晴夫は態度を改めて雪に向かった。
「水谷さんの仰る通りにすると、私がそのストーカーを監視する間はこの事務所を閉じねばなりませんが」
「多分ごく短期間で終わると思うのです。何故ならば私の予測通りだとすれば、あなたもご存知の人物だからですよ」
「何ですか!それ」
雪はゆっくり説明した。
1、ストーカーらしき人物が、最近彼女を監視している様子である事、外出先で遠くからだがその姿を見る事、ひょっとして彼女のパソコンやスマホをハッキングしてるのではないかと思われる事、あくまでも確かな証拠は無いが、そう感じる時が多い。
2、そして偶然キャッチした姿形が「その同窓生」に酷似していた。
3、歳を取ってからネット上の嫌がらせは無いが、ストーカー行為の悩みを周りに相談すると又変な噂が広がる怖れがある。
以上の点からネットに精通してる(らしい)岡に依頼する事に決めた。
そこまでの説明は非常に分かり易い。
しかし、わざわざ高額の料金を払って探偵事務所に依頼しなくても、公的機関で相談した方がお金を使わなくて済むのではないか?
晴夫は素朴な疑問を抱いた。
それにストーカーらしい人物をどうして自分が知ってるのだろうか?

晴夫の疑問を見通したように雪は話を続ける。
「つまり、私がストーカーだと思ってた同級生はあなたの上司だったんですよ!」
「ええっ?!」
「あなたSS商事の海外企画課にお勤めだったでしょう。
一時、岩城部長の下で働いた事ないですか?」
その瞬間、岡は温厚な外見と異なりかなり強引に意見を通して仕事を進めるかっての上司、岩城の顔を思い浮かべた。
直属ではないが、入社早々ついてその一年後昇進した上司である。
如何にも出来る男の岩城とこの子供みたいな婆さんは容易に結び付かないが、蓼食う虫も好き好きと言うからそれはあり得るかも知れない。
ただ、、、。
「確かに。でも、よく調べてらっしゃいますねえ。逆じゃないですか」
「昔岩城君と連絡出来た頃に、彼から君の男性版がいるよ、と聞かされたからですよ」
「何ですかそれ?」
「つまりオリジナリティは素晴らしいけど、主張が強くて孤立しがちって事です」
岡はムッとした。
ただ未だ疑問は解決していない。
「岡という名前はポピュラーです。なのにどうして僕が岩城氏の部下だったと分かったのですか」
雪は悪戯っぽい顔になった。
「探偵事務所の広告出すでしょ。開いた当初お宅も新聞のビラとかネット広告出したじゃない。そこに書かれた姓名と略歴から推理したんです。
そして評判を聞いて」
ここで雪は微妙な表情をした。
ますますムッとした晴夫は呟くように
「つまり全然流行らない、って事でしょ」
と口に出す。
「ごめんなさいだけどその通りです。だからこんな変な話を自由に出来ると思ったんです」
「ちょっと!失礼過ぎる」
晴夫の額に青スジが立った。
「すみません」
雪は如何にもすまなさそうな顔をした。
「実は、、、私犯人の実体がやっと分かったんです。それでそのストーカーに抗議する男の人が必要なんです!」

「どうしてご自分でなさらないんですか?
僕が岩城さんの隠し事を暴いて抗議出来る立場でない事くらい分かるでしょ!」
「実は」そこで水谷雪は思い切ったように真相を言った。
「つまりストーカーは岩城君の息子さんだったんです。
こちらからこっそりと後をつけてる男の写真をスマホで盗み撮りしたら、前に彼から見せてもらった写真そっくりの人だったからです。
だから遠目に見た姿が彼そっくりに見えたんですね」
「、、、、」
(つまり、岩城氏にそれを僕から伝えて欲しいってことね)
岡は初めて雪の意図が了解出来た。