カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

055「蛍」より ・ 北の蛍

2014-08-31 21:33:45 | 和モノ好きさんに100のお題
 僕の故郷に帰省した時、初めて実物の蛍を見たとはしゃいだ妻との会話。

「蛍の光って、あの明かりで本を読んだって歌らしいけど、確かにアレが一匹あったら本くらい読めそうね」
「どれ位の大きさだったんだい?」
「昔の百ワット電球くらいだったかな、蛍光灯ってあの青白い色から付いた名前でしょう」

「……それは絶対蛍以外の何かだ」
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054「ちょうちん行列」より ・ 昔見た光景

2014-08-30 20:02:37 | 和モノ好きさんに100のお題
 叔母が久しぶりに連作人形を制作した。華やかで奇妙な祭り装束を思わせる衣装を纏った妖怪たちが楽しそうに提灯を手にしながら並んで歩いている作品だ。
 妖怪は割と有名なモノから見たことのないモノまで取り揃えてあって、凝った衣装の出来と共に感心した私がその点を褒めると、何でも叔母自身が子供の頃に見た事がある行列の再現らしい。当人曰く、ようやく腕が追いついたので作ってみたそうだ。
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053「庭の池」より ・ 狐釣り

2014-08-29 19:22:07 | 和モノ好きさんに100のお題
 中庭の池の金魚の数が減るので寝ずの番をしたところ、どこからか狐が現れて金魚を漁りはじめたので追い払った。それでも金魚の数が減るので再び番をしていたら、今度は恵比寿さんに似た何かが金魚釣りをはじめていた。
 微妙に布袋様や毘沙門天が混ざった格好に対して色々と言いたい事はあったが、取りあえず障子を開けて無言のまま胸の前で腕を交差してバツを作って見せたら自信喪失したように帰って行った。

 数日後、多分同じ狐がリベンジとばかりに太公望の格好でやってきたとき、池には金魚の代わりに睡蓮の葉が浮いているだけだったので泣いて帰って行った。
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052「夏草の」より ・ 小石川にて

2014-08-28 20:17:38 | 和モノ好きさんに100のお題
 江戸時代には薬草園だったという植物園に行って来た。入場料を払って敷地内に入ると途端に緑豊かな森が目前に現れて、ここは本当に都内なのかと戸惑う。それほど広い訳ではないが高低差を利用した植林の狭間を縫うような遊歩道と、幾本もある幹の太い大木の存在が視界を上手く遮っていて、この森には本当に木霊がいるのではないかと思わせてくれる。
 ちなみにお目当てだった薬草園コーナーは、あらかたが薬草とは思えぬ訳の分からない雑草で埋め尽くされていた。
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051「からから」より ・ 回る風車

2014-08-27 19:09:27 | 和モノ好きさんに100のお題
 物心ついた頃から実に頻繁に幻影を見て来た。どこまでも続く薄暗い河原に飾られた色とりどりの風車。風らしい風も吹かない中で乾いた音を立てながら延々と回り続ける風車の群れ。
 それはひょっとして恐山の光景ではないかと言う友人もいたが、恐山など行った事もないと答えると奴は更に続けた。
「まあ、その記憶がお前自身のものとは限らないけどな」

 それがどういう意味なのかは、空恐ろしくて聞けなかった。
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050「笑う」より ・ 貴方の為だけの果実

2014-08-26 18:31:27 | 和モノ好きさんに100のお題
 むかしむかし、ある男が柵の内側に一本の樹を植えました。
 男は大切に樹を育て、その甲斐あって樹はとても綺麗な花を咲かせ、柵の外側を通る沢山の人々の目を楽しませるようになりました。
 やがて花は散ってしまいましたが、鮮やかに色付いた果実はとても甘い香りを放ち、我慢しきれなくなった人々は争うように柵を越え、手当たり次第に果実だけではなく枝葉まで残らず毟り取り、やがて樹を丸裸にして去っていきました。
 ただ一人残った男は無言のまま再び樹の世話をはじめ、幾つかの季節が過ぎた頃、ようやく緑を取り戻しました。

 けれど、それから、樹は男の現れる夜中にだけ花を咲かせて明け方には散り、熟した果実は全て枝から落とすようになったそうです。
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049「刀」より ・ 妖刀に非ず

2014-08-25 19:12:10 | 和モノ好きさんに100のお題
 友人と一緒に刀剣展に行った。刃物オタクの友人は魅入られたように刃の輝きを見詰めていたが、体験コーナーに置いてあった(カバーと短めのチェーンが付けられ、振り回したり刃に触ったり出来ないようにようになっている)刀身を持ち上げると、「指先を少しやるから切れ味を確かめたい」と呟いた。

 お前、似たようなことを呟いて自宅のセラミック包丁で一生ものの傷痕を残したばかりだろうが。
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048「寺子屋」より ・ 授業料

2014-08-24 19:19:22 | 和モノ好きさんに100のお題
 子供の頃、親戚のいる田舎に遊びに行った時に着物姿の子供たちと仲良くなった。持ってきていたメンコやビー玉を出して見せたら大騒ぎになり、遊び方やルールを教えながら皆で夢中になって遊び、たちまち夕暮れ時になった。そろそろ帰る時間だからとさよならしようとすると凄く残念そうだったので、メンコやビー玉で好きなのを選ばせて一人に一つずつあげた。
 その日以降、僕が親戚のうちに遊びに行くことはなかったのだが、以来、我が家には玄関にいつの間にやら置かれている山の幸が絶えない。
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047「おちゃわん」より ・ 腰の丸みの程の良さ

2014-08-23 21:44:10 | 和モノ好きさんに100のお題
 お気に入りだった茶碗を旦那が割ってしまったので新しいものを買いに行った。

 色、艶、重み、掌に乗せた時の馴染み具合などを時間をかけて追及した結果、かなり値の張る品となったが、なかなか良い買い物をしたと満足しながら帰宅したところ、全く同じ茶碗を箱買いした旦那がドヤ顔で私を待っていた。
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046「花かんざし」より ・ 狐の装い

2014-08-22 18:25:44 | 和モノ好きさんに100のお題
 春は蒲公英、夏は昼顔、秋は菊、冬は南天。

 姐さんは人間の姿になるなり、くるりと一巻きで留めた髪に野の花を挿す。手際が良いのか花の茎は折れも曲りもせずに髪に刺さり、姐さんの美しい髪と項を飾るのだ。子供の頃からとても羨ましく思っていたが私の髪は短く、ようやく無理に束ねた髪に挿す花の茎は決して真っ直ぐに刺さってくれない。
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