蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

ある町にて

2015-07-08 20:09:46 | 日記
 プリウスが4台ならんで信号待ちをしているなんて眺めは珍しくもなんともない。しかし、黄色のワーゲンが三台並んで信号待ちをしているというのは珍しい。それも、前から神戸、和泉、滋賀とナンバーが全部違うというのも面白い。「黄色のワーゲン愛好会」の総会でもあったのかな。
 この町に来たのはもう10年ぶりか。街並みはかなり変わっている。古い家並みも残っているけれど、新築のマンションもいくつか建っている。子どもの遊ぶ姿も見える。
 白い瀟洒なマンションが目に入った。住んでいる人たちが示し合わせたんだろうか。窓につってあるカーテンの色が最上階の5階から、セルリアン・ブルー、サーモン・ピンク、ダーク・グリーン、マゼンタ、そして瑠璃色。
 歩道はレンガが敷き詰めてある。街路樹は、いろんな木が植えてある。柳、鈴懸、桜。そんな中に、ジューン・ベリーの木が植えてあった。美味しい実がなる木だ。
 高層マンションはない。40階、50階と言った空を切り取るようなマンションはない。青空が広がっている。
 古い家並みが残っている地区に入る。
 道の両側に澄んだ水が流れる水路がある。川底には水藻がそよいでいる。水苔も水路の石垣についている。鯉や鮒のような大きな魚はいない。メダカやハヤが泳いでいる。
 上流から、笹の舟が流れてきた。豆粒ほどのお雛様が乗っている。
 土蔵の白い壁が初夏の光を跳ね返している。海鼠塀が風情がある。
 街並みの端の方に一軒の本屋があった。古本屋のようだ。入口のところに手編みの籐の籠が置いてあり、その中に白い猫がのんびりと寝ている。顎を籠の縁の部分に乗っけて熟睡している。
 店内に入る。見ているだけで、わくわくしてくるのは活字中毒者の性と言っていい。見るだけにしよう。見るだけに。そんな決心は春の雪のように溶け去って、一冊の文庫本を店の奥に座っている店主に差し出す。
 帰りの列車の中で読もう。