ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

沢木耕太郎【キャパの十字架】

2016-04-30 | 文藝春秋

ロバート・キャパは、その名を聞けばその作品のひとつやふたつは思い浮かぶという有名な写真家です。
彼が題材にしたものを考えれば「キャパの十字架」というタイトルの持つ重苦しさもふさわしいような…。
実際に読み終えてみると、私が読む前に思っていた意味とはちょっと違っていましたが。

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 キャパの十字架

 著者:沢木耕太郎
 発行:文藝春秋
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この本のなかで著者が追うのは、傑作と言われる「崩れ落ちる兵士」です。
キャパを有名にしたこの写真はいかにして撮られたものか。
スペイン戦争の象徴ともなったこの写真に写る兵士はだれか。
撮影された場所はどこか。
この写真を撮ったのはほんとうにキャパなのか。
この写真はほんとうに兵士が撃たれたその瞬間を捉えたものなのか。

立てられた問いを読んだとき、この本の結論は見えたような気がしました。
この写真がキャパのものであろうとなかろうと、これが兵士への死の訪れの瞬間であろうとなかろうと、写真家としてのキャパが損なわれるものでも、この写真が世界に与えた衝撃が変わるものでもない、と。

結末が予想できるからと言って、本がつまらなくなったわけではありません。
むしろ予想できるからこそ、著者が写真に対して感じる疑問を追求し、先行研究を調べ、スペインに足を運び、様々な資料に当たっていく、その過程の丹念さを一層興味深く読むことができたような気がします。
写真家の物語と写真そのものがたどる物語。そして写真を見る者の物語。
時間の流れの中のある一瞬を切り取った写真がどのように意味づけられていくか、その瞬間自体と、様々なものを付随し写真として人々の中に提示された瞬間の捉えられ方の乖離こそが、作品としての写真とも思えるほどです。

以前「写真の読み方」という本を読みました。
写真はどのようにみせるかで意味が変わるということを印象付けられた1冊で、私にとって強烈な読書体験でした。
その時から写真というものに対しての姿勢が変わっていたせいもあると思います。

第17回司馬遼太郎賞受賞作である1冊。単行本の発行は2013年。
著者がキャパの足跡を追う『キャパへの追走』にも興味がわきました。
いずれ。

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 キャパへの追走

 著者:沢木耕太郎
 発行:文藝春秋
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