不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

UL•OS X KIKKAWA KOJI

2023-12-06 21:01:00 | アート・文化
12月4日から東京、大阪、名古屋、福岡などの交通広告として
一部の作品が大々的に公開されているので、
もうそろそろ、いろいろ書いてもいいかなと思ったので、まとめ。

11/24‐11/29の期間限定で表参道スパイラルガーデンで開催された
吉川晃司とUL・OS展にはHIRO KIMURA氏による作品が9点展示されていました。

単純なCMタレントとしてではなく、
大塚製薬さんのUL・OS Questionsというプロジェクトの
根幹から関わることになったらしい吉川さんですが、
そのおかげで、
その生き様を表現する貴重な機会が生まれたことはありがたい。

58歳とは思えない、見事に鍛え上げられた体躯と
まさに58歳ともいえる刻み込まれた皺が、とにかくかっこいい。

吉川晃司とUL・OS展「からだから生きるを問う」

9つの問いと9枚の写真。
そこに答えはなく、
一人ひとりが自分と向き合って考えるきっかけを作る展示でした。
「人の生き様というのは、からだ全体で示すものなんだよ」
吉川さんのそのことばを見事に映した9点でした。

・いまのじぶん、好きですか?
展示会場で唯一撮影が許可されていた作品は
どこかせつなそうにも見える表情のアップで、
なによりも美しく広い鎖骨にくぎ付けに。
息ができないくらい、美しいなって思い
落ち着いてからは何度も作品の前を行ったり来たり。


・あなたはちゃんと自然ですか?
こちらに背中を向け両腕を広げている作品。
追いかけても追いかけても追いつけない広く大きな背中は
これからも私の道しるべだなぁと思う。

・ほんとのあなたはどこにいった?
正面を向いて両腕を下げているだけなのに、
その両腕に走る筋肉の一つ一つが意志を持っているように力強い。
ハドリアヌス帝の別荘で見つかった円盤投げの像が一瞬脳裏をよぎる。

・誰かを演じて生きてません?
右手右足が前に出る右半身の構え。
私にとってはこの右手右足前が自然な構えなのだけど、
吉川さんもそうなのかなぁとこの作品の前で、
過去の映像をプレイバックしながら考えていた。

・じぶんらしさを育てるものはなんだろう?
背中を向けて木々の間に立ち少し左側を向いている、
今回の作品の中で実は一番好きだった作品。
元気な毛穴も、そうセクシーな口元のほくろもよく見える一枚。

・ありのままでいいんじゃない?
新宿の高層ビルを見下ろす場所で
少し右側を向きながら胸を開いて後ろ向きの立ち姿。、
浮き上がる肩甲骨も鎖骨と同じように美しい。

・美しさの正体はなんだろう?
ロダンの考える人っぽい左向きの座位。
でも考える人よりは戦い終えたボクサーの感じかな。
太ももに這う絹糸のような体毛にぞくっとする。

・印象ってつくるもの?そなわっていくもの?
岩か木肌のような堅い物質によりかかったアップの作品。
どこか遠くを見つめているような表情に、鵜堂刃衛を思い出す。

・これからどんな道を歩いていく?
右を向いて湖畔を歩くショット。
歩いてきた人生の重みを感じさせるような重量感のある作品で
見ていて、思わず肩に力が入る。

企画構想の段階から吉川さんも参加して、
ブランドをともに作り上げるというプロジェクト
この先も長く続くプロジェクトのようで、
吉川さん以外にも様々な分野の己の信じる道を歩む方々との対話の中で
よりよく生きることとはなにかを問い続けていくということで、
吉川さんの出番もまだまだあるのかなと期待しています。

スパイラルガーデンの展示の際には
パンフレットと試供品までいただきました。










Non vi si pensa quanto sangue costa

2014-12-16 21:26:26 | アート・文化

私はあちこちで書き散らしているように
Alessandro Alloriの作品が結構好きです。
彼の作品は色彩が豊かで柔らかな筆致のものが多いので、
時に色のない重い作品を見かけると
それはそれで気になったりもします。

12月14日まで東京都美術館で開催されていた
『ウフィツィ美術館展』には
そんな気になる一枚が出展されていました。

たった一枚のAlloriの1581年の作品。
それがMadonna languente con i simboli della Passione di Cristo。
あ、この展覧会の会場で無料配布されていた展示作品リストには
日本語と英語の表記しかなかったので、
個人的には非常に不満だったんです。
イタリア語でないとピンとこない作品というのが
私の中にいくつもあるからという、ただただわがままな理由ですけどね。

それはよいとして、Alloriの作品。
キリストの受難を象徴する品々を前にして
悲嘆にくれる聖母マリアが描かれたこの作品は
茶色というかアースグレーというか、
とにかく色の少ない暗い印象。

画像拝借 Il Sole 24
あまり画質よくなかったなぁ。


この作品を初めて観たのは、
毎年、年末年始にフィレンツェのウフィツィ美術館が行う
企画展「I Mai Visti」でした。
確か2007年のI Mai Vistiだったような気がします。
どこの美術館もそうですが、
通常展示されている作品の何倍にも及ぶ点数の作品が
保管庫に保存されているわけで、
普段は日の目を見ない作品を展示してくれる展覧会がI Mai Visti。
そこに出展されていたわけですから、
このAlloriの悲嘆にくれる聖母も通常展示されていない部類の作品。

今回の東京都美術館での企画展「ウフィツィ美術館展」は
ウフィツィから借り出された
Pallade e il centauro(パラスとケンタウロス)がメインでしたが
アカデミアやパラティーナからの作品も多かったし
メイン以外の作品のほとんどは
通常展示されずに保管庫で眠っている作品だったりもしました。

つまり旅行でウフィツィ美術館に行っても
出会うことができない作品が多かったということです。
だから『ウフィツィ美術館展』という展示会タイトルには
若干違和感を覚えたんです。
通常展示されない貴重な作品を
東京の片隅で観ることができたのはラッキーだと思います。
(前向きに評価した場合)

さて、Alloriの作品。
作品はタイトルそのままなので、わかりやすい。
受難の象徴を前に悲しみにくれる聖母、まさにそれ。
そんな作品で気になるのは絵画中に書かれたこの一言。
"Non vi si pensa quanto sangue costa"
ダンテの神曲『天国編』の一節の引用。

この引用はAlloriのオリジナルではなくて、
ミケランジェロもVittoria Colonnaのために制作した
Pietaのデッサンに引用していて、
そちらの方が年代的には古いかな。
 
画像拝借 Wikipedia 


Immacolata concezione

2014-12-08 17:16:45 | アート・文化


Giambattista Tiepoloの
Immacolata Concezione。
画像拝借(http://www.tanogabo.it/)
12月8日はレイラの誕生日でもあるけれど、
Immacolata Concezione(無原罪のお宿りの日)。

このTiepoloの作品は本物をみたことがないんだけれど、
聖母マリアの、すっとした表情が結構好き。

マリアは母であるアンナの胎内に宿ったとき
(つまり、12月8日)から
原罪から免れていたというキリスト教の教義に基づくお祝いの日。

マリアが身につけている純白の服と
天使が捧げる白いユリの花(聖母マリアの象徴)は
彼女の純潔を象徴するもので、
マリアが原罪から免れていることを示している。
そして、彼女自身は教会を象徴するアレゴリーでもあり
その頭上に輝く、
白いハト(精霊)によってもたらされている12個の星は、
やがてイエス・キリストに仕えることになる12使徒を表すもの。

リンゴを銜えた蛇は、
アダムとイブのエピソード(原罪)に繋がる存在で、
「悪」の誘惑により支配された地球(世界)は
マリア(教会)の足元にあって、護られているという図。
そして同じくマリアの足元に見える
鎌のように鋭く細い月は、
状況や運命の変化にも左右されない
マリアという存在(つまりは教会)の
優位性を表しているとされています。

Immacolata Concezioneをテーマにした作品も
世にたくさんあって、
それぞれ表現が異なるけれど、
だいたい似たようなシンボルが使われているので
見比べてみると結構楽しい、と私なんかは思います。

こちらはGuercinoのImmacolata Concezione。
画像拝借(Marche Beni Culutrali) 
 

 

12月8日にクリスマスの準備を始める習慣のあるイタリア。
そろそろ街中が
クリスマス色に染まってきているんじゃないかな。 


Alessandro Allori

2013-09-18 09:26:26 | アート・文化
私が一番好きな芸術家でもあるので、
これまでも紹介したことがあったかもしれません。
ルネッサンス後期からマニエリスムへの移行期に
メディチ家(フランチェスコ1世)のお抱え画家として活躍した
Alessandro Allori (アレッサンドロ・アッローリ)。
同じくメディチ家(コジモ1世)のお抱え画家であった
Agnolo Bronzino(アニョロ・ブロンツィーノ)を師にもち、
画風も非常に似ているため、時に混同されることもあります。

刀鍛冶工の家に産まれ、幼いころから
家族の知り合いであったブロンツィーノの工房に入り師事。
14歳で既に弟子として作品制作に参加し、
師匠からはまるで息子のように可愛がられ、
アッローリの父が亡くなると、
ブロンツィーノが正式に父代わりとなり
これより(1555年)苗字を二つ名乗るようになります。
こうしたブロンツィーノの後ろ盾もあって
若い頃から多くの芸術家や、文学者、
教会関係者との交流をもったといわれ、
また1554年, 19歳の時にローマを訪れ、
そこで数多くの作品を見て学び、
芸術家の集まりに参加し、
巨匠ミケランジェロにも会っているといわれます。
後に創設されたばかりの
フィレンツェのデザインアカデミーの長に就任し
その立場からミケランジェロの葬儀の準備にも携わっています。

1572年にブロンツィーノが、
そして1574年にヴァザーリが他界すると
数多くの制作依頼が彼に集中し、
フィレンツェ中で最も人気のある画家となります。
メディチ家のフランチェスコ1世のお気に入りともなり
メディチ家の依頼による作品もたくさん残しています。

晩年には息子であるCristofano Allori
(クリストーファノ・アッローリ)とも共同制作を行い
広大な風景を背景とする
新しい北方絵画の画風も取り入れるようにもなります。
ウフィツィ美術館所蔵の「イサクの犠牲」は
そうした晩年の彼の代表作でもあります。

現在フィレンツェのサンタ・クローチェ教会
(Cenacolo di Chiesa di Santa Croce)に所蔵されている
Deposizione di Cristo(キリスト降架)。
Dscn9266
左下に描かれた聖母マリアを支える女性の足元に
「ブロンツィーノの弟子、アッローリ」とサインが残されています。
Dscn9264
このサインでは1560年制作と記載されていますが、
実際に残っている教会の古文書には
1563年から1567年の作品と記されています。
1966年11月4日の洪水で被害にあった作品の一つで
完全に水に浸かり、
2009年に大々的な修復が完了しました。
ミケランジェロやブロンツィーノの影響を受けた
マニエリスム技法全快の作品ですが
女性の表情に特有の優しさがあり、
その繊細さは
アカデミア美術館
(Galleria dell'Accademia di Firenze)にある
アッローリの「受胎告知(L'Annunciazione)」の
やわらかな雰囲気にも通じるところがあります。
Galleriaaccademiad22





Riapertura del Palazzo Pretorio di Prato

2013-09-11 08:45:02 | アート・文化
本当に長い間修復のために閉館となっていた
プラートのプレトリオ宮殿(Palazzo Pretorio di Prato)が
ようやく15年におよぶ修復を終え、
美術館として一般公開を向かえることになりました。

これを記念して、プラートの美術史を語る上で
欠くことのできないルネッサンス期の傑作を集結した
特別展が開催されます。

プラートのドゥオーモではルネッサンス初期の芸術家が活躍し、
数多くの作品を残しています。
ドゥオーモの正面ファサード右手に取り付けられた
「聖母の腰紐(La reliquia della Sacra Cintola)」
を披露するための説教壇や
被昇天聖母の礼拝堂や大礼拝堂のフレスコ画などが
Donatello、Michelozzo、
Paolo Uccello、Filippo Lippiなど
ルネッサンス初期(1400年代)を代表する
偉大な芸術家によって制作されています。
また若い頃にプラートを離れ、晩年に戻って活躍した
Filippino Lippiの作品もいくつか残されています。

特別展は7つのセクションにわけられ、
60点以上の作品が全世界の美術館から集められています。
メインとなる
プラート出身のフィリッポ・リッピの作品を集めた
セクション(4番目)を中心に、
プラートにある各芸術家の作品にからめて
全世界に点在している作品を集めて
時系列、作品同士の影響波及などを踏まえた展示となっており、
当時のプラートでの芸術活動の活発さを伺うことができます。

一般公開は9月13日からですが
それに先駆けて本日より13日まで
21:30-24:00の夜間特別開館(入館料7ユーロ)も予定されています。

Da Donatello a Lippi
Officina pratese
会場:Museo di Palazzo Pretorio
Piazza del Comune, Prato
会期:2013年9月13日から2014年1月13日まで
開館時間:10:00-19:00
休館日:毎週火曜日、12月25日
入館料:10ユーロ
詳細はこちら