ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

小倉和夫【名作から創るフランス料理】

2013-02-09 | and others
 
薄い本なのに、大層な読み応えでした。
しかも、おいしそう!

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 名作から創るフランス料理

 著者:小倉 和夫
 発行:かまくら春秋社
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メニューのような雰囲気の表紙を開くと、まずはまえがきです。
名作の中に登場する料理を現代的にアレンジして再現して食することで、料理としての味と文学的意味の両方を感じとってみようとしたのが本書とのこと。
実際に2年に亘り開催されていた文学作品についての講義とお食事会を組み合わせた講演会の内容をまとめたものだそうです。
なんとも楽しそうな講演会。ちなみに主催は国際交流基金。さて、いったいどのような方が参加されていたのでしょうか。
なんというか、あれですね?
ぐぐっと自分の好みに引き寄せて(引き寄せすぎ…。)考えてみると、鬼平が食した軍鶏鍋を食べてみましょうという感じ?

名作として選ばれたのは、著者は元駐フランス大使でいらした方でもあるので、フランスの名だたる文学作品の11作です。
まずは、プルーストの『失われた時を求めて』。
となれば、デザートはマドレーヌというわけです。
続くのは、エミール・ゾラ『ナナ』、フローベール『ボヴァリー夫人』、モーパッサン『ベラミ』。
バルザック『幻滅』、デュマ『モンテ・クリスト伯』、コレット『シェリ』、ロジェ・マルタン・デュ・ガール『チボー家の人々』。
フランソワ・モーリヤック『テレーズ・デスケルウ』、スタンダール『赤と黒』、マルグリット・デュラス『モデラート・カンタービレ』。
ここは既読であるか否かは気にしないでいこうと手にした本でした。
たいていこういう本は意外に親切なのです。
その点については期待どおり。
作家についても、作品についても軽い説明がまずあり、時代背景や作品の位置づけが確認できます。

その後、本題。
作品のなかに登場する料理や食事にまつわる場面やエピソードがとりあげられ、その意味合いが解かれます。
食という基本的な事柄に現れる登場人物たちをとりまく状況や心情。
既読、未読によらず、なるほど、と思いながら読むこととなります。
料理がメインのような印象のタイトルですが、この部分もみっちりしていて、すっかり読み終えた気分を味わってしまいました。
著者の方が退官された後、教授を務められたのは国際政治経済学だったようで、直接文学に関連しそうなプロフィールではなかったように思えましたけれど。

そして、ページの間にはお料理の写真がさしはさまれます。
写真は必須ですよねー。お料理の名前だけをみても、イメージがわからないものも多いですから。
フランス料理で、ナントカ風とか、ナントカソースとかいきなり言われてわかるような私ではありません。自慢じゃありませんが。
写真があることで、はじめて、うーん、おいしそうという気分がわき、同じく物を食べる人間としての親近感が登場人物に湧こうというものです。

では、いくつか、メニューを写してみましょう。
『モンテ・クリスト伯』の食卓の場合、奄美大島産 山羊肉のタルタル、平目のソテー マグレブ地方のスパイス ラズエラノー風味、キジ・トリュフ・栗のブレゼ 旬の茸添え、コルシカ島のフロマージュを詰めたファタイエ、カルダモン風味のサヴァランにのせた秋のフルーツグラタン、コーヒーまたは紅茶とミニャルディーズ。
『シェリ』の食卓の場合。
レオ風エスカルゴのジロールのヴォ・ロ・ヴァン、手長海老のポアレを芳醇なクリームソースと共に 冬野菜のエチュヴェを添えて、シャラン産鴨のロースト カシス風味のビガラットソース、ブルゴーニュの完熟フロマージュ:シャロル、エジー・サンドル、スーマントラン、ライムの熱々スフレ。

これらのお料理を実際に作る厨房を指揮されたのは、ローヤルパークホテルの斎藤正敏シェフだそうです。現代にあうお料理にアレンジするのが工夫と腕の見せ所。
テーブルセッティングも趣向が凝らされたようですし、もちろん、ワインも吟味されています。
どれもおいしそうでした。
ちなみに、「ファタイエ」はちょっと見、揚げ餃子みたいな感じです。

あとがきにはこうありました。
『この本を通じて、読者の方々が世界の食文化の交流の意味を考え、またそうした交流にあたって、知的センスと感性をどのように組み合わせていくべきかについて、思いを深めていただければと幸いです。』

…努めます…。



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