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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

024「駆ける」より ・ 学校に間に合わない

2014-07-31 20:44:34 | 和モノ好きさんに100のお題
 どう考えても間に合わないと判っている時間に学校へ向かう夢を、通学に縁が無くなってから数十年経った今でも良く見る。
 大概は教科書や制服が部屋の何処からも見付からず、半分くらい自暴自棄のまま無駄に混み合った道の人を掻き分けながら、何とか辿り着いた学校では自分の下駄箱が見付からず、更に己が向かうべき教室も判らず、故に夢の中で授業をまともに受けた事はない。
 ちなみに、何を暗示するのかを考えるだけでも充分に恐いので、夢判断をしてみようという気にもならない。
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023「一閃」より ・ 正しき刃

2014-07-30 20:45:18 | 和モノ好きさんに100のお題
 刃物と料理を愛する兄が包丁を研ぎ終わるなり、ちょうど冷蔵庫の飲み物を取りに来た私にトマトを投げてこいと言った。
 何故トマトなのか聞いたら、包丁研ぎの目安はトマトの果皮を抵抗なく両断出来るレベルの切れ味なのだそうだ。

 一応やりたいことは理解出来たので、取りあえずトマトを切るならコレを使えと兄貴に向かって俎の角をお見舞いしたあと、望み通りトマトサラダを作らせた。
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022「子供」より ・ 見当違い

2014-07-29 21:44:03 | 和モノ好きさんに100のお題
 かつては古い田舎屋だった我が家に棲んでいた小さな男の子は、外見はどうと言うことのない普通の身なりをしていて、特に変わった力も無く、ただそこにいるだけだった。何故か私にしか見ることが出来ないその子と私は一緒に大きくなり、やがて私の家が建て替えられると姿を消した。そして十数年後、すっかり大人になった彼は私のお見合い相手として現れた。
 話を聞くと、やはり田舎屋だった自分の家が新しく建て替えられるまで、彼は家に棲んでいた私と良く似た女の子と一緒に大きくなったのだと言う。

 どうやら彼は、そして私も、座敷童ではなかったらしい。
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021「てやんでえ!」より ・ 捕り物小説の愉しみ

2014-07-28 19:14:35 | 和モノ好きさんに100のお題
 最近やたらと捕物小説を読んでいるという友人にお薦めを尋ねたところ、「半七捕物帖」は絶対に押さえろと言われた。捕物小説の元祖であると共に様式美の極みだと。ただしそれ故地味な印象は拭えないが、この辺は好み次第だそうだ。

 双璧の「銭形平次捕物控」は内容が派手で外連味が強く膨大な話数があるから読み応えは充分なのだが、三代将軍の時代に店構え売りや茶屋は存在しなかった、などというような時代考証は一切考えず、ファンタジーとして割り切れとか。
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020「役者」より ・ 五丈原

2014-07-27 06:30:00 | 和モノ好きさんに100のお題
 久しぶりに人形師の叔母から人形を預かった。
 モデルは古代中国の軍師で、夜中に延々と謡うように呟き続ける。取りあえず何を言っているのか確認したところ、どうも自分が登場する物語の一場面を再現しているようだったので、叔母から借りた小道具を駆使してジオラマ風に再現した場面写真を撮り、映画宣伝ポスター風に文字入れをして飾ったら黙った。満足したのだろうか。
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019「いくさ」より ・ 残影

2014-07-26 06:30:00 | 和モノ好きさんに100のお題
 あの戦争ではこの街も空襲で焼け野原になったのだと祖母は語った。

 あらゆる物の焦げた匂い、くすぶる黒い煙、崩れた壁、炭化した木の柱、煤けた瓦、ねじ曲がった鉄骨、
 そして、焼け出されたまま呆然と立ち尽くす人々と、崩れ落ちた光景と同化してしまった人々。

 やがて戦争が終わり、街が復興して行く中で人々が惨劇を語らなくなっても、あの日の、あの街は、あの場所に、まるで灼き付いてしまったかのように残っていて、今はもう幻しか残っていない橋の向こうで、いつまでもその骸を晒し続けているのだ。
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018「かがり火」より ・ 別離

2014-07-25 06:30:00 | 和モノ好きさんに100のお題
 闇を焦がして揺れる炎の向こう側に立っているのは、決してこの世に存在する筈のない人間だった。
  
 だから俺は問うた。
「お前なのか?」
 
 すると奴は答えた。
「お前ではない」


 更に俺は問うた。
「俺を地獄に連れに来たのか?」

 そして奴は答えた。
「俺ではない」

 奴はそのまま、ただ一人で闇の向こうに歩み去り姿を消し去る。それが、俺が己の手にかけた親友との別れだった。
 俺はきっと地獄に落ちる、それだけは確実なことのように思えた。
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017「みやこ」より ・ 都忘れ

2014-07-24 06:30:00 | 和モノ好きさんに100のお題
 都を追われた男が流れ着いた地で、素朴だが愛らしい野の花に目を止めると、そのまま声もなく泣きはじめた。
 菊に良く似た、薄い紫色の花弁を持つ花の名は「都忘れ」と言う。
 
 男が花の美しさに都を忘れる程の何かを見い出して心慰められたのか、或いは花の美しさに都の賑わいを思い出して哀しみに沈んだのか、それは知らない。
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016「闇」より ・ 喰われる

2014-07-23 06:30:00 | 和モノ好きさんに100のお題
 お前が望むなら、おれの中に居れば良い。この黒々とした衣でお前を囲って、その姿を隠しておいてやろう。
 その代わり、おれも、お前の中に入り込んで取り分を貰うことになる。

 やがて、柔暖かい暗がりで微睡みながらおれの一部となり果てたお前の肌を、お日様は容赦なく灼くだろう。
 それがお前の望みか?。
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015「踊る」より ・ 剣舞

2014-07-22 06:30:00 | 和モノ好きさんに100のお題
 それは慰霊の舞。

 舞手がササラを鳴らしながら足を踏み鳴らす傍らに現れる鎧武者の姿をした亡霊たちは、やがて舞手の舞いをそっくり真似るように足を踏み鳴らしながら、ひとり、またひとりと消えていく。だが夜明け前、最後の亡霊は成仏を拒んで舞手に襲いかかる。
 すると舞手は今まで鳴らしていたササラを宙に放って脇差しを抜き放ち、亡霊と切り結んでこれを倒すのだ。

 やがて日が昇り、再び舞手が一人になると、ようやく舞は終わりを告げる。
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