蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

転勤願い

2015-07-07 20:29:59 | 日記
 出勤してきてまずタイムカードを押し、更衣室のドアを開ける。制服に着替えて棒を持って事務所の前に整列する。
 隊長が、出勤チェックをする。また欠勤しているやつがいる。それも3名だ。総員45名の中で、長期休暇を取っているやつが5名いるわけだから、今日は37名で仕事をこなさなければならない。
 ラジオ体操をし、入念にストレッチをして現場まで隊列を組んで行進する。みんな無言だ。
 俺だってギリギリでやってんだ。休む奴がうらやましいよ。休みたいよ。だけど、俺にもプライドってもんがある。与えられた仕事がどれほど苛酷でも、やらなきゃならないことはやらなきゃならないんだ。それは、ずっとずっと以前から続いて来たんだから、俺たちの代で止めるわけにはいかないんだ。
 俺の後ろの方から、ひそひそ声が聞こえてくる。「赤が・・・」とか、「やっぱり青の方が」と言う言葉が切れ切れに聞こえてくる。
 わかってる、分ってんだよ。研究結果でも、青より赤の方が精神的に弱いってことは統計的に証明されている。だが、それでも、俺みたいな赤も雇用され続けている。「均等法」ってやつらしい。配置転換も申し出たけれど、もう何年も無視され続けている。「松」みたいに、作業の最中にぶっ倒れてそのまま病院送りにでもなったら配置転換は認めてもらえるんだろうか。
 そろそろ河原が見えてきた。
 子どもたちが石を積んでいる姿が見える。隊長が号令をかける。俺たちはいっせいに子どもたちが積んでいる石にむかって襲いかかり、鉄棒で破壊していく。子どもたちは泣き叫び、河原に突っ伏して血の涙を流している。俺も勿論鉄棒をふるい、10人の子どもが積んだ石をぶっとばした。
 隊長の、「やめ!」の声がかかり、整列して、俺たちは事務所に引き上げる。みんな無言だ。鉄棒が重い。
 事務所に帰ったら、俺宛に手紙が来ていた。「六」からだ。「六」は、いまは別の職場で働いている。
 「拝啓、初夏の日差しがまぶしい今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。
 私は現在、針地獄で働いています。経費削減という事で、針地獄の針も最近では粗悪品になり、突き刺さった罪人たちが力任せにもがくと、折れたり、曲がったりするので、その補修で大体一日当たり3時間ほどの残業をこなしています。
 ただ、そちらにいた時よりも体重は増えました。何よりもやりがいがあります。集団的自衛権を押し切ろうとして山ほど嘘をついた首相、最初から最後まで嘘で固めた人生を送った元府知事、傲慢で自己顕示欲のかたまりであった元都知事、嘘と無知とで固めた小説を量産していた小説家・・・。そういう連中を針の山のてっぺんまで担ぎ上げて行って、突き落とし、絶叫を聞くのは実に胸のすく思いがします。
 幼い子どもたちの血のような涙、手を合わせてやめてくださいと哀願する姿を見るのは本当に耐えられませんでした。
 私たち赤鬼は、やはりこの仕事には向いていないかもしれません。
 貴兄の転勤願いが受理される日が来ることをお地蔵様に願っています。
 では、身体に気を付けてこの夏を乗り切ってください。
  
追伸 ユンケル送っておきました。」

手紙を封等に入れて、俺は、机の中から便箋を取り出してペンを手に取った。書きたいことは山ほどある。