私、事情があってずっと独身で某企業に勤めてました。親の介護の為早期に退職してもある程度の働いて得た貯えがありましたので、何とか暮らしていけました。
その親の死後、学校時代のクラス会がありまして、彼と再会したのです。それまでは特別な人と意識したことはなかったのですが、懐かしくてお喋りする内に意気投合してしまって、、、」
雪は打って変わってしおらしい態度になった。
「つまり特別な感情を抱くようになったと言う事ですね」
(よくあるケースだけど、こう言うの年甲斐もないと思わないのかね)
「その時は未だ二人とも50代だったのです」
「はあ」
「彼は勿論既婚者で二人のお子さんがいる人です。
最近まで大企業の重役を勤めてました。
社外でも交友関係が多くてさばけた大人の男性です。
ただ、私には中学校の時と同じ少年っぽい面を見せてくれたのですね」

「すみませんがね。ウチは人生相談はしておりません。
「ほう」(^◇^)
「彼って凄いシャイな一面を持ってるのです」
「それをあなたにだけ見せるって事ですね」
「彼は昔から私が好きだったって言うんですよ」
「、、、」(いい加減にしろ(゚∀゚))
岡は紅潮した雪の顔を見た。こうして見ると確かに大昔は可愛い顔立ちをしていたのかも知れない。
しかし、岡の年代からすれば、殆ど聞くに耐えないザレゴトに思えた。
が、我慢して質問を続ける。
「それで?」
「あの頃自分は両親の不和で悩んでて一刻も早く独立したかった。それで給料の良い企業に入りたかった。それで先ず受験勉強に専念してたと言うの」
雪は少女時代に帰ったような目つきになった。
「コクって結局私を傷つける結果を避けたそうです」
「はあ」
「職場は専門職の年長者ばかりで、そこでずっと事務職についていた為か、私非常に世間常識に疎いのです。
生憎兄弟も相談する親戚もいなかったのです。
結局、親の過保護状態から抜け出せなかったのですね。
その親が亡くなった空白の時に、彼と親しくなってつい頼ってしまったのです。と言って家庭を壊すなんて気持ちは皆無でした」
「、、、」
「そこからSNSの場を借りておしゃべりしてたんです。お互いの名前も住所もネット上でダダ漏れなのもよく分からずに、不倫とは違う、ただの友達だから良いでしょと思ってたのね。
でもワクワクする喜びだったんです。
ネットなんだから、この会話が見つかってハッキングされてたんすね。
訳がわからない内に、全然事実無根の噂が広がってしまったのです。
そしてそれっきり彼と連絡出来なくなりました」
「つまり相手が地位が高い方だった為誤解を生んだって事ですね」
「その通りです。それで、、」
「SNSに悪戯書きされたり、チャット中の写真をネットで流されたり、盗聴行為をしたり、、?もしかして電話を盗聴してたかも知れない」
晴夫は内心揶揄う気分で言った。
「確かな証拠はないけど。
そう言う事です。
要するにすごくナーバスになって、バカみたいに何回も転居してしまいました。
貯金もごく僅かになりました」
雪はガクッと項垂れた。
岡は逆にイライラしてきた。
「若い娘じゃあるまいし!」
ひどくバカげた話だと思う。

「すみませんがね。ウチは人生相談はしておりません。
一応相談料はいただく事になってますが、これ以上はこちらの仕事でございません」
岡は努めてしれっと言った。
(水谷雪は痴呆老人じゃないか?存在しないストーカーを妄想してるだけかも知れない)
彼の内心はただ早く帰ってもらいたいだけだった。
それを聞いて、雪は彼の態度を予測してたような顔つきに変わった。
「あなた、ネットで何でもやる探偵さんだという広告出されてましたよね」
落ち着いた口調で言う。
「確かに」
「ですから、仕事であれば私の身の回りの警備も出来る筈ですよね」
そこにもうオドオドした世間知らずの老女は存在せず、社会経験を積んだ大人の老人がいたのである。
「、、、、」
岡は雪の突然の変容に唖然とした。
(何で最初からそう言わんのか?)