~ストーリーテリング「愛依の風」ainokaze~

絵本・素語り・わらべうた
ストーリーテラーやえはたのりこ(やえちゃん)の徒然便り

「絵本を読む少女」

2009年11月26日 | 創作
お花のような名前の女の子がいる
8歳になったのかな

私は、その少女を
本当の野原にそっと咲く
茎は細いけれど、しゅっと上を向いて咲いている
白い野菊のようだと思った

女の子のお母さんにそういうと
「野菊の墓ね」と微笑んだ
「そう、私、伊藤左千夫の野菊の墓大好きなのよ」と付け加えた

野に咲く野菊は可憐だ
でも、とても強い
女の子はおはなしする時はあどけない
笑顔は、キャラメル味のよう

少女は言った
「この絵本おもしろいんだよ。読んであげる」
「嬉しいなぁ。私はね、読んでもらうのが一番好きなんだよ」
お話し会で出逢った少女が私に、お気に入りの絵本を読んでくれるというのだ
初めてのこと
頬が熱くなった

私と女の子のつながりは、絵本
たからもの絵本
お母さんは、少しの間席を外した
「この少女と出逢ったのはいつだったろう」

やっぱり、少女は、たくましい野菊だった
はっきりとしっかりと、会話には力を入れて私に読んでくれている
「あぁ、嬉しい。たまらなく幸せだ」

絵本は、大人が読んであげると、読み聞かせか・・・
女の子が気持ちをこめてまっすぐ読んでくれるそれは
読み伝えだ!
少女が、何に想いを込め、この絵本の何が好きなのか、手に取るように伝わる
純粋で、直向で、元気。
女の子はまさしく野菊であった
小さくとも、その存在を喜び生き生きと生きているのだ
びんと弾む、いい声。

ありがとう
絵本を読む少女の横顔
泡いっぱいの、やわらかいお抹茶の味、香り、色
窓からの陽光
静かな午後
絵本を通して出逢った幸せの時間
私は、この日を、忘れない。

ふと、机の上に置いてあった絵本のタイトルが目に入った
『でんでんむしのかなしみ』

「私のからには悲しみがいっぱいなのではないだろうか」

忘れていたことばが頭をよぎった
でも、すぐに消えた
女の子とお母さんが寄り添って楽しそうに私を見ていた
最後の言葉がすぐに浮かんだ

「この でんでんむしは、もう、なげくのを やめたので あります。」

野菊の少女、だとしたら、お母さんはりんどうかな
二人を見つめ直して、私は、微笑んだ

                    (2009.11.26 典子)



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