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読書の森

おかしなストーカー その3

晴夫は態度を改めてクライエントの水谷雪に向かった。
「水谷さんの仰る通りにすると、そのストーカーを監視する間、私は事務所を閉じねばなりませんが」
「存じてますわ。申し訳ないけどあなたの事務所全然顧客が来ないので有名なの」

晴夫はムッとした。確かにその通りだからである。
「ごめんなさいねえ。失礼な事言って。実は私、予めお宅を調べさせていただいてたんです。近くに住んでますので来客が殆ど無い事が分かります。気がつきません?
最初に住所氏名記入した筈です。ああ、町名が違うので分からなかったのね。そうよね、お宅は最近越してきたばかりですよね」
「それじゃあ、逆じゃありませんか!
一体人をおちょくるつもりですか?」
はらわたが煮えくりかえる思いで岡は語気を強めた。
こういうのをカストマーハラスメントと言うんだ。今直ぐ訴えよう」
内心怒り狂ってる彼を哀しそうな目で見た雪は
「お互い、明日の食い扶持に困ってるところは一緒です。そのために誤解されるの覚悟してここを訪れたのです」
「水谷さん、あなたの仰る事は一方的で勝手過ぎるんですよ。私は公の許可をとってこの事務所を開いてるんですよ。あくまでも調査した結果を報告する仕事であなたの問題に立入する仕事でない。
第一、失礼ですがあなたは2部屋借りる経済的余裕があるのですか?」
「貯金を大半崩して借りたのです。そして実はそのストーカーが誰か知ってるんです」
「何です、それって!」
「つまり第三者であるあなたに、そのストーカーがいる事を確認した上で調査書をお渡し願いたいだけなんです」

もうこの変な婆と一切口を効かずにおこうと心に決めた。喋らせるだけ喋らせて、向こうがクタクタに疲れるのを待つだけだ。
朦朧としたところで「お引き受けかねます」で終われば良い、それまでの我慢だ。
全く無表情な岡晴夫を見て、水谷雪は言葉を選ぶように思案していた。


「そのストーカーが誰か私知ってるのです!」
(じゃあ、あんたがその人に直接抗議するか、しかるべきところに訴えればいいじゃん)
(、、、)
「私に依頼されたのは、ご自分に仕返しされるのを恐れてるんですか?それともおかしな人だと誤解されるのを恐れてるんですか?」
思わず岡は声を出した。
それなら妥当な理由である。

「実は」そこで水谷雪は黙考してたが思い切ったように口を切った。
「それが、今言った人のニートの息子なんです。向こうは知らないでしょうが、かってその人のお家の側にいた事があって、何回もお目にかかってるんです」
「、、、、」
(つまり、相手の保護者に第三者が伝えて欲しいってことね)
岡は頷いた。
(ああそれで了解できたよ)
「顔を確認されたのですか?」
「顔はしっかり見てませんが、細身の身体つきで分かったの。そっくり同じですから」
「しかし」

岡の表情を捉えて、水谷雪はニッコリと微笑みを浮かべた。
「私にとってもはや恋は過去のことで、今後の平和な暮らしが一番大切なんですわ」



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