*****篆文対照老子道徳經*****
古典研究で欠かすことのできないのは、古典語の把握です。
西洋の場合はアルファベットが少ないのでいいなあと思っているのは大間違い。ギリシャ語・ラテン語、更には中世ラテン語など綴りが異なるのみでなく語義にも変遷があります。また、例えば現代のフランス語での「r」と英語での「r」スペイン語での「r」の発音が相当変化しており相互の意志疎通は当然ながら古典テキストの読解・研究上に不都合があります(フランス人はhが発音できません)。
日本人の中国古典の研究の仕方は、今は日本古典文法の基礎を習い、独特の訓読の方法を習い、白文に馴れた暁(高校卒業・大学入学前後)に各自の興味対象分野に従って甲骨文字を、白文を、あるいは中国語をなどを集中的に学ぶなど人によってまちまちです。日本語に残る漢字音をとうに失った中国の研究者は古典語読みとして「百」を「bo」「bai」と区別しているものの、日本人が古典での「さ行」「わ行」の区別をしないように現代音で読んでいます。古典修得の方法が当然ながら異っています。
さて、現在漢字学の巨頭である恩師ー赤塚忠、藤堂明保を失った現在ですが、ひとりこつこつと甲骨文字を把握する上で必須ともいえる篆文になれるためのテキストを紹介します。田潜『篆文対照老子道徳經』天地図書有限公司です。
そのほか実際に出土した漢代の文献の写真・解説は『文物』という本に載っていますが入手困難です。各大学の研究所にあれば閲覧できるかもしれません。篆文・隷書また出土文献についての基礎的な文献であり、かつ労作である『秦・漢初の簡牘帛書の書体と隷書の成立』二松学舎論集(昭和五十四年度)も必見です。
画像では、
「 道可道,非常道。名可名,非常名。無名,天地之始。有名,萬物之母。故常無欲,以觀其妙,常有欲,以觀其徼。此兩者,同出而異名,同謂之玄。玄之又玄,衆妙之門。
天下皆知美之為美,斯惡」
と書いてあります。