カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

骨董品に関する物語・髑髏の時計鎖・その2

2022-05-29 21:14:58 | 突発お題

 この世界に生きる者は例外なく、そいつの為だけに設えられた十三階段を昇りつめた先で死に至り土に還る。だが、例え骨だけになろうと俺が俺自身であった証はこうして残るだろう。奴はそう言って、古い懐中時計に繋げられた髑髏と指が一本多い左手の骨をあしらった鎖を見せてくれた。
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骨董品に関する物語・髑髏の時計鎖

2022-05-28 19:13:17 | 突発お題

 医療技術が発達していなかった昔は、多指症と呼ばれる先天性の形状異常を抱えたまま生きる人が今より遥かに多かったのだと彼女は言う。確かに手袋は特注が必要だけど指輪を嵌める指が一本多いと考えれば少しは慰めになるかしらと呟きつつ撫でる彼女の右指には、古い手術痕があった。
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骨董品に関する物語・メルキュール(マーキュリー)の印章・その2

2022-05-15 23:13:16 | 突発お題

 マーキュリー(水銀)は古代中国において外見や防腐性から不死の薬とされ、欧州の錬金術師にとっても霊薬の原料だった。そして確かに瀕死の身で主人に秘薬を与えられた男の肉体の血管はそのまま残ったが、それは死に対する生の勝利とは成り得ず、ただ呪われた姿を永遠に晒しているに過ぎない。
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骨董品に関する物語・メルキュール(ヘルメス)の印章

2022-05-15 17:46:22 | 突発お題
 ヘルメスは商人や旅人だけでなく、同時に医学や泥棒の守護神でもあるのだと彼女は言った。それは恐らく疾風の如き迅速さで事を為すだけでなく、しばしば運命と呼ばれる死神が刈り取ろうとする生命を掠め取り、人の世に留める為の職能でもある。だから医者である自分は地獄行きに違いないと寂しそうに呟く。
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幽霊その55・棚に飾られた少女

2022-05-06 22:39:06 | あなたが出会った幽霊に託されたもの
たかあきは先程、骨董品店で、恨みがましい幼女の幽霊に出会い、一緒に逝きませんかと号泣されました。

 その少女は、骨董品屋の硝子棚に飾られた陶器製の人形に憑いているというよりは既に一体化していた。もはや自我もかつての記憶も人形に溶け込みヒトとは言えない存在となった状態の少女は、それでも最後に残った欠片ばかりの意識の中、いずれは訪れる筈の己が解放される日を、ただひたすらに待ち続けていた。
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幽霊その54・座る女

2022-05-05 11:45:59 | あなたが出会った幽霊に託されたもの
たかあきは大昔、バス停で、むっちゃ怖い女性の幽霊に出会い、放っておいてくださいと頼まれました。

 若い頃、通勤に使っていたバスは右後部の二人掛け座席を利用する人が殆どいなかった。まあ普通の人には見えないとしても怨念溢れる表情の女性が窓際に座っている以上無理もないことで、私もなるべく避けていた。ある日、賑やかな男性が恋人らしい女性とその座席を利用してはしゃぎ回ったた時は降りる迄冷や冷やし通しだった。もっとも彼女は翌日も憤怒溢れる表情でバスに乗っていたので何だか複雑な気分になった。
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幽霊その53・通りすがりの案内者

2022-05-04 15:42:55 | あなたが出会った幽霊に託されたもの
たかあきは今この時、遊園地で、哀しげな男性の幽霊に出会い、あなたに取り憑いていいですかと嗚咽されました。

 連休中に遊びに来た遊園地で、一緒に歩いていた母がいきなりベンチに座り込んだ。気分でも悪くなったのかと思ったら通りすがりのサラリーマンに憑かれそうになったそうだ。家庭をないがしろにした後悔から成仏できなかった男は光を示すと礼を言って消えたらしく、素直な相手で良かったと母は平然と言ってのける。なお、もしそうでなかったら消えて貰わなければならなかったと続いた言葉は聞かなかったことにした。
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幽霊その52・佇む老婆

2022-05-03 21:52:33 | あなたが出会った幽霊に託されたもの
たかあきは旅行中、道端で、恨みがましい老婆の幽霊に出会い、放っておいてくださいとお願いされました。

 誰にも姿を気付かれぬまま路傍に立ち尽くす老婆は凄まじい怨念を放っていたが、それは無差別ではなく老婆の知るであろう何かに向けられたものであり、老婆はそれが現れるのをただ待っているようだった。だから私は過去に何があったかは考えず、もちろん老婆と意思を通じようとも思わぬまま、黙ってその場を後にした。
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幽霊その51・恐らくは小袖の手

2022-05-02 20:25:44 | あなたが出会った幽霊に託されたもの
たかあきは昨日、廃墟で、知り合いの洗濯ものの幽霊に出会い、恨みを晴らしてくれと聞かれました。

 この辺では有名な幽霊が出るという廃墟に無理やり連れて行かれた友人は、事故死した姉の形見だった大事なジャケットをはぎ取られた姿で帰ってきた。あそこにはもう行きたくないと泣くので俺が取りに行ってやったら、ジャケットはズタズタに破かれて破片が散らばっていた。どうやら友人を護った結果らしく、もともと此処にいた筈の質の悪いヤツは気配もろとも消えていた。
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