骨董品に関する物語・フォーチューンカップ

　あくまで自己流だがと前置きした友人が言うには、スペードは諍い、ダイヤは金回り、ハートは恋愛関係でクラブは日常生活。数字による詳しい結果を知りたいならタロットの小アルカナと対応させれば大体の意味は分かると教えられた。ただし占い師は概ね自分の運勢は読めないそうだ。

骨董品に関する物語・フランス製のお月様マークのティン缶

　丸い缶には小さなアンティークがぎっしり詰め込まれていて、中でも目を惹いたのは親指サイズの人形だった。蓋を開けた途端に起き上がってどこかに行こうとしたので反射的にコップを被せたら翌朝にはコップが倒れていて、お店に問い合わせてもそんな人形は入れていないと言う。

夏の創作怪談・囁く声

　うちは二階建ての細長いアパートで、私が住んでいるのは大家さんが物置にしている角部屋の上だ。ある日昼寝をしていたら下の方から「…ねえ」と聞こえてきたので無視したら今度は耳元で囁かれ、更に無視していたらようやく聞こえなくなったが数日後に反対側の角部屋の人が引っ越していった。

骨董品に関する物語・ケース入りボタンセット

　そのボタンは何度も新しい服に縫い付けられ、その時々に服の魅力を引き立ててきた。やがて既製服が浸透した時代に取り外しや管理が面倒だと言う理由で服から外されたままのボタンは、今となっては時折宝石のようだと人々に賞賛されながら骨董品として仕舞い込まれたままだ。

骨董品に関する物語・スミレとスズランのボンボニエール

　産まれた時から体が弱かった娘の誕生日に、私の兄は真珠色のスズランと空色のスミレが描かれた淡いピンク色の菓子器を贈ってくれた。もしスミレと空がこんな色の世界でだったら私も元気になれるかなと寂しそうに微笑んだ娘はその後逞しく成長し、菓子器を菓子で溢れさせている。

夏の創作怪談・晩夏の祭り

　町内会主催の小さなお祭りに参加した。近所の方がフランクフルトやら焼きそばやらを焼いている神社の境内には結構な人数の家族が集まっていたが、住宅街とはいえこんなに参加者が居るのかと感心していたら、傍らの友人がお盆が終わったすぐ後でもちゃんと戻ってくるものだねと呟いた。

骨董品に関する物語・遺髪が入ったブローチ

　男女の双子だった二人は小さい頃から非常に仲が良く、性格はまるで違うのに大人になって離れて暮らしていても同じ日に同じ菓子を買って実家に遊びに来たり、偶然旅行先で出会ったりの「お揃い」を何度も繰り返したが、さすがに葬式の日は数日だけズレて周囲を複雑な気分にさせた。

骨董品に関する物語・ターコイズの飾りのついた金の十字架のペンダント型メカニカルペンシル

　文章を書く人間なら一本位は拘りの筆記用具を持つべきだと恩師に言われたので、思い切って骨董品店で十字架型のメカニカルペンシルを購入した。文章を書くには使い難いだろうと呆れる周囲に構わず、俺は神の正義を称える筈の十字架で罪深い嘘を連ねた物語をひたすら書き続ける。

骨董品に関する物語・ネプチューンシリーズのカップ&ソーサー

　従兄の家の食器棚には複数のパーツを金継された、どこか歪な貝殻型のカップが置いてあるが、元々は六客あった非常に高価なカップの破片を搔き集めて何とか一客分だけ再生出来たものだと言う。そんな従兄は昔、とある大事故から一度に五人の家族を亡くして天涯孤独となった身だ。

骨董品に関する物語・時計鎖付きの印章

浪費家で嫉妬深い彼女は実直な君を絡め取り枯らしてしまう蔓草のようなものだと仲間は盛んに離婚を勧めたが、当の本人は笑って皆に迷惑はかけないと言うばかりだった。やがて突然の事故で夫を失った彼女は形見の印章を傍らに残りの生涯を喪服姿で暮らし、数年後に亡くなった。二人の間に存在したのは真の愛だったのか、或いは。