きれいな表紙です。
第1集『虫と歌』は緑でした。今回は青。

25時のバカンス
市川春子作品集(2)
著者:市川春子
発行:講談社
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なんとも言えない風情をもった作品集です。
細い線で描かれるほっそりとした登場人物たちが言葉を交わしあう画面はいかにも繊細な印象ですし、物語もそれに見合った繊細さのエロティシズムとグロテスクさを伴っています。
何か生み出す人は違うなぁと思わずにはいられない奇想と詩情による3篇。
表題作『25時のバカンス』に登場するのは貝になった人です。
「わたしは貝になりたい」とかそういう話ではありません。内臓は深海の生物に分解されてしまっていて、体内はからっぽ。その代わりにその深海生物が3体入っています。
美女の外殻。中にはくにょくにょした海の小さな生き物。
等身大の人型美女ビスクドールの中にイソギンチャクを飼う、みたいな感じでしょうか、たとえれば。
内臓という内臓、もちろん脳も食われて、なぜ生きているのか。
…貝ですから。人間ではないので人間の脳がなくても当然生きていけます。でも、人格(知能含む)は、通常の貝殻でいう真珠層のようなところに定着している(らしい)のだそうです。
もう寄生などという段階ではなく、別の生物として作り変え。でも、こういう細かいところは別にさほどのことではないのです。異種であること、いや、異種になることかな、それが、たぶん大事なわけで。
異種と心を通わせること自体は第1集のときから続くテーマで目新しいわけではありませんが、第1集のほのぼのとした雰囲気の中に収めていたところから比べると、第2集ではずいぶんと深いところへ進んだ気がします。
『25時のバカンス』の主人公は年の差12の姉弟で、弟・20歳には、幼い頃の怪我が原因で片眼が血の色をしているという異常があり、それは通常の人間関係からの疎外感をうえつけ、奇妙な生き物への共感を生んでいます。
一方、姉はもはや血も流れていない貝人間。彼女は久しぶりに会った弟に奇妙な生き物になった自分を見せるのですが、その行動には弟への近親相姦的な愛情が秘められています。
と、ここまでの説明は間違っていないはずです、たぶん。
が、この先となると、実際に読んでそれぞれに解釈して納得するしかなかろうなぁという表現で、展開されていきます。
妙な生きものや変人たちがたくさん出てくる、会話の間が楽しいSFファンタジーとして読むのもよし、うっすらとしたラブストーリーとして読むもよし、こんなセリフに唸るもよし。
『寂しいのは悪いことではありません 他の存在に感謝することができます 孤独は生まれてから塵に帰るまでの苦い贅沢品です』
頼むからもっとわかりやすく描いてくれ、も、深読みするのが楽しいのである、もありでしょう。
最後のセリフは姉が弟に言う『おまえは 私を 粉々にしてもいいんだ』。
ああ、だから貝なのかと腑に落ちると同時に、さて、と思います。
描かれていないこの次の場面、次のセリフはどんなものでしょう。
第1集の作品に比べて、濃い味へ移行した印象なのは「死」が遠くのものではなく、確実な、すぐ近くにあるものとして感じられるからだと思います。
…貝人間はどこまで粉々になれば死んでしまうのかわかりませんけれど。
収められている3編は『25時のバカンス』、『パンドラにて』、『月の葬式』。
好きなのは『月の葬式』でしょうか。
少しずつ穴の開いていく体と、月を壊すリモコン。
3つのなかでは1番わかりやすいと思います。
[読了:2012-11-19]
私いまいち難しくて理解できなかったもんで…。
25時のバカンスはエロくて良いよね!
1もよかったけど、2もよかったねー。
「パンドラにて」、語り合いましょー!