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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

050「笑う」より ・ 貴方の為だけの果実

2014-08-26 18:31:27 | 和モノ好きさんに100のお題
 むかしむかし、ある男が柵の内側に一本の樹を植えました。
 男は大切に樹を育て、その甲斐あって樹はとても綺麗な花を咲かせ、柵の外側を通る沢山の人々の目を楽しませるようになりました。
 やがて花は散ってしまいましたが、鮮やかに色付いた果実はとても甘い香りを放ち、我慢しきれなくなった人々は争うように柵を越え、手当たり次第に果実だけではなく枝葉まで残らず毟り取り、やがて樹を丸裸にして去っていきました。
 ただ一人残った男は無言のまま再び樹の世話をはじめ、幾つかの季節が過ぎた頃、ようやく緑を取り戻しました。

 けれど、それから、樹は男の現れる夜中にだけ花を咲かせて明け方には散り、熟した果実は全て枝から落とすようになったそうです。
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