はなナ

二度目の冬眠から覚めました。投稿も復活します。
日本画、水墨画、本、散歩、旅行など自分用の乱文備忘録です。

●芸「大」コレクション第一期ーパンドラの箱が開いた

2017-08-16 | Art

芸「大」コレクションーパンドラの箱が開いたー

第一期:2017.7.11~8.6

近年珍しく?、ディスプレイに凝っていない展示が逆に新鮮でした。前のシミが残っているベーシックな壁に、作品が淡々と並んでいるのみ。なのにこれだけ濃い内容の展覧会を、自前のコレクションだけで構成できるとは、さすが藝大だと感嘆しました。しかも前後期でほとんどの作品が入れ替えになります。

【名品編】、【平櫛田中コレクション】、【卒業制作ー作家の原点】、【現代作家の若き日の自画像】などいくつかのコーナーで構成されていました。

だいぶたってしまったけれど、第一期の備忘録です。お得な二回券を買っているのだけど、二期になかなか行けないでいます

【名品編】

・「月光菩薩座像」奈良時代、こんなに破損しても、欠けるものなどなにもない。むしろ深く心打たれる。

 

・絵因果経、奈良時代、国宝。8世紀の絵巻がこんなに鮮やかとは。修復を終えたのだった。お釈迦様と修行僧。木や草むら、花も細やかで、なんだかほほえましく楽しい。

 

・「小野雪見行幸絵巻」鎌倉時代、肩に藁を積んだり、天秤をかつぐ庶民と、雪を見に出た帝の一行。庶民のひく牛はなんだかしょぼく、帝の一行の牛車は、牛まで立派な顔つきだった。木に雪がこんもりのったところもお気に入り。

 

・狩野永徳「唐子遊図」安土桃山時代、子供たちが思い思いに遊んでいる。先生もちょっと手に負えない感じの元気さ。

棒で鳥を狙い、石や鷹にひもをつけて走っているのは、鷹狩りのつもりかな。子供のくるくる変わる表情まで細やかに描いている。永徳がこんなに元気な子供たちを描くとは。それでもやはり、背景の木々や山影、手前の岩などは格調高い。永徳の本物を見たのは多分初めて。「等伯」「花鳥の夢」のイメージだったけれども、細やかな感性、実直に丁寧にまとめあげて描いている。さすが。

 

池大雅「三上孝軒・池大雅対話図」江戸時代、聞いているのが大雅かな。穏やかな話しぶり、じっと目を見て聞く。二人の真摯な対話ぶり。

 

「佐藤一斎像画稿」椿椿山、江戸時代、崋山もこの人を描いている。同じく、鋭く疑り深そうな目だった。椿山は崋山の死後にこの肖像を依頼されたのかな。

 

・橋本関雪「玄猿」昭和8年、墨の濃淡の吸い込まれそうな深遠さ。潔く、しかも相当練れた人の画という感じ。

 

・菱田春草「水鏡」明治30年、高さ2.5mを超える大きな作。

ぴたりと静止し、水に映る。紫陽花の一枝をまげて持ち、弧に反発力を感じる。「水鏡」という美しい題なので、もっと美しい情景なのかと思っていたら、そうではないのだろうか。紫陽花はもう色が茶色くなり始めている。ひょいとのぞき込むような天女の顔は、水に映った自分の容色とと季節の移ろいを見ている。

 

・小林古径「不動」昭和15年、57歳頃の作。

これも2mを超える大きな作だった。古径のこのような大きな作を見たのは初めて。圧倒される。少ない線と単調な色は小さな作品とかわらない。古径は小さな草や花にさえそっと息づく精気のようなものを感じて大好きなのだけど、これはありありと目に見える形で炎が描かれている。でも冷たい炎のようにも思える。実は、いまだにどうとらえていいかわからなく、困惑している。

 

前田青邨「白頭」昭和36年、今回最も心に残ったうちのひとつ。

 なんともいえない、深い自画像。眼鏡をはずして、じっと自分の描いた絵に向き合う。結局は孤の作業なんだなと思う。絵と自分の間の大きな余白。青邨の絵との語らいと、長い年月がたっぷりとそこに。顔のひとつひとつのしわも、跡をたどるようにひかれていた。

 

・原田直次郎「靴屋の親爺」明治10年、昨年の回顧展に行かなかったのが、あらためて悔やまれる(涙)。親爺の誇りと厳しさ。

 

・高橋由一の代表作の二点、「花魁」と「鮭」を一挙公開。由一ファンなのでうれしい。

「鮭」は、だいぶ長い間干されてる感じだった。

花魁」明治5年、パイオニアの由一。

大きな顔、かんざし、伝統的な大柄の模様の着物に、まずは迫力。誰かが言っていたけれど、由一は肖像画はあまりうまくないのだと。質感描写で言っても、大好きな「豆腐」ほどの細密な質感ではないけれども、この女性の微妙な若さ、肌の骨格が見える。口紅は、もとの唇の形をおしろいで塗り隠して、かなり口角を上げて紅をつけている。化粧をして、一枚層を乗せた顔。その下に透けて見える女性の元の骨相、肉付き、(意外に)きめ細やかですべすべした肌。化粧顔と素顔、その二枚の顔を、由一は同時にひとつの顔に描きつけている(!)。そうしたら、この絵、究極の写実ってことになろうかと思う。

 

・柴田是真「千草の間天井綴織下図」明治19年、これも大好きな作ゆえここから動きたくないくらい。

藝大もきっと好きなのだろう、平成25年に光村推古書院からこういう本を出している。

 明治6年に消失した皇居の再建のために明治17年に竣工し、1945年5月に戦火で消失した「明治宮殿」の、天井の綴織の下絵。

今回は5点展示されていた。1m四方の大きな円に驚くけれど、天井を下から見上げることを想像すると、うっとり。円への収めかたが、機知に富んでいて自然で洒脱。しかも立体に見える。

「木瓜」は、匂いたつような生気。

「レンギョウ」は、繁茂する枝ぶりまで見えるよう。

「槿(むくげ)」

「朝顔・美人焦」は、もう感動してしまって。美しくて、生命感と躍動感と。

「吾亦紅(われもこう)・桔梗」違うテイストの二種を合わせると、そこの気温まで醸し出してくる。桔梗のしべには魔力すら感じてしまう。

丸い宇宙に、是真の筆のライブ感。すばらしかった。

本でほかの作も見ると、どれも円への大胆な配置におおっと驚くことしきり。このすばらしい下絵は、痛みが激しいようで、クラウドファンディングによる修復の支援を呼び掛けていたらしい。https://readyfor.jp/projects/Zeshin1747修復後の公開が楽しみです。

 

狩野芳崖「悲母観音」、これが病の中で描かれたとは。もともと力のある人が、ここまでにすさまじい執念を発揮して描ききったら、こんな作になるのかと思う。この絵に仏が宿っているような。この世ならぬところにおわすのだけど、観音様のいる世界の空気感、水中の感じ、空間までもこの背景に描き切っている。深い海の底につながっていく。

 

 

【平櫛田中コレクション】

平櫛田中の「活人箭」、「禾山笑」を見るのは何度目かだけど、改めてすごい。かまえる矢の方向の前に立つと胸が苦しくなり、禾山笑の前に立つと一緒に口が開いてしまいそうになる。

平櫛田中「灰袋子」大正二年、中国の仙人が、病気の見舞いに来た人に、腹まで見せるくらいに元気だと。指さす方向は、大きく開いた口の中へと導かれ、本当におなかの中まで見えそう。いつも外に放つオーラがすごい田中の作にあって、これはやせたおなかの中へと引きこむすごい吸引力。

 

今回は田中が購入した弟子の作品を見られるのもうれしい。これほどの田中が認めた作品っていったいどんなものなのか。田中は1944年、72歳から芸大で指導した。自作、他作含め、後進の指導のために手本として見せようと作品を購入したそう。支援のためにと購入することもあったという。

・橋本平八の二点はすごい。田中は、38歳で亡くなった弟子の平八の作品が散逸するのを防ごうと、購入した。「花園に遊ぶ天女」昭和5年は、体に桜が彫り込まれた天女。今下り立ったばかりのような足つき。体つきはまだ年端もいかないよう。でもそこが微妙に官能的なのかも。

同じく橋本平八の「西王母」昭和5年は、不思議な印象。くるりと振り向く。前に歩く足。目線は後ろに。動きのある衣服。

・大内青圃も、小さくとも、田中に負けないほどに内から発するエネルギーがすごい。「観音と餓鬼」昭和24年は、荒い削り。「童子小像」昭和12年は、丸く滑らかに削ってある。

田中太郎も、田中の弟子。「ないしょう話」昭和24年、がっちり固まった中に、どんなことが交わされているのかな。肝心の耳だけそのスクラムの外にあるのが、不思議。

 

このあたりから時間が無くなったので、駆け足に。

【真似から学ぶ・比べて学ぶ】

・菱田春草が徽宗皇帝の「猫図」を模写しているのが興味深く。古画の模写の重要性を感じ、真似とは「精神と人格まで見、真に近づくということ」とある。

 

【卒業制作ー作家の原点】

・高山辰雄「砂丘」が念願かなって見られた。後年の高山の宇宙と細胞が交感するような響きは、このころからすでになにか感じられるだろうか?と思ってしげしげと見た。

 

板谷波山「元禄美人像」、木彫を見られるとは。力強い立ち姿。なのにこの柔らかさ、つややかさときたら。

 

松田権六「草花鳥獣文小手箱」はみもの。後ろ側のししから逃げている。繊細なかわいらしさは既にこのころにも。

 

 

【現代作家の若き日の自画像】

今活躍中の作家さんの原点。卒業前に自画像を制作する習わしなのだそう。20台前半でもうそのひとらしいものが表出している。

山口晃さん、おおなるほど。

 

松井冬子さん、すでにめっちゃ怖い。ベールに透ける首の...生々しく狂気の世界。背景の霊気も怖い。

 

村上龍さん、うん。

 

平林薫さん、斎藤芽生さん、鳥山玲さん、吉武弘樹さんも、気になっている。

 

そのほかのコーナーは、【美校の仏教彫刻コレクション】、【パンドラの箱】、【記録と制作】、【藤田嗣治資料】、【石膏原型一挙開陳】、【芸大コレクションの修復ー近年の取り組み】。これらは通期のものが多いので、第二期にみよう。ちらっと見た中では、「外科室」、長谷川路可ラグーザ「黄泉比良坂」の修復等が、気にかかっている。