ほとんどが1000ppm以下に納まっていました。

CO2濃度は換気が有効に働いているかを確認するための指標になり、ビルなどに適用される建築物環境衛生管理基準ではCO2の濃度を1000ppm以下にすることとされています。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/

ちなみに学校の教室は冬は締め切りになることが多く、2000ppmを超えるような値が観測されることもあるようです。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/04062201/032.htm

温暖地には不向きと言われたパッシブ換気は、東京でも有効に働いていることが確認できました。

このグラフだけではわかりにくいので、室温とCO2濃度がどれくらいの累積時間になるかをまとめたグラフもつくりました。



このグラフは室温の累積時間をまとめたもので、普段どれくらいの室温で暮らしていたかを確認するためのものです。
このグラフから86日間の観測期間の中で、室温18℃未満になった時間帯は0.5%しかなく、残りの99.5%が18℃以上でした。また18℃以上23℃未満の時間帯は95.5%で、室温は18℃から23℃未満の範囲で緩やかな変動をしていて、どの時間帯もおだやかな温度で暮らしていることがわかります。



このグラフはCO2濃度の累積時間をまとめたもので、どれくらいのCO2濃度が多いかを確認するためのものです。
このグラフから86日間の観測期間の中で、CO2濃度が1000ppmを超えたのは5.2%しかなく、のこりの94.8%が1000ppm以下でした。ほとんどが450~850ppmの間で、温暖地ながらパッシブ換気が有効に働いていることが確認できました。
パッシブ換気は室内外の温度差による重力換気が原動力なので、これからの季節はもちろん働かなくなり、換気量が減っていきますが、そのことは織り込み済みです。換気量が小さくなってきた段階でバックアップ用に設けた換気扇を運転することになります。

この冬の観測を通してパッシブ換気の有効性が確認ができたので、このメリットをこれからの建て主様にもぜひ提供出来たらと考えています。

パッシブ換気の技術を研究し、体系化して紹介している北海道立総合研究機構 建築研究本部北方建築総合研究所(北総研)の資料
https://www.hro.or.jp/list/building/koho/pdf/gijutu/passive.pdf
https://www.hro.or.jp/list/building/koho/pdf/gijutu/passive_manual.pdf

北海道でパッシブ換気に取り組んでいる建築家、山本亜耕さんによる解説記事
今回の断熱耐震改修にあたり沢山のご指導をいただきました。
https://ako-re.blogspot.com/2018/10/blog-post.html

岐阜県でパッシブ換気に取り組んでいる凰建設さんの紹介記事
分かりやすくよくまとまっています。
https://www.ohtori.net/k-blog/%E3%83%91%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%96%E6%8F%9B%E6%B0%97%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%AA%E3%81%AB%EF%BC%9F%E3%83%87%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%84%E5%A4%8F%E3%81%AE%E9%85%8D%E6%85%AE%E3%81%AF/

関東を中心にパッシブ換気に取り組んでいるパッシブ技術研究会のwebサイト
パッシブ換気に欠かせない排気部分の部材を扱っています。
https://www.passive-gijutsu.com/