カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

竜飼いその57・雪白の温もり

2020-07-28 21:25:10 | 幻想世界の竜飼い
たかあきの竜は雪色の鉱石オールドドラゴンという品種名です。気性は穏やかで、用途は移動用です。

 ワタシの御主人は騎乗の度にワタシの毛皮を撫でながら雪のようだと呟く。この地方では見る事が出来ない、空から降ってくる綿のような外見をした雪の色はワタシの毛皮と同じく白いのだという。まあ、雪はお前のように暖かくはないし、あの故郷に俺はもう二度と戻れないのだがなと呟く御主人の表情は、どういう訳か酷く苦々しい。
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竜飼いその56・白銀の凧

2020-07-28 00:02:32 | 幻想世界の竜飼い
たかあきの竜は白銀の鉱石ドラゴンという品種名です。気性は聡明で、用途は飛翔用です。

 俺が住んでいる地方の風は流れが読み辛いので、飛ぶ前には「凧」と呼ばれる小型飛竜を放って様子を見る。自分の乗った風に逆らわず、しかし風に呑まれず巧みに操りながら自在に中空を駆け抜ける飛竜は白銀の小さな体に太陽光を受けてキラキラと輝きながら、まるで虹色の宝石のように見えるのだった。
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竜飼いその55・真紅の幽玄

2020-07-26 13:27:05 | 幻想世界の竜飼い
たかあきの竜は真紅色の幽玄デミドラゴンという品種名です。気性は臆病で、用途は愛玩用です。

 コイツはあまり長生き出来ない体だと渋る友人を説き伏せて譲ってもらった愛玩竜の幼体は、十数年を我が家で過ごしてから亡くなった。ただ、まだ自分が死んだことに気付いていないのか、それから時々視界の端を深紅の何かが過ぎるようになった。そのうち行くべき道に気付くまでは、もう少しうちで遊んでいてくれと思う。
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竜飼いその54・紅葉色の闘竜

2020-07-25 10:48:12 | 幻想世界の竜飼い
たかあきの竜は紅葉の鉱石ムカシトカゲという品種名です。気性は闘竜で、用途は子守りです。

 子供の頃に誘拐されかけて以来、私にはお守り役と護衛を兼ねた闘竜が付けられた。普段は無口で居るか居ないのか判らないような竜だが、父は常々、あいつは吠えない犬と同じくらい危険だと言っていた。それが正しいと知ったのは二度目に誘拐されそうになった時で、これからは私も決して竜を怒らせないようにしようと誓った。
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骨董品に関する物語・三日月のブローチ

2020-07-24 18:25:19 | 突発お題

 結婚の約束までしていた女に手酷く裏切られた先輩は、卒業制作で完成させた三日月のブローチを相手に贈って故郷に帰った。それはとても見事な造りをしていたので女は思い出の品と言って常に身に着けていた。
 勿論、俺たちの中には誰も、三日月を彩る真珠が先輩の涙から錬成された悲しみを呼び寄せる石だと女に教える者はいない。

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竜飼いその53・流水の彼方の世界

2020-07-24 10:35:22 | 幻想世界の竜飼い
たかあきの竜は真紅色の流水ドラゴンという品種名です。気性はお利口で、用途は運搬用です。

 対岸が見えない程に大きな湖の畔で育った僕は幼い頃から水竜と共に育ち、長じては水龍と共に運搬業を仕事に選んだ。そんなある日他郷で暮らし始めた幼馴染が帰ってきて、今住んでいる土地は水場に乏しいので水竜は役に立たない、やはり竜は飛竜だと僕に言った。別に腹も立たなかったが、どうやら幼馴染は既に別の世界の住人に変わってしまったようだ。
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竜飼いその52・烈火の決意

2020-07-23 13:48:12 | 幻想世界の竜飼い
たかあきの竜は橙色の烈火竜という品種名です。気性は聡明で、用途は食用です。

 うちの竜はごく普通の陸上型運搬竜だが、当の竜が言う事には非常食料にもなるらしい。だから有事の際には遠慮なく尻尾を削いで下さいと自慢げに言われてドン引きすると、何だか竜としてのプライドが傷付いたらしくどうせ美味しくないと思ってるんでしょうとぼやかれたが、根本的にそういう問題ではないと思う。
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竜飼いその53・亜麻色の死神

2020-07-19 22:42:37 | 幻想世界の竜飼い
たかあきの竜は亜麻色の鋼鉄オールドドラゴンという品種名です。気性は冷酷で、用途は戦闘用です。

 戦場から単騎で戻った戦竜は、背に騎手である父の骸を背負っていたという。周囲は竜の戦闘力と忠節を湛えたが、母は陰でお前は死神だと竜を毛嫌いしていた。だが、それでも人前では僕に向かって戦場で立派に死んだ父のように、お前もいずれは勇敢に戦って死ぬのだろうと誇らしげに繰り返すのだった。
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骨董品に関する物語・オパールセントガラスの大皿・その2

2020-07-17 23:41:15 | 突発お題

 瑞々しい果実が載せられた薔薇模様の硝子器を前に、これは嫁入り道具の一つだと母は言った。元は五枚組だったものが一枚だけになったのは、まあ色々あったからだと。そして現在の生活を繋ぎ止めているこの器が様々に表情を変えている間は、何とか世界がそういうものだと納得できるそうだ。
 それなら、この最後に残った硝子器が砕け散った時に母がどうするのかについては、出来るだけ考えないことに決めた。
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骨董品に関する物語・オパールセントガラスの大皿・その1

2020-07-17 23:32:43 | 突発お題

 角度によって様々な色と光が浮き上がるこの器には、別の世界が封じ込められているのだと母は言った。
 こんな風に、こちらからは様子を窺う事しか出来ず、触れ合うことも出来ない空間を大事にしなさい、もしも砕けたら誰かの世界が終わってしまうのだからと。
 あの時母が言ったのは、本当に硝子の器の事だったのだろうか。

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