受法寺本堂建築誌

伝統木造工法により建築中です

受法寺本堂設計のコンセプト③                  上田建築事務所 上田 尭世

2006年11月02日 | Weblog
□ピカッとキチッとドシッと
 
ピカッとキチッとドシッとした建築づくりの手法に、手を加えるものを何も必要としない本堂造営工事でした。
 
ピカッとは深い軒の出が土佐の日射しの強さによる影に増幅され静けさを醸し出します。ハイテックな素材とローテックな素材とのぶつかりあいに生ずる切れ味はこの建築ではハイテックな素材を必要としません。それは良材への宮大工達の鉋(かんな)・鋸(のこ)・鑿(のみ)の切れが生み出す緊張感で十分です。
 
キチッとは伝統的な構法に忠実に従いました。その工法とディテールは信頼がおけます。

ドシッとは土佐の恵に覆われています。使用された恵は土佐材・石灰石・土佐漆喰・和紙・銅板・畳・瓦です。これらの恵は土佐の自然と長い時間に淘汰された信頼のおけるものです。
 
伝統がつくる形・伝統の技・伝統を生きた恵によりつくられた建築は人々の心を打ちます。
 
設計者として理屈を並べましたが、本堂造営に携わった宮大工・左官・瓦職人にとっては体に染み込んでいることばかりのようです。建築の造り方の本質を備えた職人達です。

□職人達の魂の競い合い
宮大工は木を選ぶにもその魂が質はもとより乾燥具合・癖をも選択の対象とします。大工の技は先人達が育んだ技に頼ります。
 
左官は木と宮大工の仕上げ具合に刺激を受けます。土の質はもとより養生。ヒゲコ打ち等の手の掛かる技を発揮します。職人達の魂の競い合いが質の高い建築へと導きます。
 
浜縁の床板を縁葛(えんかずら)へ引き付けるための特殊な金物(目カス)を床板の裏の彫り込みに取り付けている時、住職さんは「目カスを使用するのは設計者の指示ですか」と質問。「本工事は宮大工により行わなければならないと謳っていますが、個々の施工方法は宮大工の技に頼っています」と答えました。この手間のかかる技は宮大工の常識の範疇にあります。
 
先人より受け継いだ技を体が当たり前としています。その技は現代社会の常識である経済効率を高めるための価値観とは相反します。建築が強く、美しく耐久力を保ち続けるための価値観から生まれたものです。これは一例ですがこの価値観を持つ職人達に支えられた本堂です。
 
職人達に敬意と感謝をいたします。     (了)

「受法寺報」8号掲載記事より  写真は目カスの取り付け