昔の映画で、安物の時計でも砂漠に埋めて百年経てば宝物になるという台詞があったが、安物の時計を真の宝物に変成させる為には、単なる経年による風化以外に人知の及ばない領域で発生する大小様々な奇跡が必要であり、更に奇跡が発生した後になお形状を保ち続けるという奇跡も必要だ。
歳を取ると細かい字が読み辛くなるとぼやいた私に、店主は柄に精緻な細工が入った拡大鏡を幾つか取り出して来て、正直者と嘘つきのどちらが良いかと尋ねてくる。正直者は正確だが冷酷に、嘘つきは優しい虚偽を浮かび上がらせ伝えてくる、もちろん真実はお客さん次第だと。私は普通の拡大鏡を選んだ。