ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

美しく大切な日々。 高楼方子 【十一月の扉】

2008-11-29 | 新潮社
 
11月になったら、そして、11月が終わる前に。
そんなふうに読み始めたくなるようなタイトルです。
本屋さんの中の、微妙な場所の平台というかワゴンにあった本です。
新刊とは別の、オススメ枠?

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 十一月の扉

 著者:高楼 方子(たかどの ほうこ)
 発行:新潮社
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中学2年の爽子が、ある日、双眼鏡の中に見つけた素敵な家。
十一月荘と名づけられていたその家に、思いがけず下宿することになった彼女の、クリスマスまでの2ヶ月間が描かれます。
溌剌としておおらかな家主の閑(のどか)さん。
建築家としてバリっとがんばっている苑子さん。
一児の母で不思議な雰囲気をもつ馥子さん。
馥子さんの一人娘で小学生のるみちゃん。
明るく朗らかに、でもお互いきちんと気を遣いあって気持ちよく暮らしている十一月荘の生活に、爽子は瞬く間に馴染んでいきます。
おしゃべり好きなお隣の奥さんや、閑さんに英語の習いに来ている1つ年上の少年も十一月荘での生活に彩りを添え、飛ぶように過ぎていく爽子の毎日。

自ら望んで家族から離れたことへの気負いと、十一月荘で暮らせる喜び。
浮かれたり落ち込んだりの間にも、自分を冷静に見つめる自分を失わない爽子。
節度があり、しかも爽子の憧れの対象となり得る女性たち。
それと裏腹に、捨てきれない母親へのわだかまり。
少年への淡い恋心。

なんと美しく輝く毎日であることか。
過ごしているそばから決して忘れることのない大切な思い出になることが約束されたような十一月荘。
綺麗すぎるかもしれません。
でも、いいです、それで。というよりも、それがいい。
少女時代をとうに過ぎたところで読む物語の中の少女は、力を抜こうよと肩をたたきたいような硬さと、日々の出来事を物語として記す少女らしい柔らかさをもって、自分と世界を見つめています。
爽子が現実に呼応させて書く童話よりも、もっと童話のような甘さのある物語。
爽子と同じ年頃の読者であれば、主人公と一緒にドキドキできるのでしょうけれど、本当にこういう時があったら良かったのにという理想の少女時代を懐かしむような想いで読んでしまいました。
私もいいかげんにしろと言われそうな少女趣味ですねぇ。

こちらは単行本の表紙カバー。
爽子がはじめて十一月荘を探し当てた時の場面です。
ちょっと外国の物語のような雰囲気ですね。

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 十一月の扉

 著者:高楼 方子
 発行:リブリオ出版
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解説が少し変わっていて、解説者が物語に登場する少年になって爽子に手紙を書くという内容になっています。
これも合わせて1冊の本という印象。
こんな形で作品と響きあう解説もあるのだと驚きました。
作品自体が、少女の優しい日々を描いたものだからこそ成り立つのでしょうけれど。
アンに石板を叩きつけられたギルバートの気持ちになっていた頃を思い出して、とありましたが、そういう気持ちで「赤毛のアン」と読んだ男の子はどれくらいいるものでしょう。
「赤毛のアン」や「若草物語」を読んで、アンやジョーやベスに恋をする。
そういう読み方が少年時代にできたとしたら、その男の子はどんな大人になるのか。
それ以前に、読んだことがあるかどうかから聞かなくてはならなそうですね。
少なそう…。





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