夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

西側の「二重基準」は、なぜ生まれるのか?(1)

2024-08-04 10:27:59 | 社会

NHKより

 7月28日の朝日新聞「日曜に想う」に「欧米の『二重基準』がもたらす代償は」というコラムが載っている。この「二重基準」は、直接的には上のNHKの画像で分かるように、ロシアの軍事進攻とイスラエルのジェノサイドに対する西側の姿勢がまったく異なることを指している。朝日新聞は、要するに、西側の「二重基準」は民主主義国としての「説得力を欠き、正当性が失われ、ロシアや中国などの権威主義国家にとって好都合に働く」という「代償」を払うので、改めるべきだ、と書いているのだが、西側の「二重基準」は、なぜ生まれるのか、西側は、なぜ「二重基準」を行うのか、については、ひと言も触れていない。
 NHKの画像は2023年10月のものだが、これら以外にも、マスメディアは度々「二重基準」を問題にし、取り上げる。しかし、朝日新聞同様に、西側の「二重基準」は、いつからあり、なぜ生まれるのか、なぜ西側政府は「二重基準」を行うのか、については、言及しているマスメディアは皆無である。

欧米の「二重基準」は遥か以前から
 そもそも、欧米の「自由民主主義」は、第二次大戦後から始まったわけではなく、女性参政権がないなどの制限はあったものの、戦前から一定の民主主義制度は確立していた。自由も人権も一定程度尊重される政治制度はあったのである。英国では、17世紀には議会も政党も確立していたし、フランスでは1789年の革命以後、紆余曲折を経たが19世紀には完全な代表民主制は構築されていた。
 しかし、その「民主主義」はアジア・アフリカの植民地市民にはまったく適用されていなったのである。西欧列強は、アジア・アフリカに多くの植民地を支配していたが、植民地の自治権も人権も自由も、一切認めていなかったのである。アジア・アフリカ人が抵抗すれば、徹底して弾圧する。その政策は、どの欧米諸国も植民地に対しては共通していたのである。そもそも、アメリカ自体も、「民主主義」の英国の植民地だったのであり、それは戦争という武力行使でしか、解決されなかったのである。
 第二次大戦後、欧米は植民地を手放したのは、植民地側の闘争が激化し、しぶしぶ手放したに過ぎない。「自由民主主義」や人権に乗っ取って、植民地を解放したわけではないのである。
 第二次大戦後も、特に「自由民主主義」のアメリカは、ソ連に対抗するために、多くの反共軍事独裁政権を支援してきたのは、歴史的事実である。韓国の朴正熙軍事独裁政権も支援したし、左派政権をクーデターで倒し、ピノチェット軍事独裁政権を支援したチリの例を始め、中南米では頻繁にその戦略を繰り返してきたのである。
 第二次大戦後、アメリカは国内でも、「反共」を旗印に、多くの左派と見做す人物を弾圧したが、「ハリウッドの赤狩り」は、その最たるもので、そこには言論の自由も表現の自由もあったものではない。
 これらのことは、欧米の「二重基準」を如実に表している。

政治的経済的利益が常に優先する
 なぜ、欧米はこのような「二重基準」を繰り返すのだろうか? それは、実際の政策遂行にあたっては、「自由民主主義」の理念は、口先だけのは建て前となり、自国の政治的経済的利益が常に優先する政治体制が構築されているからである。
 
 15,6世紀から強国となったヨーロッパ諸国は、主に金銀や香辛料など富の直接収奪の目的で、アジア、アフリカ、南米への植民地を拡大していった。そしてそれは、資本主義の発展とともに、植民地獲得の欲求は増していったと言える。資本は自国内での本源的蓄積と略奪による蓄積を通して巨大化するが、原材料である資源の獲得と市場の開拓、さらには資本そのものの輸出が必要となる。そこで、その対象は植民地となるのだが、資本の地理的不均等発展により、その資本間競争は、発達した資本主義国家群の中での国家間の武力衝突を通して、列強の世界分割闘争が繰り広がれる。最も典型的なのが、第一次大戦である。それは、「資本主義の最終段階」とまでは言えないが、概ね、レーニンの帝国主義論どおりである。そして、「民主主義」の西欧列強政府は、この資本の要求どおりの政策を実行してきたのが、まさに歴史的事実である。

 実際、「民主主義」であれ、「権威主義」であれ、資本主義と国家の政策と切り離すのは不可能なのである。それは、近代国家の成立と同時に資本主義の根幹を成す私的所有権等が法として、国家の強制力を正当なものとして保証されてきたからである。近代国家は、生まれながらにして資本主義国家なのである。デビッドのハーヴェイの言葉を借りれば、「個人の私的所有権の『自由』とされる行使」も、「国家の強制的規制権力の集団的行使」も、「個人の私的所有権およびそれを非常に綿密に編みあわせる社会的結びつきは定義され、成文化され、法的形態を付与される。個人の法的定義と、それに由来する個人主義文化は、交換関係の増大、貨幣形態の出現、資本主義国家の発展とともの発生した」のである。(ハーヴェイ資本主義の終焉』)
 人々の社会の中で生きる生活は、資本主義から切り離すことはできない。したがって、その社会的生活をどうするのかという国家の政策も、それを意識しようとしまいと、資本主義の束縛から逃れることはできないのである。生産されたモノとサービスを商品として対価と交換することを基本とする資本主義経済から、人びとの社会的生活が成り立っているのであり、国家の人びとの生活を改善させるという政策は、資本主義システムを前提として練り上げられる。資本主義の西欧列強も、資本の増大を通じて経済成長を成し遂げるという命題から離れることはできない。そして当然のように、植民地支配から資源の強制的調達、奴隷労働を含む安価な労働力による植民地での商品生産とその輸入、植民地市場の他国資本への排他的開拓、資本輸出等から、経済成長を成し遂げたのである。そして、その結果として、「先進国」となった西欧では、極度に肥え太った資本からの「おこぼれ」だったとしも、国民もまた、その富の一部を享受したのである。
 そしてまた当然のように「遅れてきた資本主義国」のドイツ、日本、イタリアは、欧米だけに「甘い汁」を吸わせまいと、戦争によって富の分捕り合戦を始めたのは言うまでもない。
 そこでは、フランス革命が掲げたの自由、平等、博愛の近代的価値は忘れ去られ、あるのは、強者が弱者を踏みにじる「自由」だけである。

 第二次大戦後、弱者である植民地側は武力による抵抗で、世界戦争による疲弊と戦争への恐怖から相対的に弱体化した西欧から、多くの国は独立を果たし、自治権を確立した。そして西欧は、植民地側の独立ともに現れたソ連を中心とする「共産主義」と政治的経済的利益を争い、自らを強化する必要に迫られ、「共産主義国」が同盟を作り始めたのと同様に西側の同盟国を結成する。(「共産主義国」が「」つきなのは、マルクスが掲げてた共産主義と「現存した共産主義(社会主義)」の実態とは、多くの矛盾があるからである。)

イスラエルも西側同盟国 
 この同盟国は、アメリカ・カナダと西欧のNATO諸国、アメリカの軍事同盟国の日本、韓国、オーストラリアなのだが、イスラエルも同様の西側同盟国なのである。
 千年以上にわたるヨーロッパ諸国のユダヤ人迫害から、ナショナリズムの世界的高揚とともに、19世後半にユダヤ人が彼らの故郷とするシオン(パレスチナの古名)に建国運動が起きた。それは、現に居住していたアラブ人との対立を生み、第一次世界大戦以来、委任統治していた英国が国連に解決を一任した。 国連では、1947年に、パレスチナを二分し、ユダヤ・アラブの両者の区域が混在するパレスチナ分割案勧告決議が成立した。
 その後もイスラエルとアラブ世界は、多くの戦争を繰り返したが、イスラエルは財力と欧米の軍事を含む強力な支援による軍事力でアラブ世界を圧倒した。ソ連の崩壊によるユダヤ人の大量帰還もあり、イスラエルの人口は増大し、国連決議違反のパレスチナ人を居住地から追い出し植民する方策を強く打ち出し始めた。
 欧米は、過去においてユダヤ人を迫害し、ドイツに至ってはホロコーストまで行ったことの贖罪があり、また、ユダヤ人は欧米に数多く居住し、ユダヤ資本という言葉があるように、欧米のユダヤ人の財力は国家の政策に影響する。
 アラブ世界は、イランなどのシーア派とサウジアラビアなどのスンニー派と宗派的覇権を争っている(実際には二つの宗派に属する人びとは国家内に混在する)。君主制を採るスンニー派諸国は、欧米資本に宥和的で、欧米資本の利益に多くの場合、合致するが、逆に、シーア派諸国は、イランに見られるようにイスラム共和主義を掲げ、キリスト教の欧米との対立を鮮明に打ち出し、欧米資本はその活動に制限を余儀なくされる。それらのことから、欧米はサウジアラビアなどに米軍が駐屯するようにスンニー派諸国とは友好的だが、パレスチナ人支持が濃厚なイランなどとは、欧米は敵対している。そこでの対立軸は複雑にからみ合っているが、欧米は、ユダヤ国家とユダヤ人を擁護する以上、イスラエルは西側同盟国であり、イスラエル寄りの国策を採らざるを得ないのである。
 
     (つづく)
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現実を無視し、ますますウクライナを自滅の道に追いやるNATO

2024-07-28 08:44:36 | 社会

ウクライナの破壊された街で使えそうなものを集め、その残骸を入れた袋を引きずる男性(AFP)

 7月、NATOは、ワシントンでの創立75周年の首脳会議で、ウクライナへの継続した軍事支援を約束し、ウクライナのNATO加盟は「不可逆な道」だと宣言した。
 それらのことに関し、アメリカ政治ニュースサイトPoliticoには、「NATOの偽りの約束はウクライナの誤った期待を助長する」という記事が掲載されている。投稿者は、アメリカのシンクタンクであるクインシー研究所のクリストファー・マッカリオン、ベンジャミン・H・フリードマン 等である。
 NATO諸国の軍事支援があるものの、現実の戦争は、ロシア軍が攻勢を強め、ウクライナは破壊されていく一方なのである。ウクライナ側は、散発的にクリミア半島やロシア領内の主に軍事施設を攻撃しているが、ロシア軍の攻勢を食い止めることには繋がっていない。

絶対に踏み込めない一線
 NATOは、ウクライナが勝利するための強力な兵器の供給を口にしているが、ロシア領内の深部への攻撃は、認めていない。軍事支援は、あくまでもロシアの進攻を止めるためのものであり、ロシアを破壊するためではない、という建前のせいであり、ロシア政府が、ロシア領への攻撃をNATOが支援していると判断すれば、それを止めるためにNATO諸国を直接攻撃をしてくることを恐れているためである。現に、度々プーチンはそれを警告している。
 ウクライナの提供された長距離ミサイルで、許される範囲内のウクライナ国境近くのロシア軍を攻撃しても、ロシア軍は、ウクライナから離れた軍事施設から攻撃すればいいのであって、ロシア軍の攻撃を止めることはできない。国境を越えてくる歩兵部隊を攻撃できるというが、それを攻撃するのはミサイルである。ロシア軍は、爆撃戦闘機から滑空ミサイル等で攻撃してくるため、空軍に防御されたミサイル施設が必要で、ウクライナ空軍にはその能力はない。
F16等の新鋭空軍機も供与されつつあるが、空軍機どうしの戦闘は、高速のため国境をまたぐが、それはロシア領内での戦闘を意味し、当然、その使用は、慎重にならざるを得ない。端的に言えば、ロシア領内での空中戦は、その残骸はロシア領内に落下し、ロシア側の住民の多大な被害を招く。そうなればロシア側は、NATOがロシア領攻撃に加担したとして、NATOとの直接戦闘の危機は大幅に増大する。ロシアと直接交戦は避けることが至上課題のNATO諸国の支援には、絶対に踏み込めない一線が存在するのである。
「ウクライナの支援者と自認するアナリストたちは、核戦争にエスカレートする可能性は低いため、西側諸国は『核脅迫』に屈してはならないとしばしば主張する。しかし、『核脅迫』の正確な名称は『核抑止力』であり、それは災害が起こるという確信を必要とせず、起こるかもしれないという恐怖のみを必要とする。これらの評論家たちは、ロシアを抑止する能力が、ロシアに抑止されるという重荷から私たちを解放すると信じているようだ。衝突のリスクが相互に関係していることを理解せずにチキン・ゲームをするのと同じ」なのである。

NATO諸国の兵器製造能力は、既に限界
 NATOはウクライナが必要な兵器弾薬を供与すると言うが、現在のNATO諸国の兵器製造能力は、既に限界に近い。実際に起きているような消耗戦は想定されていないので、例えば、砲弾の製造企業は多くなく、フル稼働しても供給は追いつかない。兵器弾薬をさらに大量に製造するためには、軍事産業自体を巨大化し、必要な量を製造させなければならない。させねばならない。それは当然のように、さらなる軍事費の増加が必要となり、その方針を全面に出せば政権は選挙で勝てるはずはなく、現在でも起きている政治的急変を引き起こす。それに対し、ロシアは既に戦時経済体制を構築している。NATO諸国が強力な兵器を供給すれば、それに応じて、ロシアも強力な兵器を投入できる政治経済体制が構築されている。勿論、それは西側が権威主義体制と言うように、プーチン政権の強権的性格が可能にしている。だから、プーチンは余裕の笑顔を度々見せるのである。

兵員不足は解決できない
 さらには、例え、ウクライナが必要とする軍事力を供給できたとしても、ウクライナには戦う兵士が不足している。英BBCが、その状況を伝えている。
 そこには、徴兵を忌避するウクライナ人男性を、否が応でも引きずって軍隊に入隊させるウクライナの徴兵部隊の様子が描かれている。「5月に施行された新法では、25歳から60歳までのすべての男性に、召集に備えて電子データベースに自分の詳細を記録することを義務付けている。兵役を望まない男性を潜伏させるケースが増えているので、徴兵担当官は登録を逃れる者を捜索している」という。「『盗賊』にたとえられる徴兵官に「捕まる」のが怖い 」と徴兵忌避者は言う。お国のために戦え、と言われても、そこには確実に死か重症が待っている。軽傷を負っても、傷が治れば何度でも徴兵されるからである。土台、お国のために喜んで死ぬ、と言う者は、多いはずはない。

「ウクライナのNATO加盟」は絵空事
 NATO首脳は、ウクライナのNATO加盟は「不可逆な道」だと言うが、この「ウクライナのNATO加盟」自体が、ロシア側の絶対に容認できないことであり、ロシアの反発を引き起こす最大の要因なのである。それは「ロシアが2021年12月に提出した条約草案や、2022年3月と4月に行われたイスタンブール交渉と同様に、いかなる解決策も必然的にウクライナがNATOに加盟しないことを条件としている。」そのことは、NATO首脳も暗に理解していることであり、NATO加盟への時期や方法といった具体的な道筋をまったく言及していないことにも表れている。
 ロイター(7月17日)によれば、元大統領のメドベージェフは、「ウクライナのNATO加盟は、ロシアへの宣戦布告」だと言ったが、そのためにロシアは戦争をしているのであり、「ロシアにウクライナの加盟を阻止するために紛争を長引かせる動機を与えることに」しか繋がらない。

 プーチンはさえ失脚すれば(恐らく、ゼレンスキーの失脚の方が早いだろう)、ロシアは侵攻をやめるなどと考えるのも、現実を完全に無視している。独立系のメディアの世論調査でも、「ロシアは勝たねばならない」というはロシアは国民は70%から80%にのぼる。メドベージェフ元大統領のように、プーチンより強硬な政治指導者は数多い。
 もし本当に、軍事力でロシアの進攻を止めると考えるならば、ロシアの軍事経済体制をも破壊しなければならない。それは、第二次世界大戦での日本やドイツのように、国土を完全に破壊するということである。勿論、その時は、核戦争になり、ロシアも西側も完全に壊滅する。

 結局のところ、NATO諸国は、「(ウクライナに)偽りの希望を与え、和平の可能性を低くし、戦争をより危険なものにしたのだ。別の種類の、現実主義に満ちた首脳会談であれば、ウクライナは自らが定義してきた勝利という壮大な意味では勝利できないこと、そしてNATOはウクライナを守らないことを認めただろう。」 

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NATOのロシア・中国敵視政策に同調し、戦争準備に突き進む日本政府

2024-07-21 11:02:12 | 社会

NATO首脳会議
 
 2024年7月11日、首相の岸田文雄は、NATOの首脳会議に韓国などのアメリカの軍事同盟国とともに出席し、 ウクライナ支援や情報の安全保障に分野で協力し、NATOがインド太平洋地域に関与し始めたことを歓迎、対ロシア・中国への対抗で結束すると訴えた。このことは、日本政府がロシア・中国敵視のNATOと価値観を共有し、共同で軍事力強化を目指すことを宣言したこを意味している。

役目を終えたはずのNATOの復活
 NATOは、1949年ソ連とその同盟国(ソ連が軍事力により併合したとは言え)に軍事力で対抗する目的で設立された。故に、ソ連・東欧の政権崩壊によるワルシャワ条約機構が消滅した時には、当初の存立意義を失った。そこで、存続を可能にするために、米ソ首脳が冷戦の終結が決定的となった1989年末の米ソのマルタサミット以降、NATOは存立意義自体を変更することにしたのである。1990年、NATO首脳会議は「我々は安全と安定が軍事の次元のみに依存するものではないことを改めて確認するとともに、北大西洋条約第2条に規定される政治的要素の強化に努める所存である」と宣言した。つまり、純粋な軍事同盟から「国際同盟の ための政治枠組み(political framework for an international alliance)」へと変更したのである。ソ連(後にロシ ア)を「敵」とは規定せず、ヨーロッパ全体の安全保障を目指すというものである。
 しかし、この政治的枠組みとはNATO諸国が掲げる「自由民主主義」を推し進めることが含まれるが、この「自由民主主義」には、常にNATO諸国の経済的利益の確保が裏に隠されている。端的に言えば、欧米資本の利潤追求のことである。
 ソ連が崩壊し、その支配から逃れた東欧は、西側諸国の政治的経済的利益の追求の場となり、東欧諸国政府も経済の発展のために急速に接近した。現在でも、東欧は西欧の安価な労働力の供給源であり、商品の消費地でもある。 

熊の目をつついたNATO 
 NATOの「政治的枠組み」は、当然ながら政治経済の結束も意味し、NATOの東方拡大が自然な流れとなった。この東方拡大は、冷戦期のアメリカの政策立案に関与したジョージ・ケナンなど多くの外交官が恐れたとおり、ロシア側には、「封じこめ」と見做され、反発を生む危険性があった。この「反発」がプーチン政権の最悪の選択である、ウクライナ軍事侵攻を誘発した一因であるのは、客観的で合理的な見方である。勿論、それだけが原因ではなく、ソ連時代の国家資産を略奪したオルガルヒを中心としたロシア資本の利益追求と周辺国に対する政治的支配を維持したいという「帝国主義」的願望が入り混じったものが、そこにあるのは明白である。裏を返せば、ロシアが政治的支配を維持したい周辺国であるウクライナやジョージアの西側化の象徴である西側の軍事攻勢とも言えるNATO拡大に、ロシアの反発するのは当然の心理である。それは、正当性があるかないかという問題とは別であり、正当性があろうとなかろうと、ロシアの「反発」という心理を覆すことなどできない。
 もし仮に、メキシコの左派政権が中国と軍事条約を結び、中国軍がメキシコに駐留することになれば、それをアメリカはメキシコの自由な選択だなどとは、絶対に言わないだろう。それは、キューバにソ連のミサイルが運び込まれた時、アメリカは最大級に反発したことでも分かる。その時は、当然にも、世界大戦の危機を迎えたが、それと同様なことが、西側がどう思おうと、ロシアに起きていると、ロシアは認識しているのである。
 
 ロシアの軍事侵攻以降、NATOは結束し、ひたすら軍事力の増強の必要性を強調するようになった。しかし、NATOの東方拡大がロシアの反発を生んだことを指摘し続けているアメリカのリアリズム政治学者であるジョン・ミアシャイマーは、西側が「凶暴な熊(ロシア)の目をつついた」と表現したが、目をつつかれた「凶暴な熊」が怒り狂い、無謀な軍事侵攻を始めたのであり、「凶暴な熊」であるロシアを怒らせたのは西側なのである。その結果として、ロシアからの防衛上、軍事力の増強が必要になったのである。
 
重くのしかかる軍事費の増大
 NATOに加盟するヨーロッパ諸国は、これまでのGDP比2%という目標を上回る防衛費(軍事費)を余儀なくされた。しかし、それでもまだ足りず、防衛費(軍事費)の上乗せを要求される羽目に陥っている。
 NATOの軍事費の40%近くを負担するアメリカの大統領に、ドナルド・トランプが次期大統領に就任することが濃厚な状況になった。そのトランプは、ヨーロッパ諸国の軍事費負担の増額を強力に要求している。
 NATO事務総長のイェンス・ストルテンベルグは、7月19日、BBCのインタビューに答え、「欧州は10年続くウクライナ戦争を覚悟すべきだ」と言い、トランプのNATO離脱意向の報道に対し、アメリカは「欧州に軍事負担増を要求しているだけで、(それに欧州が応えれば)NATOに残るはず」だ答えている。
 また、トランプの副大統領候補のJ・D・バンス は、アメリカの真の敵は中国で、「ウクライナなど知ったことではない」とまで言っている。
 結局、終わりの見えないロシア・ウクライナ戦争に軍事支援でロシアを撃退する方針を変えないヨーロッパ諸国は、上限が見えない軍事費の増額を余儀なくされているのである。

ヨーロッパ諸国の政治急変
 実際、ウクライナへの軍事支援に最も熱心なのは、中道勢力である。アメリカファーストを掲げるトランプ同様に自分さえよければいいという極右は、ハンガリー首相のオルバン・ビクトルのように、支援を渋っている。左派も、中道左派を除き、NATOの軍事支援の増強には反対している。

 軍事費の大幅に増額するためには、増税を実施しなければならないが、増税を打ち出せば、選挙に負けるのは必至なので、増税路線は選択できない。そこで、国の借金で軍事費を賄うという選択をせざるを得ない。しかしそれは、中道両派が一貫して作り上げてきた財政の健全化を破壊する。また、社会福祉予算を減額せざるを得ないが、それも既に崩れかけているヨーロッパ諸国の福祉国家社会を破壊する。

 アメリカのバイデン政権並みにウクライナ軍事支援に積極的だった英国保守党は、(経済力の大きいドイツが、金額面ではアメリカの次だが)総選挙で大敗した。また、フランス軍の派兵まで言及した大統領エマニュエル・マクロンの中道与党連合は、左派と極右の間で、国民の支持を失っている。
 これらのことは、中道両派が常に多数派を形成してきたヨーロッパ諸国の政治地図を、激変させる前触れだろう。
 
 アメリカの強い影響力から、NATOは東方へ拡大し、ロシアの玄関まで到達した。それは結局、ロシアとの対立を激化させたが、アメリカは、そこから逃げつつある。梯子をはずされたヨーロッパ諸国は、極右が台頭し、今までの福祉国家も財政も、反差別主義も人権も、何もかも、壊れつつあるのが現実なのである。

NATOのロシア・中国敵視政策に同調し、戦争準備に突き進む日本政府
 冷戦終結で当初の目的を失ったNATOが、完全に復活した。そこには、世界を敵味方に分割し、ひたすら軍事力でのみ、外交問題を解決しようとする姿勢がある。それは勿論、もともとアメリカのネオコンの主張であったのだが、それがアメリカの軍事同盟国である西側全体で支配的になりつつある。日本政府も、それに完全に同調し、軍事力の増強に余念がない。行きつく先には、破滅の世界戦争が待ち受けている。それに抵抗する力が、人びとにあるのかないのか、それが問題なのである。


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極右の台頭に、左派は違いを乗り越え団結し、「人民戦線」方式に戻るしかない

2024-07-07 10:21:59 | 社会



急遽決まった国民議会選挙 
 フランスのマクロン大統領が、欧州議会選の敗北を受けて実施したフランス国民議会選挙は、予想通り、マクロンにとっては惨憺たる結果になった。6月30日の第1回投票で、極右の国民連合Rassemblement national:RN は、33.15%の得票率で1位に立ち、2位はフランス左派が結集した「新人民戦線」noubeau Front Populaire:NFPで27.99%、マクロンが構築した党「再生」Renaissance:REを中心とした 与党連合は20.04%と3位に終わったのだ。
 フランスの国民議会選挙は、得票率で過半数を制した候補者がいない場合、12.5%以上獲得した候補者によって第2回投票が行われるが、少なくとも、第1回投票の結果だけを見れば、「惨憺たる」結果と言える。

 そもそも、マクロンの目算は、欧州議会選は比例代表制だが、国民議会選は小選挙区制で、過半数を超える得票がなければ、決選投票で勝敗が決まる。フランスの議会選は、過去において、概ね90%が第2回投票まで進む。そこで、マクロンの党「再生」Renaissance:REを中心とした 与党連合が小選挙区で12.5%以上得票できれば、決戦投票に残れる。極右の支持者は国民の半数に満たないので、極右を嫌う層が与党連合に投票し、十分勝利できる見込みはある、というものだった。
 しかしこの目算は、中道のマクロンだけではなく、左派にも同様の勝利への可能性が見いだされることになる。恐らく、マクロンの中道派は、極右RNに次ぐ得票を予想していたのだろうが、2位になったのは、左派のNFPだったのである。極右RNは、2022年の国民議会選挙で得票率18.7%から今回33.15%へ大きく伸長させた。しかし、左派も、前回より得票率で2.2%、絶対数で50万票増加させているのである。
 マクロンは、左派がこれほど短時間で結集するとは予想していたのだろう。実際、この左派の短期間の結集は、多くのマスメディアや他の政治勢力を驚かせたものだった。今回、左派の中心となっているのは、「不服従のフランス」La France insoumise :LFIなのだが、他の左派、社会党、共産党、環境派、その他の極左少数派とは、絶えず反発しあっていたからだ。
 今回も、LFI内部でさえも、党首級のジャン・リュック・メランション とは、意見を異にする現議員数人を選挙候補リストから外したことが、火種になっている。また、社会党は、中道左派から右派に転向したと批判される元大統領のフランソワ・オランドが候補リストに名を連ねたことも、他の左派から批判を浴びている。
 
極右に対抗するには「新人民戦線」しかない
 左派が台頭する極右に対抗するには、「人民戦線」しかいない。そのことを最左派のメランションから中道左派オランドまでが悟ったのである。
「人民戦線」とは、反ファシズムで左派が結集した、歴史的な1936年のフランス人民戦線のことである。スペインでもファシストのフランコ派に対抗して人民戦線を成立させたが、フランスでは、社会党、急進党、共産党、労働組合、市民運動が大同団結したもので、結果として総選挙で勝利し、レオン・ブルム社会党政権を成立させた。今回には上記の左派に、環境(緑)左派が加わっている。

 もともと、政治的な志向を表す右と左という言葉は、その政治姿勢を一直線上に並べた、ひとつの目安のようなものだ。急進的、直接行動主義的な左右を、極右、極左と呼ぶが、それ自体にいい悪いの価値基準を表しているのではにない。おおよその政治姿勢を、理解しやすいように一直線に並べただけであり、中央に位置するのが中道派なのである。だから、右は右としてのおおよそ同じ志向を持ち、左は左としてのおおよそ同じ志向を持つ。
 本質的な意味で、政治的な立場を表す左gaucheとは、ノルベルト・ボッビオの言うように、何よりも人びとの不平等を許さないことを基本的立場とする勢力または思想のことである。その不平等は、社会構造・システムに起因するもので、第一に社会階級であり(社会階級、または社会システムを問題にしないのがいわゆるリベラルである)、人種、性別、性的指向、その他に関するものを対象としている。その平等的社会への進め方に、さまざまなやり方が考えられ、その違いから多くの党派が存立し、互いに批判を繰り返す状況を生む。
 しかし、この平等的社会への志向は、進め方は異なっていても、方向性は同一なのであり、現にある不平等に対して、共闘の余地は、常に存在する。だから、左派は共闘が可能なのである。それは、かつて日本の社共共闘を日本共産党の宮本顕治は、最終地点が異なっても行く方向が同じならば、同じ列車に乗れる、京都行きも大阪行きも東京から同じ新幹線に乗れる、と言ったが、例えればそのようなものだ。
 

 特にヨーロッパで極右が台頭しているのは、現実のヨーロッパ社会が多くの人びとにとって、生きづらいからである。物価は高騰し、賃金は上がらず、他者との競争は激化し、挙句に地球温暖化で自然災害は頻発する。どう考えても、以前より生活は苦しくなり、このままでは将来は現在より悪くなる、と人びとが考えているからである。一向に良くならない現実に、現行の政治にも、ノーを突きつけたくなる。だから、現政権は軒並み支持を失う。
  極右は、この苦しい現状をある特定の人たちのせいだと言う。アメリカで言えば、極右に属するトランプは、民主党が属する中央のエリート集団のせいで、アメリカはひどい状態になったと言い、ヨーロッパの場合は、最も多いのは、移民のせい、あるいは、異教徒のだと言うのだ。現に移民は増加するばかりで、文化の違いも際立ち、多くの軋轢を生んでいるのは確かなことだ。「昔は良かった」と感じる多くの庶民階層に、極右への支持が増大するのは、自然の流れでもある。
 しかし、極右が政権入りしても、事態が打開されるわけではない。現に、極右のジョルジャ・メローニが首相となったイタリアでは、経済は悪化するなど悪循環から抜け出せない。メローニは、その混乱に乗じて、首相の権限を強化し、議会権限を縮小して、権力集中への憲法改悪に乗り出す始末だ。イタリアでは、労働者を中心とする庶民階層の利益を擁護する、かつて西欧最大を誇ったイタリア共産党は左翼民主党に党名変更し、その後事実上消滅した。そのため、イタリアでは、一定の勢力のある左派が存在しない。そのことが、極右の台頭を抑えられない最大の要因になっている。
 NFPの政権計画は、生活必需品の価格凍結、最低賃金の1,600 ユーロ(月額)への引き上げ、定年年齢の64 歳への引き上げ撤回など、最初の15 日以内に講じるべき緊急措置や、企業の超過利益への課税、環境要素を強化した富裕税を再導入などであり、また、イスラエルのパレスチナ人迫害をやめさせ、中東の平和構築を目指している。これらのことは、極右と競合する支持基盤である庶民階層の生活改善策に集中しており、十分に極右に対抗できる政策である。
 
 現に起きている社会の混乱・悪化を招いている中道政権に取って代わる勢力は、中道より右か左でしかあり得ない。それに気づけば、左派は違いを乗り越え結集するしかない、その結果が新人民戦線なのである。

 7月7日の決戦投票直前の世論調査では、過半数を制する勢力はなく、やはりRNは相対的に第1党になり、NFPがそれに続くと予想されており、恐らくは現実もそのとおりになるだろう。まだまだ、政治的混乱は収まりそうもなく、五里霧中の政治情勢は続くだろう。しかしそれでも、左派が結集し、極右の台頭を抑え込む、それ以外の道はない。




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ロシア・ウクライナ戦争 NATOの参戦が着々と進み、泥沼の戦争は終わらない

2024-06-08 13:31:04 | 社会

アメリカ軍の榴弾砲(BBC)

NATO諸国の直接的戦闘関与が進む
 ロシア・ウクライナ戦争へ、NATO諸国の直接的戦闘関与の動きが進んでいる。5月30日、アメリカのジョー・バイデン大統領 は、アメリカが供与した兵器でウクライナがロシア国内の標的を攻撃することを限定的に認めた。ただし、標的は北東部ハルキウ州周辺に限るという。そして、ドイツの ドイツのヘーベシュトライト政府報道官は31日、ロシアの侵攻を受けるウクライナが、自衛目的で独政府が供与した武器でロシア領を攻撃することを認めたと発表した。 それ以前に、英国、フランスは、同様にロシア領への攻撃を認めている。さらに、かねてから、フランス軍のウクライナ派兵の必要性を強調していたフランスのマクロン大統領は、30日に訓練教官をウクライナに派遣する計画を明らかにした。オランダのハンケ・ブルーインス・スロット外相も31日、ウクライナが供与されたF-16戦闘機でロシアの軍事目標を攻撃することを許可し、 「自衛権があるなら、武器の使用に国境はない。これは一般原則だ」と述べた。 
 NATO諸国は、ウクライナへ最新兵器を供与しても、その兵器を使用し、ロシア領土内を攻撃することを許可してこなかった。ロシアが、その動きをNATOの参戦と捉え、直接交戦に発展することを危惧したからである。しかし、ウクライナの劣勢は続き、現状では好転する見込みがないため、直接交戦の危険性を犯してでも、一歩踏み込んだ軍事支援を行わざるを得なくなったのである。

ロシア軍の再編・強化
 このロシア領内へのNATO供与の武器攻撃の許可を始め、さらなる軍事支援強化には、ウクライナの劣勢の原因が、砲弾不足に見られるように、ウクライナが使用している武器・弾薬の量と質がロシア側より劣っているからであり、それをNATO諸国がロシアに負けない質と量を供与すれば、ウクライナ軍は挽回でき、ロシア軍を排撃できるという前提がある。しかし、それが可能なのだろうか?

 アメリカ国防省専門ニュースサイトDefense Newsは、「『彼らは復活した』:ロシアはいかにして西側諸国を驚かせ、軍事力を再建したのか」という記事を載せている。
  2022年2月の進攻当初、プーチンは完全に判断を誤り、ウクライナのキーウ政権は短期に崩壊すると見込んでいた。だから、ウクライナを軍事占領できるほどの強大な軍事力を持たずに、狂気に満ちた「特別軍事作戦」を実行したのだ。その脆弱な軍事力は、すぐに露呈し、ウクライナ軍の反攻で、戦況はロシア側に極めて不利なものになった。
 しかし、2024年にはロシアは、「彼らは復活」したのである。アメリカ軍最高司令官のCQブラウン将軍が言うように、「ロシアは積極的に軍事力を再編した。」  のである。
 それは第一に、軍事生産能力の「西側諸国を驚かせる」ほどの強化である。ロシアは、国防費を3倍に増やしたが、NATO諸国より低賃金なので、軍事産業従事者も20%増加し、アメリカと比べても、より多くの兵器弾薬を購入でき、装甲車両、ミサイル、砲弾等を急速に増大さることができた。
 第二に、それを可能にする「ロシアが金銭的制裁を回避する能力を持っていること 」であり、西側の制裁にもかかわらず、GDPを2023年には3%増加させるなど、戦争継続経済体制を作り上げた。
 第三には、徴兵制の強化・拡大による兵力の増強であり、プーチンの強権体制が、それを速やかに可能にしたのである。
 一部の報道では、現在のロシアの砲弾の製造能力は、アメリカを含む全NATO諸国の砲弾製造能力を上回るというものもある。これらの報道は、ほとんどが確認がとれないものであり、未確認に属するが、ロシアの戦争継続体制アは、西側諸国が予想しているものより、強化されていることに間違いはない。
 
確実なのは、泥沼の戦争が終わらないことだけ
 2022年3月~4月に、ロシアとウクライナのイスタンブールでの和平交渉は、ほとんど決まりかけたが、英国のボリス・ジョンソンがキーウを訪問し、戦争を継続するよう説得したことは、複数の報道で明らかになっている。
 2024年4月27のドイツ誌Die Weltは、その詳細情報を入手し、掲載している。ロシアは領土の征服ではなく、国境に関する安全保障の保証を求め、そこで要求したのは、ウクライナの「永世中立」だという。具体的には、すべての軍事同盟を放棄し、ウクライナ領土への外国軍の駐留を禁止し、兵器を削減するが、欧州連合加盟の選択肢は許容する。その見返りとして、モスクワは2月24日以来占領していた地域から軍隊を撤退させ、ウクライナへの攻撃を止め、キエフが要請した安全保障支援メカニズムに同意する。ウクライナへの侵略があった場合、国連安全保障理事会のメンバーが防衛にあたる。 (Le Monde diplomatiqueから引用)
 この和平が達成されていたら、現在の戦争はなかったことになる。それを妨害したのが、ボリス・ジョンソンなのである。ジョンソンのキーフ訪問には、アメリカ政府の意向もあったことが報道されているが、その判断は、今となっては、ロシア軍の実力の過小評価よることは明らかだ。
 ウクライナへのNATO諸国の軍事支援で、短期間でロシア軍をウクライナ領土から排撃できると、英国もアメリカも考えたのだ。だから、和平案では、ウクライナの一部地域にロシア領となることになるが、それを軍事力で排除できると考えたのである。それが、2年経過した今では、むしろウクライナ軍は劣勢に置かれており、「勝てる見込み」などまったくない。
 それでも、NATO諸国は軍事支援の強化で、ロシア軍のウクライナ領土からの排撃を目指している。ここでのウクライナ領土には、ロシアの侵攻前の、1954年以前にはロシア共和国の管轄だったクリミア半島も、ロシアに親密性のあるウクライナ人で構成するドンパス地域も含まれる。
 軍事支援だけでロシア軍を排撃できるという見通しは、2年間は完全に誤算だったのだが、今後のさらなる軍事支援の強化でも誤算でないという保証はまったくない。それが誤算ならば、第三次大戦を覚悟したNATO軍の派兵しか道はない。
 NATO諸国も、ロシア並みの軍事優先政策を採り、戦闘機を含む大量の最新鋭武器弾薬をウクライナへ供与すれば、数年後には、ウクライナ軍はロシア軍を排撃できるかもしれない。しかし、NATO諸国は社会福祉予算を激減させ、軍事予算に充てなければならない。例え、ロシア軍がウクライナから撤退したとしても、ロシア・NATO諸国の軍事的対立はなくなるどころか、ロシアは国家の存亡を賭けて、軍事力の強化に励むだろう。それは、指導者がプーチンでなくとも、同じことである。この戦争が、プーチンであってもなくても、NATOのロシア領接近という、ロシア側が抱く脅威が根底にあるからである。
 始めたのはロシアであり、その責任を免れないとしても、そもそも、最悪は核兵器も応酬の危険性をはらむこの戦争に、勝者などないのである。確実なのは、西側が支援するウクライナ人は死に続け、国土は破壊され続けるということだけである。
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