不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

La finezza di Desiderio da Settignano

2007-03-06 06:03:12 | アート・文化

風に揺らめくような柔らかな栗色の髪。
均整の取れた横顔。
透き通るような柔らかな肌。
まるでそこで静かに呼吸をしているような
そんな感じさえ受ける白い大理石の少年像。

デジデリオ・ダ・セッティニャーノ(Desiderio da Settignano)の
彫刻作品の繊細さは
ルネッサンス後期のミケランジェロなどの
力強い作風の作家たちとは一線を画すもの。
とりわけ女性像や少年像に発揮される繊細さは
独特のものがあります。

1400年代半ば、ルネッサンス期の彫刻の分野で、
高度な創造力が培われた時代に
フィレンツェを中心に活躍した彫刻家。
アントニオ・ロッセッリーノ(Antonio Rossellino)と並んで、
その「甘美な」彫刻表現で名を馳せ、
当時の貴族に愛され才能を認められながら
35歳という若さでこの世を去った彫刻家。

ドナテッロ(Donatello)の作品とも似た部分があり、
バルジェッロ博物館に所蔵されている
「サン・ジョヴァンニ・バッティスタ像
(Statua di San Givanni Battista)」のように
彼の作品でも、
長年ドナテッロの作品とみなされていたものもいくつかあります。
実際この二人は共同で作品を制作することも多く、
お互いに影響を及ぼしあっているのは確か。
ドナテッロの代表作のひとつである
ブロンズ像の「ダヴィデ(Davide)」が置かれていた
オリジナルの大理石基盤部分は
デジデリオが手がけているのは有名です。

ドナテッロよりもタッチはより繊細でやわらかく、
とりわけ大理石彫刻を好んだデジデリオは
大理石の薄肉彫レリーフで実力を発揮し、
当時右に出るものがないといわれたほど。

ルネッサンス時期のフィレンツェは貴族が裕福になり
競って豪華な宮殿を建築した時代でもあり、
そうした宮殿の装飾として宗教的な題材の彫刻だけでなく、
調度品や一族のメンバーの肖像などを
彫刻で作製する機会も多く
デジデリオもそんな環境の中で数多くの
「少年像」や「子供像」「女性像」を残しています。
そのどれもが優しいまなざしと柔らかな唇をもち
ゆれるような柔らかな髪の表現は観ているものを魅了します。

ウィーン美術館に所蔵される有名な「笑う少年像」は
微妙に左側に顔を向け、
呼ぶ声に反応するように弾かれたように
無邪気に笑う少年の生き生きとした表情が特徴で
この作品のあとルネッサンス期には
好んで模倣された作品でもあります。

Desiderio
ただ、なんとなく意地悪な感じがして
個人的にはその笑顔はあまり好きではありません。


この屈託のない笑顔に比べて
ワシントンのナショナル・ギャラリー所蔵の「少年像」は
静かな微笑をたたえ、どことなく儚げな感じがして、
どちらかといえば、
これこそがデジデリオの本領という感じを受けます。

Fanciullo_1
こちらの思慮深そうな冷静な微笑のほうが好き。


早逝したため残されている作品も限られていますが
フィレンツェのバルジェッロ博物館、
パリのルーブル美術館、
そしてワシントンのナショナル・ギャラリーの
それぞれのコレクションを中心に
26作品を集めたアンソロジー展。

後の世代に大いなる影響を残した
彫刻家の才能を知るステキな展覧会です。

Desiderio da Settignano
La scoperta della grazia nella scultura del Rinascimento
会期:2007年2月22日から2007年6月3日まで
会場:Museo Nazionale del Bargello(バルジェッロ博物館)
開館時間:火曜-日曜、第1・第3・第5月曜日 8:15~18:00
休館日:第2・第4月曜日、5月1日
入場料:7,00ユーロ
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