ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

ロバート・チャールズ・ウィルスン【ペルセウス座流星群 ファインダーズ古書店より】

2012-11-21 | 東京創元社
 
SPIN三部作『時間封鎖』、『無限記憶』、『連環宇宙』のロバート・チャールズ・ウィルスンの短編集。
久しぶりにSFを読んだせいもあってか、なんだか夢中になって読んでしまいました。

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 ペルセウス座流星群 (ファインダーズ古書店より)

 著者:ロバート・チャールズ・ウィルスン
 訳者:茂木健
 発行:東京創元社
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“発見者”の名を持つ謎めいた古書店を接点として、広大無辺な宇宙とささやかな日々の営みが交錯する。古書、望遠鏡、チェス盤、鏡―ささいなきっかけがもたらす非日常への誘いは、やがて秘められた世界、正気と狂気の狭間へと、人々を導いてゆく。ヒューゴー賞・星雲賞を受賞した『時間封鎖』の著者が新たな側面を見せる、時に妖しく、時に幻想的に描かれた、珠玉の連作短編集。
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表題作を含む9編がおさめられている短編集です。
タイトルは次のとおり。
『アブラハムの森』、『ペルセウス座流星群』、『街のなかの街』、『観測者』。
『薬剤の使用に関する約定書』、『寝室の窓から月を愛でるユリシーズ』。
『プラトンの鏡』、『無限による分割』、『パール・ベイビー』。

サブタイトルに「ファインダーズ書店より」となっているのは、1軒の古書店が、ゆるくそれぞれの物語をつないでいるから。
ファインダーズ。発見者たち。
発見することは発見されるということ。あんまり見つめていると見つめかえされてしまう。見る者と見られるモノの関係が、それぞれの作品の中に潜んでいます。
といっても、この本の場合、「つながっている」ということに大きな意味があるとか、それが深い感慨を呼ぶとかいうわけではなく、まあ、そういう趣向なのかという程度なので、その点に期待しすぎると肩透かしをくらうかも。

著者の作品は、ちゃんとSFなのだけれども、時々SFではないものを読んでいる気がしてしまいます。
最初に読んだ出世作『時間封鎖 SPIN』、あれほどSFっぽい設定をもった作品ですら、強くそう思ったくらいですから、この三部作以降、遡って文庫化されている過去の作品もその雰囲気は変わりません。
今回の作品たちもそうです。背景や展開はとてもSF的、あるいは幻想的。
たとえば、最初の作品『アブラハムの森』では、書店主の老人と少年がチェスをしている時に、別の世界に入り込んでしまいます。その世界は奇妙で美しく、老書店主が語る世界の成り立ちはとても興味深いものですが、主人公の少年が本当に心を砕いているのはたった一人の肉親である姉についてであり、その葛藤はSFだから生まれるというものではありません。
どこにいようと、どんな状況でも、物語は、今の延長を生きるその人のもの。
『無限による分割』などは地球滅亡のお話で、これまたえらくSF的な世界のとらえ方が語られているというのに、亡くした妻を思いながら生きている老人が永遠の話し相手をみつける話のように思えてしまいます。
『寝室の窓から月を愛でるユリシーズ』も、猫と人間の関係のように、人間に干渉する存在があるかもしれない、説明のつかない不思議があることこそその証明ではないかと語りながら、終わってみれば、変わったのはある男性の妻と男性の親友との浮気が未然に防がれたことだけだったり。
こんなにSFなのに、時にSFっぽくないと思うのは、そちら側の世界に行くのではなく、今、この場所にその世界を引き入れた物語であり、異なる世界との境界に立たされた時、境界を軽々と飛び越えてしまう冒険者たちのSFではなく、この世界に留まり、見つめかえす発見者たちのSFだからなのかもしれません。



[読了:2012-11-15]





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2 コメント

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おおこれは! (かもめ通信)
2012-11-21 09:13:32
とっても気になっていて,アマゾンのカートには入っているのですが,某献本にあがらないかしら?とか密かに思っている本です。(笑)
タイトルもいいし!
やっぱり,買おうかしら?
返信する
かもめ通信さん (きし)
2012-11-21 21:34:08
こちらのほうまでありがとうございます。
アンテナにかかってましたか?
献本、あるかもしれませんよねー。もう少し待ってみてもいいかも?
ほら、積むのは簡単だから(笑)
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