(1971/ロバート・ワイズ製作・監督/アーサー・ヒル、デヴィッド・ウェイン、ジェームズ・オルソン、ケイト・リード、ポーラ・ケリー、ジョージ・ミッチェル/130分)
一般的な映画ファンには「ウエスト・サイド物語」、「サウンド・オブ・ミュージック」の2大ミュージカルの監督としてお馴染みのロバート・ワイズだが、スポーツや戦争を絡めた人間ドラマ、西部劇、犯罪サスペンスなどジャンルを問わない(コメディは見当たらない気がするが)オールマイティの職業監督だった。ホラーやSF作品が多いのも意外で、そういう意味では守備範囲の広さはワイラー以上だったのかも知れない。
「アンドロメダ…」が作られたのは1971年。日本公開も同年の8月で、僕は高校生だったのでタイトルも良く覚えているけれど何故か観てない。ハリウッド製のSF映画だから田舎町の映画館にも来たはずなんだけど、定期試験の真っ最中だったのか、他に観たいものがあったのか。
1971年、アメリカ。
政府の肝いりで発足した研究機関のミッションを終えた無人の人工衛星スクープ7号がニューメキシコ州の田舎町ピードモントに着陸する。二人の係員が回収に向かうが、遠方から観察すると夜だというのに空にはコンドルが沢山舞っており、人口70人足らずの町は人気がなく不気味に静まり返っていた。カリフォリニアの空軍基地にあるスクープ管制室と連絡を取りながら二人は車で町に入る。無線は切らずにいるので管制室には彼らの会話が聞こえてくるが、通りのあちこちには村人の死体が転がっていると報告してきた。それはまるで歩いている途中に急に倒れた様だとも。スクープの帰還が関係している事が十分に考えられるので、車から出るのは躊躇われたが、管制室の指揮官は死体には構わずにとりあえず衛星の発見と回収に専念しろと命令した。と、突然車の急ブレーキの音がする。そして「何か白いものが」という言葉とともに二人の悲鳴が・・・。
オープニングはこんな感じです。まるでモンスター・エイリアンの登場みたいですよね。でも後で“白いもの”はエイリアンでも何でもないことが分かります。
原題【THE ANDROMEDA STRAIN】は、マイケル・クライトンが書いた原作と同じく「アンドロメダ病原体」。正確には「アンドロメダ菌株」。
宇宙から衛星にへばりついてやってきた直径2ミクロンにも満たない地球外生命体の脅威をスリリングに描いたSFサスペンスであります。この極小の生命体は瞬時に人間の血液を固まらせて死に至らしめるので、「アウトブレイク (1995)」等と同じパンデミックものと考えてもいいかも知れません。
スクープが地球外生命体をくっつけて帰ってくることは想定内だったようで、そうした場合のエイリアンの脅威に対応するためのプロジェクトも用意されていました。題して「ワイルドファイア」。
メンバーは、ノーベル賞受賞者でありワイルドファイア計画の発案者でもあるジェレミー・ストーン博士、引退時期を考え始めている病理学者のチャールズ・ダットン博士、有名な臨床微生物学者でありメンバー唯一の女性ルース・レヴィット博士、そしてマーク・ホール博士は優秀な外科医だが実際のところプロジェクトの内容から言えば専門外の人間だった。もう一人、エール大の人類学者が予定されていたが病気療養中で参加できなかった。
プロローグの後、「ワイルドファイア計画」に則り秘密裏にメンバーが召集され、まずはストーン博士とホール博士がピードモントで状況確認と衛星の回収を行う。通りの遺体に苦悶の表情はなく、あっという間の出来事だったことが窺える。家の中で亡くなっている人も多く、理髪中の椅子の上で亡くなっている人もいた。妙なのはコンドルが啄んだ傷から出血していないことだった。後で分かった事だが、遺体の血液は粉末状に凝固していた。ひとりお婆さんが家の中で遺書めいたメモを残して首を吊っており、即死でない人が居たことも分かった。
ストーンとホールが衛星を積んで帰ろうとした時、何処からか赤ん坊の泣き声がしてきた。まさか!
二人が声の聞こえる家に入ると、確かにベビーベッドに寝かされた赤ん坊が大声で泣いていた。母親は死んでいるんだろう。更に赤ん坊をヘリコプターに吊り上げようとしていると、突然一人の老人が現れた。男は片手に包丁のような持って「お前たちがやったのか?」と威嚇をしてきたが、やがてウッと呻いたと思ったらその場に気を失って倒れてしまった。この老人は白いガウンのようなパジャマを着ていた。
なんと生存者がいたのだ。しかも2名。どちらからも有益な情報が聞けそうにないのが残念だが・・・。
ここまでで上映時間は30分強。残り100分のドラマは全てダラスの砂漠の中にある農業試験場の地下施設の中で繰り広げられます。
原作は<「科学的な危機を正確かつ客観的に記録した報告書」という体裁で成り立って>いるらしく、映画も日時の挿入やら、プリンターの通信記録を打つ文字を捉えたりとドキュメンタリーっぽく見えます。しかし、昨今のそういう(ドキュメントタッチの)演出に比べると、まだまだ“語っている”カメラワークでしたね。
ピードモントの搜索シーンなどでは「華麗なる賭け (1968)」みたいな画面分割もあったりして。
ウィルス感染を防ぐために施設は五つのレベルで区分けしてあり、各レベルに移動するために厳重な除染が行われる。最初に観た時はこのシーンが説明過多でしつこく感じられたのだけど、2回目はそうでもなく、当時としてはこういう施設の映像は珍しかったのかもと考えました。後の「バイオハザード」シリーズを思い出す場面も。
まずはウィルスを見つけること。そして構造や生理を分析すること。最後は、封じ込めること。
汚染が外部に広がる危険が発生した時には、自動的に施設の自爆装置が働くようになっているのは、「エイリアン」とかでもありましたよね。「アンドロメダ・・・」でも、終盤でこのシステムが緊迫場面を作り出して大いに楽しませてくれます。
感染への危機感と、未知の生物の正体を探っていくスリル。著名な俳優がいない事でも地味な印象を受ける作品ですが、却って誰が死んでもおかしくないと思わせる効果もあったでしょう。
女性のレヴィット博士は体調万全では無いし、ホール博士は自爆装置の解除キーを担当させられてソレも気になっている。そんな個別の様子も交えながらラストのクライマックスへと進んでいきます。
130分は少し長めながら、SFファンには是非とも見て欲しい今作。お薦め度は★四つ。
尚、1971年のアカデミー賞では、美術監督・装置賞、編集賞(スチュアート・ギルモア)にノミネートされたそうです。
一般的な映画ファンには「ウエスト・サイド物語」、「サウンド・オブ・ミュージック」の2大ミュージカルの監督としてお馴染みのロバート・ワイズだが、スポーツや戦争を絡めた人間ドラマ、西部劇、犯罪サスペンスなどジャンルを問わない(コメディは見当たらない気がするが)オールマイティの職業監督だった。ホラーやSF作品が多いのも意外で、そういう意味では守備範囲の広さはワイラー以上だったのかも知れない。
「アンドロメダ…」が作られたのは1971年。日本公開も同年の8月で、僕は高校生だったのでタイトルも良く覚えているけれど何故か観てない。ハリウッド製のSF映画だから田舎町の映画館にも来たはずなんだけど、定期試験の真っ最中だったのか、他に観たいものがあったのか。
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1971年、アメリカ。
政府の肝いりで発足した研究機関のミッションを終えた無人の人工衛星スクープ7号がニューメキシコ州の田舎町ピードモントに着陸する。二人の係員が回収に向かうが、遠方から観察すると夜だというのに空にはコンドルが沢山舞っており、人口70人足らずの町は人気がなく不気味に静まり返っていた。カリフォリニアの空軍基地にあるスクープ管制室と連絡を取りながら二人は車で町に入る。無線は切らずにいるので管制室には彼らの会話が聞こえてくるが、通りのあちこちには村人の死体が転がっていると報告してきた。それはまるで歩いている途中に急に倒れた様だとも。スクープの帰還が関係している事が十分に考えられるので、車から出るのは躊躇われたが、管制室の指揮官は死体には構わずにとりあえず衛星の発見と回収に専念しろと命令した。と、突然車の急ブレーキの音がする。そして「何か白いものが」という言葉とともに二人の悲鳴が・・・。
オープニングはこんな感じです。まるでモンスター・エイリアンの登場みたいですよね。でも後で“白いもの”はエイリアンでも何でもないことが分かります。
原題【THE ANDROMEDA STRAIN】は、マイケル・クライトンが書いた原作と同じく「アンドロメダ病原体」。正確には「アンドロメダ菌株」。
宇宙から衛星にへばりついてやってきた直径2ミクロンにも満たない地球外生命体の脅威をスリリングに描いたSFサスペンスであります。この極小の生命体は瞬時に人間の血液を固まらせて死に至らしめるので、「アウトブレイク (1995)」等と同じパンデミックものと考えてもいいかも知れません。
スクープが地球外生命体をくっつけて帰ってくることは想定内だったようで、そうした場合のエイリアンの脅威に対応するためのプロジェクトも用意されていました。題して「ワイルドファイア」。
メンバーは、ノーベル賞受賞者でありワイルドファイア計画の発案者でもあるジェレミー・ストーン博士、引退時期を考え始めている病理学者のチャールズ・ダットン博士、有名な臨床微生物学者でありメンバー唯一の女性ルース・レヴィット博士、そしてマーク・ホール博士は優秀な外科医だが実際のところプロジェクトの内容から言えば専門外の人間だった。もう一人、エール大の人類学者が予定されていたが病気療養中で参加できなかった。
プロローグの後、「ワイルドファイア計画」に則り秘密裏にメンバーが召集され、まずはストーン博士とホール博士がピードモントで状況確認と衛星の回収を行う。通りの遺体に苦悶の表情はなく、あっという間の出来事だったことが窺える。家の中で亡くなっている人も多く、理髪中の椅子の上で亡くなっている人もいた。妙なのはコンドルが啄んだ傷から出血していないことだった。後で分かった事だが、遺体の血液は粉末状に凝固していた。ひとりお婆さんが家の中で遺書めいたメモを残して首を吊っており、即死でない人が居たことも分かった。
ストーンとホールが衛星を積んで帰ろうとした時、何処からか赤ん坊の泣き声がしてきた。まさか!
二人が声の聞こえる家に入ると、確かにベビーベッドに寝かされた赤ん坊が大声で泣いていた。母親は死んでいるんだろう。更に赤ん坊をヘリコプターに吊り上げようとしていると、突然一人の老人が現れた。男は片手に包丁のような持って「お前たちがやったのか?」と威嚇をしてきたが、やがてウッと呻いたと思ったらその場に気を失って倒れてしまった。この老人は白いガウンのようなパジャマを着ていた。
なんと生存者がいたのだ。しかも2名。どちらからも有益な情報が聞けそうにないのが残念だが・・・。
ここまでで上映時間は30分強。残り100分のドラマは全てダラスの砂漠の中にある農業試験場の地下施設の中で繰り広げられます。
原作は<「科学的な危機を正確かつ客観的に記録した報告書」という体裁で成り立って>いるらしく、映画も日時の挿入やら、プリンターの通信記録を打つ文字を捉えたりとドキュメンタリーっぽく見えます。しかし、昨今のそういう(ドキュメントタッチの)演出に比べると、まだまだ“語っている”カメラワークでしたね。
ピードモントの搜索シーンなどでは「華麗なる賭け (1968)」みたいな画面分割もあったりして。
ウィルス感染を防ぐために施設は五つのレベルで区分けしてあり、各レベルに移動するために厳重な除染が行われる。最初に観た時はこのシーンが説明過多でしつこく感じられたのだけど、2回目はそうでもなく、当時としてはこういう施設の映像は珍しかったのかもと考えました。後の「バイオハザード」シリーズを思い出す場面も。
まずはウィルスを見つけること。そして構造や生理を分析すること。最後は、封じ込めること。
汚染が外部に広がる危険が発生した時には、自動的に施設の自爆装置が働くようになっているのは、「エイリアン」とかでもありましたよね。「アンドロメダ・・・」でも、終盤でこのシステムが緊迫場面を作り出して大いに楽しませてくれます。
感染への危機感と、未知の生物の正体を探っていくスリル。著名な俳優がいない事でも地味な印象を受ける作品ですが、却って誰が死んでもおかしくないと思わせる効果もあったでしょう。
女性のレヴィット博士は体調万全では無いし、ホール博士は自爆装置の解除キーを担当させられてソレも気になっている。そんな個別の様子も交えながらラストのクライマックスへと進んでいきます。
130分は少し長めながら、SFファンには是非とも見て欲しい今作。お薦め度は★四つ。
尚、1971年のアカデミー賞では、美術監督・装置賞、編集賞(スチュアート・ギルモア)にノミネートされたそうです。
・お薦め度【★★★★=SFファンの、友達にも薦めて】
>2度目はそうでもないという
最初に観た時は、既視感があって、同じことの繰り返しに感じたんですが、2度目はソレゾレ内容が違っていたのに(当たり前ですけど)気づきましてネ。
>こんどオンエアがあったら
これ、TVでやってことあるんですね。
今回僕はレンタルで観ました。
ぜんぜん雰囲気が違うから、まったく気付いてなかったです。関連記事に付け足さないと…。
あの明るいミュージカルを撮った人が、こんな濃厚なSF作品も撮ってしまうなんて、さすがですね~。
>最初に観た時はこのシーンが説明過多でしつこく感じられたのだけど、2回目はそうでもなく
わたしも少ししつこいなぁと思ったんですよ。2度目はそうでもないという事で、こんどオンエアがあったら再見しようかなと思えました。
よいきっかけをありがとうございます。