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『奄美文芸批評』 [単行本] 藤井 令一 (著)

2010年11月13日 | 本と雑誌

101113_book_amami_bungei_2  奄美文芸批評 [単行本]
藤井 令一 (著)

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内容紹介
奄美が生んだ珠玉の文学――。 沖縄と本土の狭間にある奄美は、独特の歴史、風土、自然を育んできた。文学活動も活発で、数多くの作品を生み出している。本書は小説、評論、詩集、歌集、句集、1000余の文学作品を全網羅。干刈あがた、安達征一郎、斎藤芳樹、尾崎昌躬ら芥川賞・直木賞候補作家も綿密にフォローした。昭和から平成への四半世紀の記録。奄美文学史である。本書に登場する約1100名の人名索引付き。

登録情報
単行本: 740ページ
出版社: 南方新社; 1版 (2010/10/8)

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740ページ の分厚い本です。本の厚さは約45ミリ¥ 5,040(税込)

奄美在住の方や本土に住む奄美出身者の文学活動がこれほど多く幅広いものとは、驚いた。
これから奄美をもっと知りたいと思う人には、まことにありがたい貴重な本だと言える。
<少しのことにも、先達はあらまほしき事なり>徒然草(上)第52段 仁和寺にある法師、年寄るまで石清水を拝まざりければ

著者は、奄美大島の名瀬において島尾敏雄と親交があり、島尾敏雄は最も多く取上げられている。

田中一村についても「その細密に個をとらえる卓越した田中一村の筆法が、私は大好きである」P87 としながら、なかなか手厳しい?批評をいくつか掲載している。

以下、島尾敏雄と田中一村について書かれた部分を抜粋する。

奄美大島に、二十年近くもの青壮年期を生き、それぞれの立場で大きな仕事を成し、故人となった人々の中で、最も著名な人は、文学者の島尾敏雄さんであり、日本画家の田中一村さんであった。ほぼ同時代を奄美犬島の名瀬市で生きた二人の芸術家ではあるが、その島での二人の生きざまは余りにも違いすぎ、またその志も生の目的も島との係わり方も、ことごとく異なった天才の存在ではあった。
 
(中略)

 一村さんはなぜ奄美のためにでもなく、日本のためや金のためにでもなく、ただ自分一人の執念のためにだけ描き続けたのか?特殊な南島の、限られた動植物だけを描いたのか?奄美の人や生活を描かなかったのは何故か?と単純に考えて見ても、彼が奄美を表現しようと努力したのでは無いことが分かる。
 一村さんは、異色な題材である南島の、自分の好きな動植物をより細密に描き、それらを集合させ、デフォルメし、一村さん独自の日本画の世界を生みだし、誰も真似の出来ない彼の絵の完成だけを目指していた、としか思えない。
 彼の動植物の絵には、卓越した資質の生む恐ろしいほどの上手さがあるし、かつて見たことの無いような日本画の濃密な筆致の極点がある、だからそれぞれの個を集めて一幅の日本画を成すとき、そこに細やかな奄美の四季の移ろいが綯い交ぜにされたり、人けの全く無い大密林や無人島が感じられ、私のような奄美の住人は、この島との違和と戸惑いにさいなまれてしまう。多分ピカソやアンリー・ルソーの研究もした画家だと思えるが、やはりそこには、現実の奄美ではない、田中一村だけの世界が現れてくるのを、感じぬわけにはいかない。
 田中一村さんとは逆に、日本の南島》の深層の表現に努力した島尾敏雄さんを含め、その大事な人生の二十年を、骨がらみに絡め取った《日本の南島》である奄美大島の、その島風土の、妖しく燃える魅惑を、その見えない力を、私は改めて考えさせられている。(1989年1月1日発行 雑誌『Esquire』1989年版
本書P161

当時の奄美の庶民は、どちらかと言えば一村の暮らしの方が身近に感じられただろうし、中央画壇に背を向けた反骨的な生き様や、死ぬまで奄美で好きな絵を書き続けた人生に対しても、共感が持てる。たとえ奄美を描かなかったとしても、それでよい、と思えるのだが。(絵の方が文学よりわかりやすく感じられるということもある)

島尾敏雄と田中一村の対比は、いろいろな目線でみると、なかなか面白いテーマかも知れないと思った。

奄美文芸批評 奄美文芸批評
価格:¥ 5,040(税込)
発売日:2010-10-08

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きのうは島尾敏雄の命日で、

あすから奄美パークでは田中一村特別展 「田中一村 新たなる全貌」 開催
  期間/平成22年11月14日(日)~12月14日(火)

という、きょうこの本を読了したのは偶然です。