不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Appartamento di Bianca Cappello a Poggio a Caiano

2007-03-13 06:02:44 | アート・文化

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フィレンツェ郊外の小高い丘の上に建てられた
ルネッサンス様式の別荘。
ポッジョ・ア・カイアーノのメディチ家別荘は
元々ストロッツィ家の所有であった中世の城を
利用して建てられたもの。
1470年代初頭にロレンツォ・イル・マニーフィコ
(Lorenzo il Magnifico)に所有権が移り、
ジュリアーノ・ダ・サンガッロ(Giuliano da Sangallo)が
レオン・バッティスタ・アルベルティ(Leon Battista Alberti)の
セオリーに基づきルネッサンス式様式で再建。
それまでの堅固な要塞風の建物に比べ、非常に軽い仕上がりで
当時のフィレンツェの政治的安泰と
メディチ家のもつ美的センスがよく反映されています。
この後フィレンツェの貴族たちが競って建てた
郊外型別荘のプロトタイプとなった建築物です。
ロレンツォの息子・ジョヴァンニ(Giovanni)が教皇に選ばれ
レオ10世(Leone X)となった頃にほぼ完成したこの別荘の
二階部分にはフレスコ画で飾られる
レオ10世の間が残されています。
アンドレア・デル・サルト、ポントルモ、フランチャビジオなど
マニエリスムの時代の巨匠たちが手がけたフレスコ画は圧巻。

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均整の取れた美しい別荘は、当時自然に囲まれ、
メディチ家のメンバーが狩猟を楽しむために整備された
14ヘクタールに及ぶ森林には
鹿やウサギなどの野生の動物はもちろん、
ロレンツォがバビロニアのスルタンから贈呈されたといわれる
数種のエキゾチックな動物が棲息していたといわれています。
建設当時からメディチ家の狩猟別荘として、
また避暑地として愛された場所で
彼らの華やかな歴史を彩った著名人たちも訪れ、
またメディチ家の発展の大きな役割を果たした
重要な婚姻の舞台ともなりました。
特にコジモ1世(Cosimo I)の子息たちの婚姻の際には
外国から迎えられた花嫁はフィレンツェ入りする前に
この別荘で祝福を受けるのが慣わしとなっていました。

メディチ家の歴史はそのところどころに血なまぐさい陰謀事件や
親族同士の殺人事件などが刻まれています。
その中でも、もっともロマンチックで
ルネッサンス期の一大スキャンダルとも言われた
フランチェスコ1世(Francesco I)と
ビアンカ・カッペッロ(Bianca Cappello)の
恋愛とその悲劇はこの別荘が舞台となりました。

ヴェネツィアの貴婦人で既婚者であったビアンカと
既にジョヴァンナ・ダウストリア(Giovanna d'Austria)と結婚していた
フランチェスコは恋におち、
フィレンツェでも逢瀬を重ねていましたが、
ビアンカはメディチ家のメンバーから疎まれ、
カイアーノへ移住させられます。
当初ポッジョ・ア・カイアーノには上記の別荘のほかにも
メディチ家所有の小さな別荘がいくつかあり、
そのうちのひとつであるチェッレティーノ(Cerretino)に
暮らすようになります。

やがてビアンカの夫が亡くなり、フランチェスコの妻も亡くなると
二人は晴れて結ばれ、ポッジョ・ア・カイアーノで再婚します。
その後二人はこの別荘での生活を好み、
わずかな幸せの日々を過ごし、
そして、この別荘で1587年10月相次いで亡くなりました。
マラリア熱による死亡と当時の文書には書き残されていますが、
2004年から続けられていた調査の結果、
二人の死因が砒素中毒であることが明らかになりました。
これによって二人が毒殺されたという可能性が非常に高くなっており
よく言われるように二人の仲をよく思わず、
権威の座を狙っていたフランチェスコの弟
フェルディナンド(Ferdinando)の策略による
毒殺であるという説が強くなってきました。

ポッジョ・ア・カイアーノの別荘には、
正面向かって右手の部分に彼女のための居室が残されています。
この居室の中では白大理石で造られた
こじんまりとした暖炉のある部屋だけが
現在一般公開されています。
ルネッサンス様式で整えられた部屋の
暖炉の装飾と寝室へ伸びる階段は
アルフォンソ・パリージ(Alfonso Parigi)の手によるもの。
広くはない暖炉の部屋から上階の寝室へ伸びる階段は
扉の近くから窓のほうに向かい、そこで小さな扉をくぐり
壁の裏手を折り返して姿を消し、
窓側から扉入り口に折り返す途中で
一旦部屋を伺うような造りになって、
再び壁の向こうへ消えるという凝った設計。

長い裾を引きながら階段を上っていく
ビアンカの姿が目に浮かぶような不思議な錯覚を覚える部屋です。