ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

太田 光【向田邦子の陽射し】

2014-03-19 | 文藝春秋

「それでも僕は語りたい」。
「そうおっしゃるならば、聞かせていただきましょう」という気分で手にした1冊。

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 向田邦子の陽射し

 著者:太田光
 発行:文藝春秋
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どれだけ好きなんだ、太田!と、心のなかで呼び捨てにしてしまうほどに、向田邦子さんその人とその作品への敬愛にあふれています。
好きな作品を惜しげもなく列挙し、ここがいいんだよ、ここがすごいんだよと、言葉を尽くす。
作品の中に生きる男たち、女たちに心を寄せると同時に、浮かび上がる人の業の深さと、それを鮮やかに描きだした向田邦子という物書きの凄腕に心酔する。
市井の人々の営みを描くことへのこだわりの中に大きな権力のもつ愚かさを見抜く視線の冴えと、その愚かさすら愛おしむ心の深さを感じとる。

「僕はこう読んだ」という熱っぽい解説と、『向田邦子の恋文』の著者である向田和子さん(向田邦子さんの実妹)との対談、そして、実際の向田作品がいくつかとりあげられているこの本は、向田邦子の読者を増やすのでしょうか。
具体的な数字を答えとして知りようもないこの疑問はおいておくとして、どうせ書くなら、これくらいの熱量をもって書き尽くしたいのがファンというものなのだなと、思わされてしまいました。
もうおなかいっぱいで、あなたの顔を思い浮かべずに「向田邦子」という文字をみられませんよ、私は。

私のイメージの中にある向田邦子作品は、出会うべき人が出会うべくして出会って読み、密かに共感したり、まるで近親憎悪のような厭わしさを感じたりしながら深く心に刻むだろうもので、ましてや薦められて読むものではなく、その良さを人に教えてもらうものでもないもの。
正直なところ、これほど大っぴらな熱弁は似合わないものだと思います。
好きであればあるほどに、言えなくなるような。
ああ、そうか、これが「それでも僕は語りたい」ほどに好きということなのか、と、改めて帯の文字を眺めてしまいました。





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