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その年の暮れ、典子は夫以外との逢引(この響きが彼女は好きだ)をする事になった。
相手はSNSで知り合った城島真斗という10歳上の紳士である。
「あなたを一目見た時からずっと好きでした」
衝撃的なメールの文句が頭にこだましている。
1ヶ月前に典子は城島から愛の告白を受けた。
ただし、SNSの中でである。
小夜の例もあるし、典子は用心していた。しかし、城島がキチンとした企業に真面目に勤めてる事を確認して安心した。
一度彼の会社の近くでお茶した事もある。
ウイットのある話の面白い人だった。
ただし、彼も既婚者である。
許されない愛の行方。
典子は想像力を膨らまして身悶えした。
一体に典子は頭の中で恋愛を拵える女である。
洋司とは、見かけによらぬ洋司の強引さで結婚出来た。
もし、優柔不断な男だったら、見かけによらぬ典子のガードに硬さで進む事も儘にならなかったろう。
典子は恋がしたかった。
それも、ドロドロの恋のぬかるみにはまってみたかった。
友人に言えば呆れられるだろうが、彼女は学生時代の愛読書、『嵐が丘』や『チャタレイ夫人の恋人』を夢見ていたのだ。
この時、おバカな彼女は小夜や洋司のハッキングの過去をケロリと忘れていた。
相手は忙しい身だ、そんな暇ないだろうとあくまでも自分に都合良く考えていた。
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さてデートの場所は横浜、祐天寺駅から東横線一本で行ける。
典子は淡いベージュのコートを羽織る。
ふわふわさせた襟元が可愛げなお気に入りのコートだった。
ブランドを嫌って黒い小型の上質なバックを持つ。
髪型はワザと無造作なボブにした。
戦闘準備OKである。
これが世の中の非難を浴びる行動だとか、夫の思惑とかを、典子は一切忘れてしまえる女だった。
冒険をしに行く子供の様なワクワクした典子の気持ちを削いだのは、近くに座っている黒眼鏡の女だった。
スタイルの良い女で、カッコよく脚を組む。
マロン色に染まった髪が肩でカールしている。
服装も典子より一段上の上質なものだ。
サングラスで阻まれて、表情は分からないが見つめられている感じがする。
そればかりか、明らかな敵意を感じられるのだ。