ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

人々の時間。 原田 宗典【人の短篇集】

2008-07-25 | 角川書店
 
たまに仕事で行く場所の最寄り駅には図書館が併設されています。
文庫本(時には単行本も)常時携帯のくせに、ついふらふらと入館。
めったに図書館には行くことがないので、なんとなくわくわくします。
小さな図書館ですのでさほどの書籍数ではありませんが、それでも文庫化を待っているいくつかの本はありますし、当然のごとく古典のたぐいはそれなりに充実。
雑誌などもあって、若年層の利用も多いのか、入ってすぐのところにはコミックスも。
書棚を作家名順に眺めていくだけでも飽きませんし、小1時間はある電車の待ち時間もあっという間。
ただ、ここに来るのは年に数回のことで来年があるかもわからないと思うと、貸出カードを作るのもどうかという感じで、たいていは読みかけになっても泣かずにすむような短編集を拾い読みしています。

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 人の短篇集
 著者:原田 宗典
 写真:久山 城正
 発行:角川書店
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タイトルがちょっと気になって手に取った1冊。
どんな雰囲気なのかと目次をみると、1篇が5、6ページというところで、全部で21篇。
たとえ時間切れになっても、区切りのよいところまでは読めそうです。(結局、電車を待っている間に読み終わってしまいました。)

『電気工事夫の屈託』、『一瞬を生きる』、『郵便配達夫の片想い』。
『人を喰う本』、『調香師の不幸と幸福』、『骨董屋の見たもの』。
『百点満点の家』、『気だるい獣医』、『遠くにいる自分』。
『編集者の彷徨』、『過去を訪ねて』、『ベルボーイの思い違い』。
『小さく大きな舞台』、『空家の中に』、『降りてきた女』。
『何もないデパート』、『彼の一千万円』、『タクシードライバーの憂鬱 』。
『スタンドボーイの夢』、『塩辛いおしぼり』、『レフェリーの勝利』。

どんな職業も一長一短。
どうあがいても単調さの紛れ込む毎日の中にぽっかり浮かび上がる喜怒哀楽が、自分にもそういう日があったかもしれないという現実感と、美しく切り取られた写真のような非現実感との間で描かれています。
ちょっとオカルト風味のものもありますが、総じて少し切ない感じ。

行き先のなくなった恋心がつまった封筒をもつ郵便やさんの手。
奥さんの浮気の証拠をかぎつけてしまった調香師の鼻。
迷子を前にして自分の無力さを知る一瞬。
老写真家が撮った最後の作品。

図書館で読んだのは単行本でしたが、もう文庫化されているようです。
何気なく手にした小冊子のなかで、ふと目を留めて、短い時間で読み終える、そんなふうな長さの物語です。
断片的で、登場する人々の造詣もざっくり。
ただ、どの作品にも鮮明に刻まれるイメージがあって、その鮮やかさが読後感を膨らませる1冊でした。





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