性懲りもなく、また『エリザベート』を観てきました。
今回の公演でも新キャストが投入されていて、組み合わせもいろいろです。
もう東宝版初演から10年?
年をとるわけです…。
初見ではないので、もう作品自体をただ1度の舞台として観ることができず、良くも悪くも慣れてしまっていて、ついいろいろな比較をしながら観てしまいます。
再演ごとの演出やキャストの変化、そして「こうあってほしい」形との比較とか。
なので。
たとえば初めて観る友達と一緒に行ったとして、終演後にどう言うかを考えてみました。
「曲がとにかく好きなのよ」ですかねぇ、やっぱり。
曲のインパクトはすごいです。観終わっても、耳に残る旋律が必ずあるはず。
最近初めて観たものの中では、終わっても曲が頭の中で鳴り響く作品がなかったことを思ってみれば、それはミュージカルとして素晴らしいことだと思うのです。
だって、ミュージカルなんだもん。
と、ここから、長いです。
2010年9月11日のマチネ、組み合わせはこちら。
エリザベート:瀬奈じゅん
トート:城田優
うん、ミュージカルなんです。わざわざ歌うんですよ。
ことに、エリザベートは歌でひっぱる作品。だったら、やはり何よりまず歌でうならせてほしいではありませんか。
好き嫌いは別にして、ああ、すごいんだな、舞台で歌う人たちって、と思いたい。
…だからね、頼むよ、エリザベート。主役なんだから。
いっそのこと「歌はいいんだけどねー」というような贅沢なわがままを言わせてほしいくらいです。
そうでなければ、ここの場面のあそこが!!と、膝を打つような気持ちにさせてくれるとかね。
全体的にメリハリがほしかったし。
「私だけに」がちゃんとエリザベートの変化として伝わるくらいに。
期待しすぎていたわけでもないと思うのですよ。
新しいエリザベートに対してのごく一般的レベルの興味と期待をもっていただけだと思います。
むしろ期待はしていなかったと言ってもいいくらい。
それなのに、ここがよかったと思い出せるところがなくて、今とても困っています。
別に、私は貶したいわけではないのに。
同じく新キャストのトート。
すべての音がちゃんと出ていたので驚きました。(…ああ、なんて低い期待度。)
それに背が高い。そして足が長い。舞台上ですらりとした姿が映えます。
私はイケメン度合いをなめていました。
いや、ほんとにかっこいいよ。ほんとに立っているだけでかっこいいというのを久しぶりにみました。
でも、恐ろしくテンションが低い。
歌って音程があってるだけじゃあつまんないんだなーと、いまさら過ぎて笑ってしまいそうなことを実感する歌と、必要最小限の動きの大きさ。
印象としては、かなりやる気のないトートです。
新しいトート像。新キャスト導入の甲斐がありましたねぇ。
若くて綺麗だから、それが様になるんだよなー。
トートダンサーなんかまるでいないも同然。下僕扱いですらありませんもの。
まさかほんとに投げやりなわけはないので、これが芸風か、それとも意図して創ったものかと、それが気になって仕方ありませんでした。
一応は「クールなトート」を意図して演じられているものだということがインタビューで確認できましたが、これは演技か否かと一瞬疑わせる怖さがあります。
そもそも小池版で「クールなトート」は破綻するのでは?
クールなトートは「どこまでも追いかけない」んじゃなかろうか。
クールにみせておいて実は、ってところをちゃんとつくって、はっきりみせないと、創ったことにならんだろうと思ってしまいます。
あんまりリピーターの思い入れに頼ったつくりにしないでほしいというか。
まあ、観るほうはしっかりそのあたり自分で補って観ちゃったりするわけですが。(エリザベートもそう。)
最後通告のところの「泣かないで」は、テンションの低さが甘さにもなって、上出来。
エリザベートにはもっとぐらついてほしかったわー。
そして、ルドルフの葬儀のシーン。
じっくりエリザベートを観察してから「まだ俺を愛してはいない」とあっさり袖にするところは、歴代トート中、最高に好みです。
もう、それだけでいいやと思うくらいでしたよ。ずっとそういうふうにみせてほしかったから。
さらに性懲りもなく、夜も『エリザベート』です。
だって、好きなんだもん。
2010年9月11日のソワレはこちら。
エリザベート:朝海ひかる
トート:石丸幹二
今回の私的目玉は石丸トートです。
役作りなんかいっそどうでもいいから、いい声で歌うところを聴かせてほしいとその一心。
実際に舞台が始まると、そんな望みの少ないお客の気分などは、すっかり忘れてしまいましたが。
小池版「エリザベート」、「愛と死の輪舞」のある「エリザベート」には現時点で最も合うトートの登場だと思います。
贔屓だから。
まあ、それもありますが、小池版はどうしたってトートのエリザベートへの干渉を歌詞のとおりに捉えないと破綻するので、オリジナルの主旨からは離れるとしても、エリザベートを強く求めるトートでなければならないと、改めて思ってしまいました。
もし、エリザベートの自由への希求を、あらゆる呪縛からの解放を勝ち取るための戦いを軸にするならば、「死」を愛するのはむしろエリザベートのほうであるべき。
幼いころの体験から「死」にすべてからの解放を感じ取ってしまったエリザベートが、事あるごとに「死」を選んでしまいたくなることの象徴としてトートが召喚され、それが誘惑という形として現れてくるという物語が、もともとの「エリザベート」のはずです。
エリザベートと同様、幼いころに「死」と出会い(小池版ではエリザベートへの搦め手のような印象ですが、もとはルドルフ自身がその孤独によって「死」を身近に引き寄せたのだろうと思います。)、誘惑にあらがえず「死」のキスを受け入れてしまうルドルフは、もう一人のエリザベートともいえる存在。
だから「僕はママの鏡だから」なのかと。
というわけで、小池版では、宝塚であろうと東宝であろうと、「愛と死の輪舞」のある「エリザベート」である限り、黄泉の帝王の恋物語。(いろいろ考えても「愛と死の輪舞」が邪魔をする…。)
エリザベートに迫るトート。
誤解を恐れずに言えば、内野さん路線のトートが石丸トートでバランスのとれた完成形となったと思います。
恐れをなすほどの迫りっぷりだった内野トートはいかんせん歌が弱いというミュージカルでは致命的な弱点がありましたが、石丸トートは歌こそが最大の強み。
ノーブルな甘さが売りで、「エリザベート」への出演ならば誰もがフランツを想像したところにもってきてのトートでしたが、ふたを開けてみれば、それは杞憂。
もうただ立ってるだけでもいいよ…といいたいような歌に、きっちり舞台サイズの動きの大きさをみせてくれます。
「最後のダンス」も気合いが入っていました。驚いたけど。
ああ、やっぱり贔屓をしていると自分でも思います。
ただ観てるだけなら、城田トートのほうがカッコいいわけですから。
最後通告のところの、羽ペンひらひらはいったい何事かと思いますし、ルドルフの棺桶から出てくるところもなんだそれ、という感じではありましたけど、それでもやっぱり幹ちゃんのほうが小池版には合っていると思います。
「悪夢」の指揮も、歴代トートの中で一番明確に意図されたものが伝わりました。
でも、やっぱりちょっと、フランツも観てみたいし、聴いてみたい。
そっちもやってくれないかな…。
そういえば、石川さんはトートをやってみたいとは思わないのかしら。
さて、この回のエリザベート。
前回から引き続いての出演です。
前回観たときには予想外にいいと思ったのですが、今回はそこから期待していた歌唱力の伸びがなくて、ちょっと残念な出来でした。
時々とてもきれいな歌声が聴こえるのに、全体としてはちょっとつらい感じ。
姿は文句なしにいいのになー。
頭が小さくて、首筋がすっとしていて、遠目で見る舞台ではとても美しい。
好みと言ってしまえばそれまでですが、もう一人のエリザベートより、全体の流れとしてエリザベートの変化がわかりやすいとも思います。
全体的にいって、この日は昼より夜の回のほうが良かったように思います。
和泉嬢とつくった場面ごとの星取り表でも、1幕は夜の圧勝。
どちらの回も、2幕はエリザベートが弱いような気がして、それが残念でした。
「夜のボート」がもっとじっくり聴かせてくれるデュエットの場面になってくれると嬉しいのに。
アンサンブルには文句ありません。「ミルク」もきっちりしてますし。あそこくらいなんですよね、アンサンブルにちゃんと拍手が送れる場面って。
他は拍手できないところですから。
ただ、ルキーニはもっとみっちりやってもいいのではないかと思います。
でないと、舌を出すようにして王宮にミルクを運ぶところが活きないと気がする。前はもっと力が入っていたと思うのす。
毎回思いますが、そろそろルキーニは見直すべき。慣れに見えてしまうような崩し方はいただけません。
再演のときくらいまでに戻してほしいものです。
ゾフィーは両方ともの寿さん。初めてみたときは若干線が細いかと思いましたが、今はもうそんな印象もなく、最後の登場場面は私にとってはかなり胸に迫るシーンとなりました。
フランツの石川さんも盤石。以前より年齢の経過を前面に出してつくった感じ。
「夜のボート」も石川さんはいいんですよねー。
作品中屈指の場面なのに、今回はぐっとくるものが足りないのは、あまりにも悲しい。
一路さんは2幕が良かったからなぁ。
演出には大きな変更はなかったと思いますが、新しいキャストをどうしても観てしまうので、いままで気がつかなかった動きに気づいたりして、それはそれで楽しい観劇となりました。
でもなー。
もうちょっと迫ってくるような勢いがほしかった気がします。
意外にも歌えてた城田トート。しかもすごく見栄えがする。これって一つの才能なんだなと思いました。そして石丸トートは期待以上にすごかった。最後のダンス恐かったし、良い声に聞き惚れました。悪夢のシーンは今まで見た中で一番!もう、羽ペンひらひらも許します。武田トートも妖しくてエリザベートが「死」に誘惑されてる感じが好きだったけど、やっぱり幹ちゃんすごいよ。…エリザベート病再発、です。
人が違うと違うからなー。どうしてもねー、誘惑にねー、勝てないのよねー。
よかったわ、一緒に負けてくれる人がいて。
幹ちゃん、次も絶対やってほしいわぁ、ほんとに。