読書の森

三年目の浮気 その7



「浮気の相手に」というより懐かしい心の恋人として浮かぶのは後藤信である。
会社の同僚で素朴な男、典子が密かにいいなと思っていた。

同期の彼は北海道の根室出身と言う。
ガタイが大きく、行動的なスポーツマンである。
社のラグビー部に属して活躍している。

典子も何度か対抗戦を応援に行った。
呆気ない程フランクに話をしてくれなかった、メルアドや電話番号まで教えてくれた。
その後優柔不断な典子はどうしようかと迷っていたのだ。

あの時勇気を出してアッタクすれば、こんな目に遭わなかった。
典子は勝手な想像を膨らました。



何故独身の時は、もったいぶって電話出来なかったのに、人妻になると図々しくなるのか?
夫が接待ゴルフに出かけた休日、典子は躊躇なく後藤信の携帯に電話を入れた。

後藤は直ぐに電話に出たが、想定外の言葉を発した。
「ああ、相田さん。いや井戸さんですね。お久しぶりです。実は今家内の買い物に付き合ってるところなんです。後で掛け直します」
相変わらずの明るい声が返ってきた。

「嘘!」
考えてみれば、後藤みたいに好感が持てて、地位が安定してる男が30超えて結婚するのは当然の事である。

暫く後に、後藤から電話が掛かって来たがありきたりの祝辞を述べて終わった。
後藤も、典子が人から聞いて結婚祝いの電話をかけたと思い込んでるらしい。

典子は弾んでた思いが萎んでボンヤリしてたが、例の怒りの渦はまだグルグル心の中で回っていた。

何が何でも浮気をするのだ。
まるで試験勉強の仕上げをする様に典子は顏を引き締めた。
彼女は、結婚前も結婚後も遊びを知らない女なんて凡そつまらないと勝手に決めている。

そして、その晩ゴルフから帰ってきた夫にカキフライとサラダと味噌汁、あれやこれや好物を出した。
洋司は目を細めた。
「お前、料理の腕上がったなあ」
「嬉しいわ。あなたの美味しそうな顔が見たくて作るの。
でも本当は他の方の作った物の方が美味しかったんじゃない?」

洋司は一瞬眉を顰めたが、直ぐに笑い飛ばした。
「バッカだなぁ、妬いてんの?今はお前一筋だよ。料理が不味くなるから止めた止めた」

洋司は結婚後貫禄がつき、落ち着いた大人の男の顔つきをしている。
こういうのって女にモテるのか?

横目で夫を見て典子は不遜な事を考える。
ほんのちょっと前までは、この世で頼りになる唯一の男性だったのに。
松本小夜の悪戯が重なって以来、夫に素直に向き合う事の出来ない典子だった。

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