蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

他人事でなくなる時

2015-07-31 13:19:38 | 日記
 最初に死亡記事が出たのは、アメリカ大統領の孫娘だった。次の週に、ロッキード社の社長の娘の死亡記事が出て、グラマン社の社長の娘の死亡記事が出るとなると、何か起きているのかなと推測はしたくなる。
 その次の週、日、米、独、仏の大衆紙の紙面に、以下のようなメッセージが載った。
 「目には目医者、歯には歯医者。我々は本気である」
 
 何かが起きている。それがなんなのかわかるのには、もう少し日数を要した。すっぱ抜きで有名なイギリスの大衆紙が、死因はすべて超遠距離からの射殺であることを報じた。そして、ついに、竹のカーテンの向こうからも、同様の例が報じられた。 
 武器輸出大国、紛争と関わり合いを持っている政府、武器の製造者、売買を行っているグループ、密輸組織、テロ組織、そのすべてにわたって、最高責任者、或いは幹部の近親者が次々と射殺されているという事が明らかになった。この時点で、誰が何のためにやっているのかはわからなかった。
 
 はっきりしたのは、先進国は足並みをそろえて軍事予算の削減を公表し、紛争地域では停戦が成立し、武器の製造を行っていた会社はその部門の縮小を発表し、テロ組織はその活動を停止したという事だった。
 金さえ稼げれば、他人がどんな不幸に陥ろうが、愛するものを失おうが屁でもない人間たちが、自分の愛するものの血まみれの死体を抱きしめ、さらに、このままではもっと多くの愛する者たち、お前にとって大切な者たちの遺体が積み上げられるという脅迫には屈したというのは、あまりに平凡な結末だった。

 最後まで事実関係は分らなかった。ただ、世界的に有名な投資家が亡くなった時、彼の遺品の中に、一通の手紙があり、その中に、彼の孫娘が、中東の紛争地域で医療活動に従事していた時に、レイプされた上に殺害されたこと、そして、彼がそれまで蓄えた全資産を傾けてプロ中のプロを数人雇い、自分の計画を打ち明け、彼らがその通りの事を行ったという事が書かれていたという不確かな噂が小さく報じられた。

 その手紙の末尾には、「契約は私の死後も有効である」と書かれていたという。