蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

掌編小説

2015-07-17 12:54:00 | 日記
 駅舎の横を通っている道に路駐していた。前には私が「三ツ矢サイダー」と呼んでいる車が停まっている。後ろには、輪が一つ足りないだけでオリンピックに参加できない車が停まっている。外車が多い街だ。
 ぼんやりと駅舎の壁を眺めている。まがい物かもしれないが、黒御影石調だ。
 手に気が付いた。三ツ矢サイダーに隠れて見えなかったのだが、手が石の壁を登っている。正確には掌か。身体(?)を曲げたり伸ばしたりして、尺取虫みたいに登って行っている。吸盤でもついているんだろうか。今のところ気が付いているのは私だけのようだが、それほどヒマという事か。
 掌は、少しずつ方向を変えて、左へと進み始めた。でっぱりがあって、その下に土のかたまりがある。ツバメの巣かな。巣を落として壁を掃除しようって魂胆なら許しちゃ置けない。車から降りて、砂利の中から手頃な石を探した。草野球だとはいえ俺は現役のピッチャーだ。ヘンな事をしようものならくらわしてやる。
 だんだんと巣へと近づいていく。こちらの掌もじっとりしてくる。
 ちょうど、親が帰ってきた。巣から子供が一斉に顔を出す。
 掌が90度傾いた。掌の方を上に向けて、切断面(?)で壁に吸い付いている。親鳥が掌から何かをついばんでいる。なんだろう。子どもに与えている。一つ落ちてきた。小さな虫だ。しばらくして、掌は役目を果たしたと見えて、元の体勢に帰って上の方へと這って行った。
 駅舎のてっぺんにのぼる際に、Vサインをしてから消えていった。芝居っ気がある掌だった。