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ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

思いがけず再会の【神宿る手】

2006-08-27 | 講談社
 
10年以上も前に読んだ作品を古本屋さんで見つけた。
100円コーナーである。
れっきとした単行本なのに。
いかに売れなかったかが忍ばれてせつない。
1990年第1刷発行。発売当時は多少なりとも話題になったと思うし、私としては好きな作品だったのだけれど。

神宿る手』はひとりの日本人青年の死を語るところから始まる。
彼の足跡を辿り始めるのかと思いきや、舞台は日本へ。
音楽雑誌の記者・蓮見の描写となる。
取材先から急遽呼び戻される彼を待っていたのはライバル誌にすっぱ抜かれたスクープ。
幻の天才ピアニスト・バローの復活だった。
永く人々に忘れ去られていたバローの40年ぶりの新録音の音源。
それを耳にした関係者らはその技術と音楽性に騒然となる。
そのCDの発売は大きな話題を呼ぶが、そのエージェントは謎めいた美女。
詳しい情報は杳として知れない。
時を同じくして起こる有名ピアニストの失脚。
エージェントの経歴詐称。
売れに売れたCDの演奏にかけられる疑惑。
日本人青年の死の真相は?
幻のピアニストの真の復活はなるのか?

美女の名は島村夕子。
現実味などこれっぽっちもないが、作品の雰囲気に良くあっているヒロインだ。
描写されるクラシック界も微妙に当時の現実とリンクする印象。
あれかなぁと思わせるところがある。

『神宿る手』は著者の音楽ロマン4部作の第1作。デビュー作である。
以降、『消えたオーケストラ』、『ニーベルングの城』、『黄昏の美神』と続き、どんどん話が大きくなる。
読み終えてみると、『神宿る手』は大きな物語の序幕と感じがする。

『消えたオーケストラ』は指揮者を残し、オーケストラがすべて消えるという事件が始まり。
この作品も蓮見と島村夕子が登場して、幻のピアニスト・バローの事件がまだ尾を引いている。
このあたりまではミステリという感じだが、シリーズの後半では、その所有者は世界を制する力を持つといわれる聖遺物ロンギヌスの槍まで出てくる。
そうすると、ほぼ自動的にという感じで、ナチスが出てくる。
映画になればいいのに。

以前、私が読んだのは文庫だった。
文庫はそうでもなかったと思うのだが、単行本は、中身を知っていなければ手を出さないような表紙のデザイン。
だから100円なのかしら。
試しに、カバーをはずしてみたら、豹柄と思しき模様になっていた。
誰だ、作ったのは…。


書名:神宿る手
著者:宇神 幸男
発行所:株式会社講談社

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