ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

山本 兼一【千両花嫁 とびきり屋見立て帖】

2013-02-11 | 文藝春秋

愛らしいような新婚さんの夫婦ものの時代小説。ドラマになったらかわいいかも。

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 千両花嫁―とびきり屋見立て帖

 著者:山本 兼一
 発行:文藝春秋
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舞台は幕末の京都。
三条木屋町で道具屋「とびきり屋」を開いた真之介は、自分が奉公していた茶道具の大店「からふね屋」の娘・ゆずを駆け落ち同然でお嫁さんにもらいます。
表題作「千両花嫁」は、その顛末を描いたもの。
千両は、ゆずをもらいたいと彼女の父親、「からふね屋」の大旦那に申し出た時に言われた条件のひとつです。
間口4間の店を構え、結納金千両を用意できたらくれてやる。
千両といえば大金です。すごい嫁ですよ、ゆずちゃん。
でも、真之介は、その千両を準備して、ゆずちゃんを迎えに行きます。
結局許してもらえず、駆け落ち同然で始まったふたりの生活。
「とびきり屋」はまだまだ小さいお店ですが、今は京の都には全国から人が集まっている時期、お土産としても手頃な品を多く集める真之介の店はなかなかの繁盛ぶりです。

そのお店には、歴史上の人物もお客として訪れます。
時は幕末。動乱の時。近藤、土方、坂本、高杉といった幕末のスターたち。
歴史上の人物に光をあて、新たな人物像をつくりあげるのがお得意(『利休にたずねよ』で直木賞受賞。)とみえる著者らしい雰囲気でもありますが、目利きが勝負の道具屋の話らしく、彼らも真之介とゆずの目利きの対象となってしまいます。
観相学の観点から描写される彼らの姿。
信長や秀吉、家康といった時代ではありませんから、彼らには現存する写真がありますものね。

道具屋という商売の特異性と、庶民から見た幕末という時代の雰囲気をあわせた作品はほどよいおもしろさで、軽い読み物としてはうってつけ。
収められているのは表題作を含め7篇で、道具と人々とが絡んで持ちあがる事件に、目利きの腕と商人の心意気で向かっていく真之介とゆずのがんばりと結末のさわやかさが魅力です。
シリーズは始まったばかりですから、この先、どのように展開していくのかはわかりませんが、ふたりはきっと乗り切っていけるのでしょう。
そう思えることが気持ちよく、楽しめるお話でした。

シリーズは第2弾『ええもんひとつ』、第3弾『赤絵そうめん』まで刊行されており、文庫化は『ええもんひとつ』まで。
第1弾では近藤たちは京についたばかりで、まだ芹沢鴨も生きています。
坂本は勝海舟と出会って開国に目覚めたあたり。
シリーズの背景としてのただの賑やかしではなく、少しずつそれぞれの人物の化けっぷりが鮮やかに描かれていくのであれば、シリーズ全体の読み応えが増すだろうと思います。
さて、どうなるのでしょう。





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2 コメント

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ボケボケなことに (koharu)
2013-04-08 17:00:53
この記事を読んで、「ええもんひとつ」が1巻目ではなかったことに気が付きました(^^;)
ずいぶん思い出ばなしの多い話だな~~と、思ってはいたのですが…… 
おもしろかったので、
「千両花嫁」も読んでみます。 
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koharuさん (きし)
2013-04-08 22:19:10
いらっしゃいませ ^^
私もこのシリーズを知ったのは「ええもんひとつ」の広告ででした。本屋さんで隣になかったら、そちらから読んでいたかも。
もうね、新婚のふたりがかわいいです。せっかくですからせひ。
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