ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

蜷川さん演出『お気に召すまま』を観てきました。

2007-08-27 | 観るものにまつわる日々のあれこれ
 
蜷川さん演出、成宮、小栗主演の『お気に召すまま』を観てきました。
今回は2004年から数えること3年、今年2007年の再演。
男優だけで演じられるシェイクスピアの恋愛喜劇です。
観てきたのは仙台公演。日程からみると、おお、前楽ですな。
26日が今回のツアーの大楽。
それではチケットとるのが大変だったのも道理。I嬢の妹君に感謝です。

貴族の三男坊・オーランドー。
亡き父の後を継いだ長男とは不仲で、鬱屈している毎日。
次男は留学中だというのに、自分は満足な教育も受けさせてもらえず、召使達と同等の扱い。
長男は、教育を受けさせずとも教養があり、召使同様に生活させても気品を保ち、人に慕われるオーランドーが妬ましくてならないのです。
兄の自分に対する不当な扱いに、とうとう爆発したオーランドーは、自分ひとりで身を立てるとばかりに家を出て、公爵主催のレスリングの試合に出ます。
怪力レスラーを倒してしまうオーランドー。
このあたりが長男に疎まれる理由ですな。
ただ、この試合は結局彼自身の首を絞めることになり、追われる身となる格好で出奔する羽目になります。
物語の始まりから踏んだり蹴ったり。
でも、彼はここで美しい姫君ロザリンドに出会い、ものも言えないほどの恋心を抱きます。
とはいえ、家を、街を出なければならない身の上。どうもなりません。
老いた爺やをお供にあてどもない旅に出ます。(ここの爺が泣かせます。)

一方のロザリンドも同様、凛々しい若者ぶりのオーランドーにひとめぼれ。
公爵の娘で従姉妹にあたるシーリアを相手に恋心を語りますが、事態は急変。
公爵は、慎み深くしおらしいロザリンドに対して、彼女が爵位を奪われた前公爵の娘であることを理由に、城から出ていけと迫るのです。
もともとはシーリアの願いで城に留まっていた彼女ですから、いまさら謀反を疑われても寝耳に水。
途方に暮れるところでしたが、シーリアの明るい決断で、城から逃げることになります。
しかも、ロザリンドは身の安全のために男に変装して。
シーリア曰く自由を目指しての旅立ちです。目的地は前公爵が身を潜めるアーデンの森。

オーランドーと男装したロザリンド、このふたりの恋の行く末と、彼らがそれぞれに逃げ込んだアーデンの森にいる羊飼いたちの錯綜した恋物語は如何に収束するのか。
とても楽しい物語です。

さて、今回の公演はどうだったかといいますと。
初演を観ていないので比較は出来ませんが、十分楽しむことができました。

まず、客層の違いにびっくり。
若いお嬢さん方がいっぱいなのですよ。
主演ふたりの登場に、歓声が上がったりしたら、どうしましょう?!という不安を覚えてしまうような印象。
実際はそういうことはなかったのですが、どこかで釘を刺されていたようですね。
ことに、会場の通路も使っての演出で、キャストたちが客席を通り抜けていく場面も多かったので。
私の席は、通路に近くではあったのですが、主要キャストが通る通路からは1本離れていたので、すこし残念といえば残念。

成宮くんは、女の子のロザリンドと、男の子のふりをしているロザリンドを演じることになりますが、これがなかなかのもの。
男が演じる女の子という過剰な感じが面白いのです。
言葉は悪いですが、女の子に見えないところが、観ていて楽しくて、かわいい。
ロザリンドへの恋心を語るオーランドに、恋の練習相手になってあげようと持ちかけ、男装のまま、自分自身のふりをする後半のシーンが見所です。
喜劇って楽しいなぁと、単純に思えます。
男の子が演じるロザリンドを観てからでは、女の子が演じるロザリンドがどういうものかちょっと想像できません。

一方、オーランドーの小栗旬。
TVでみるへなちょこぐあい(観るたび可笑しくて笑ってしまう。)が嘘のよう。
意外に声が出るのですね。
舞台のほうが絶対にいいです。もともと長身なのでしょうけれど、頭が小さいので、一層すらりとみえて、若木のような青年ぶり。
こればかりは「若さ」と「若々しさ」の違いのようなもので、芸だけでは補えないものがあります。
これはオーランドーの魅力でもありますが、ロザリンドへの気持ちを綴った言葉をアーデンの森の木に貼りまくっていく場面のかわいらしさにはマイります。
かっこいいはずの場面より、かわいい場面の印象が残っているというのは、私が歳をとった証拠なのかも。

ただふたりに共通した弱さは、口跡の悪さ。
登場人物すべてが、立て板に水といった風情で、山ほどの言葉を話すシェイクスピアの芝居では、かなり痛い。
もちろん全部がだめなわけではありませんが、一瞬、ただの早口に感じてしまうところがあるのが残念。しかも口の回っていない早口。
ベテランの吉田鋼太郎さんや、田山涼成さんの声のよさ、明瞭さとは比較のしようがありません。
主演ふたりを周りからがっちり固めて、舞台全体を締めてくれる心地よさは格別です。
他のキャストで眼を引くのはジェイクイズ役の高橋洋さん。観るたび存在感を増すようです。
それと蜷川さんのシェイクスピアによく出演している月川悠貴さん。
女役です。
これがまた舞台の上で格別綺麗なのですよ。
知らずにみたら女性だと思うこと間違いなしです。
成宮くんがちゃんと肩や首を隠したドレスで登場するのとは対照的に、デコルテをしっかりみせて、なおかつそれで綺麗だというのは一体どういうことなのか。
ロザリンドとオーランドーの様子を何をするでもなく傍観しているところの冷めた風情がたまりません。

いろいろと楽しませてくれた舞台ですが、印象に残るのはアーデンの森のセット。
結構な傾斜と思われる八百屋舞台に設えられた森は、冒頭のペロンとした書割の建物のセットとの対比も相まって、深い奥行きを感じさせます。
白っぽい照明とうっすらとかかる靄が濃い緑を浮き上がらせて、物語の中で逃亡者達を守り、安らぎを与える場所である森を印象付けます。
とても静かな雰囲気なので、その中で演じられるドタバタがまた楽しい。
蜷川作品はいつもセットが楽しみです。

個人的な好みからいえば、蜷川さんの作品では、シェイクスピアの悲劇より(蜷川さんのハムレットにあまりいい印象がありません。)これでもかと重っ苦しいギリシア悲劇が好きなのですが、これはとても楽しかったです。
他の方の演出、キャストでも「お気に召すまま」とちょっと観てみたくなりました。

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 訳者:阿部 知二
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これはきっと読むより観るのが楽しいとおもいますが、このせりふが入っているのは、この作品だったのですね。
「世界は舞台だ。そして、すべての男も女もその役者にすぎない。」
ジェイクイズのせりふです。
なかなか厳しいせりふも多いので読むことにも興味を惹かれます。
「売れるときに売っておけ!」とは、一途な求婚者に背を向けて、こともあろうに男装したロザリンドに岡惚れした羊飼いの娘に、ロザリンドが言うせりふ。
男装しているとはいえ、これが言えるロザリンドって、どうよ。

う~ん、どの訳で読むかも悩みどころ。







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7 コメント

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いいなあ (むぎこ)
2007-08-27 07:21:22
舞台ってなかなかいけません・・・
だからいつもうらやましい
でもシェークスピアは小さな劇団がやったのをみたことあります
これも
それにしてもシェークスピアってセリフがとてもたのしい
そうそうシェークスピアの翻訳家の小田島先生って毎日観劇だそうです日によっては2本くらい・・・。
ぜんぶご招待のようです。うらやましいけどなんだかたいへんそう。
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いいですね~ (koharu)
2007-08-27 17:08:27
若い子で一杯のシャークスピア舞台・・・っていうのも・・・

シェークスピアさんの時代は男の子が女の子役をやっていて、その主人公の男の子を主役に据えたお話っていうのを(『シャークスピアの密使』?)読んだことがあります。
今回の公演って、わりと初演に近い感覚が味わえるものかもしれませんね。

シャークスピアの台詞って聞き取りづらいと、ただただ流れていってしまうようなところがあるから、役者さんも大変ですね~。

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今回は近かったので (きし)
2007-08-28 00:37:59
なんとか行けたのです。東京となると少し大変。
今年の年末の「モーツァルト!」は行きたいのですけれどね~。貧乏暇なし。そういえばエリザベートも公演が決まりましたね。内野さんはキャストにいませんでしたが。

シェイクスピアの喜劇は悲劇に比べて観る機会も少なくて印象も薄いのですけれど、やっぱり面白いです。
あ~、私も招待で舞台三昧という生活をしてみたいです。でも私の場合、チケット代より交通費のほうがずっと高い…。
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そうなんですよ。 (きし)
2007-08-28 00:46:20
キワモノのようで実はキワモノではないのですよね~。全員男優さんのシェイクスピア。
「間違いの喜劇」も男優さんだけで演じられたらしいのですが、TV放送を見逃しました。がっかり。

ハムレットもロミオもジュリエットも若くないと!と、最近とても思います。時分の華ってものですよね。
でも、シェイクスピアを観ることの楽しみのひとつはうっとりするほど声のいいベテラン俳優さんたちのせりふが聴けること。どちらも観られるのが嬉しいです。
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声は大事ですね (koharu)
2007-08-28 10:08:44
>「間違いの喜劇」も男優さんだけで演じられたらしいのですが、TV放送を見逃しました。がっかり。
テレビでやったんですか? 気がつかなかった・・がっかり・・・

TV放送といえば、『コリオレイナス』がやってました。
きしさまの、この記事を読んだ後、録画しておいたのを観たのですが、唐沢さんの声・・・、TVドラマも映画を観ても気にしたことなんかなかったのに、ところどころかすれたりするし、速くても聞き取れるのだけど、切れ目のはっきりしない台詞とかが気になってうっとりできないまま、登場人物の人間関係もはあくできないまま、30分ほどでいったん停止・・挫折しかかってます

声は大事・・・とはいえ、ジュリエットとオフィーリアは、できることなら若くて可憐な娘がいいです
そういえば、デステモーナ(オセロ)、蒼井優さんでやるようですね。

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たとえば (むぎこ)
2007-08-28 20:53:51
何故か
ジュリエット…駒井君
乳母…常田
マーキューシオ…義元さま
神父…のぶとらん
ロミオ…かんすけ
がうかんだです
でもこのばーじょんだと
ロミオは神父に毒殺されジュリエットをてにいれるのは神父なんですが


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TV (きし)
2007-08-29 01:05:34
うっかりしているときほど、放送するのですよね~。
「間違いの喜劇」はたしかNHKのBSでの放送だったと思います。
「コリオレイナス」も観るどころかまったく気がついていなくて…。
koharuさま、ここはいっそ挫折して、寝かせておきましょう。忘れた頃にみると、また違うかも。

「オセロー」観たいんですよね~。蒼井優ちゃん。
でも、できれば彼女でオフィーリアが観たいと思います。彼女の雰囲気だと後半のだめになるところに無理がなさそうな気がして。

ジュリエットはあまり思い入れがないのですけれど、駒井くんのジュリエットというのは、気になります~。
のぶとらん神父はジュリエットに横恋慕してしまうわけですね。
ワルそ~。
それにしてもむぎこさま、よく思いつきますね~
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