ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第六十九節[他者の好意を得ること]
§69
Insofern der eigene Nutzen nicht unmittelbar im moralischen Betragen liegt und von dem besonderen, im Ganzen zufälligen Wohlwollen Anderer abhängt, so befindet man sich hier in der Sphäre der bloßen Zuneigungen (※1)zu einander und die Klugheit besteht darin, die Neigungen der Anderen nicht zu verletzen und sie für sich zu erhalten.
第六十九節[他者の好意を得ること]
自己の利益は、道徳的な行為に直接的にあるのではなく、むしろ他者のさまざまな、全体として偶然の善意に依存するものだから、ここではお互いにいわゆる好意の及ぶところに我々は身を置くべきであるし、他者の気分を損なわず、かつ他者の気持ちを自分の方に振り向けるところに知恵もある。
Aber auch in dieser Rücksicht ist das, was Nutzen bringt, eigentlich auch dasjenige, was sich an und für sich gehört, nämlich Andere darüber frei zu lassen, wo wir weder Pflicht noch Recht haben, sie zu stören, und durch unser Betragen ihre Zuneigung zu gewinnen.(※2)
しかし、またこの反省において明らかになったことは、また利益をもたらすものは本来的に自分しだいだということ、そのことである。すなわち、私たちが他人を妨害する義務も権利ももたないところでは他人の自由に任せて、私たちの行動によって彼らの好意を手に入れることである。
※1
in der Sphäre der bloßen Zuneigungen いわゆる好意の及ぶところに
bloß 単なる、むき出しの せめて〜だけ
※2
自分の利益を手に入れることが、分別心の目的とするところであること、そして、それは自身の倫理的な行為によって、つまり自身の他人に対する行為によって、かつまた、それが目的ではなく結果として手に入れることのできるものであること、このことが前節の考察において本質的に経験的に明らかにされた。
本節ではさらに、したがって私たちの権利も義務もないところでは、他人の自由に任せて、彼らの好意を手に入れるようにしなければならないこと、私たちの利益は、他人に対する私たち自身の行為、態度しだいであることが明らかにされる。
ここにも明らかなように、ヘーゲル哲学は世情にも通じた、一面において世俗的な哲学でもある。