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ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

梶尾真治の【躁宇宙・箱宇宙】 と 【美亜に贈る真珠】

2006-08-28 | 早川書房
 
ご近所に古本屋さんがある。
昔、この場所は珈琲専門店だったのだけれど、その面影はドアと床にしかない。
店頭には引越しのサカイのダンボールが積まれている。
片付ける気配が見えないので、パンダというところがこだわりなのだろうか、と、見かけるたび気になっている。

先日、このお店で宇神幸男の『神宿る手』の単行本を100円で買った。
そのときに、私にとって『幻の短編集』になっていた梶尾真治の『躁宇宙・箱宇宙』を発見。
1985年第1刷発行。定価400円。
古本屋さんの価格をみるのはおもしろい。
基本的に、この古本屋さんは定価の50%を目安にしているようだが、これは販売価格も400円。
あんまり文庫は値引きしないらしい。

さて、『躁宇宙・箱宇宙』は初期の作品集。
他の短編集同様、バラエティにとんだ作品が並ぶ。
初出誌はSFマガジンだけでなく、小説現代や小説推理もあり、そのためというわけではないかもしれないが、割合きれいめに話がまとまっている印象。
1冊のなかでの振り幅が小さいというか。

『玲子の箱宇宙』はひんやりとした印象の作品。
新妻の玲子は結婚披露宴のお祝い品の中に、星雲の模様の包装紙に包まれた箱をみつける。
開けてみると、中には透明な立方体。
覗き込むと、その中には宇宙が広がっていた。
想像がつかれると思うが、物語の最後に残るのは、この箱宇宙ひとつである。
この箱宇宙を作っている会社名が「フェッセンデン」社というところがSFファンである著者らしい。

『夢の閃光・刹那の夏』は著者の作品に多い男性2人、女性1人の三角関係もの。
男同士の約束を守るために壊滅寸前の星へ向かう男の物語。
せつない路線の作品にあたる。

『一九六七年空間』は映画好きの著者の青春時代の匂いがたっぷりのノスタルジック路線だが、いかんせん、作中で言及される作品のほとんどがわからない。
残念ながら、懐かしいという感慨はわかない。モトネタは作中にあるとおり、『ある日どこかで』。

『即席ゴルフ上達法/ハードウェア編』、『多重人格創世記』、『包茎牧場の決闘』はドタバタ・ナンセンス路線。

『即席ゴルフ上達法/ハードウェア編』では1台も実績を上げることができない車のセールスマンが車を1台買ってもらうために賭けゴルフをするはめになる話。
ゴルフのゴの字も知らない彼を助けるのは飲み仲間たち。その彼らの正体は…というところから、あっという間に話は転がり、最後にきれいなオチがつく。
『多重人格創世記』は、抑圧されていた二代目社長が、自分の中に死んだ両親の人格を作り出してしまったことから起こる騒動。
二代目社長というところに、自身も家業を継いで社長となった著者を感じてしまう。
『包茎牧場の決闘』はどうなるものやらと思っていたが(何せタイトルがタイトルだけに)、妙に荘厳な印象のラストがついていた。

長い間、見つけられずにいた短編集だったので嬉しかったが、内容としては『地球はプレイン・ヨーグルト』』のほうが良かった。
ハヤカワの『地球はプレーンヨーグルト』に収められていた作品は、最近では路線ごとに傑作選としてまとめられてしまっている。
私としてはちょっと不満。同じ味のものばかり並ぶといささか飽きるのだ。
『地球はプレイン・ヨーグルト』の暴走があってこそ、『美亜に贈る真珠』のせつなさがなお一層生きるというものだと思うのだが。

『美亜に贈る真珠』はもともと短編集『地球はプレイン・ヨーグルト』に収められていた著者のデビュー作。
とある博物館に勤める「私」は、航時機の前に佇む女性に気がつく。
女性の名前は美亜。彼女は毎日ここを訪れ、閉館時間までずっと航時機を、正しくは航時機の中の男性、人形のように動かないアキをみつめている。。
航時機の中の時間の流れは極端に遅く、その時差によって未来へ行こうという計画なのだ。
アキは彼女の恋人だったのだが、異なる時間の流れに在る美亜はもう二度と動くアキに会うことも、言葉を交わすこともできない。
美亜はアキをみつめながら思うのだ。
「私は彼に愛されていたのだろうか。」
そして美亜が逝ってしまったとき、その答えが出る。

でも私が好きなのは『時尼に関する覚書』。
これもおススメの作品。
完全に逆行する時間軸を生きる2人の出会いと別れの物語。
似たアイディアの作品は数あれど、ここまで雑味を排して、綺麗に書き上げた作品はないと思う。

いずれもハヤカワの『美亜へ贈る真珠 梶尾真治短篇傑作選 ロマンチック篇』に収められている。
そう考えるとお得な1冊。
…表紙は気に入らないけれど、なくならないうちに、買っとくか…。


美亜へ贈る真珠 梶尾真治短篇傑作選 ロマンチック篇
 美亜へ贈る真珠 梶尾真治短篇傑作選 ロマンチック篇

 著者:梶尾 真治
 発行:早川書房

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